クリント・イーストウッド監督、モーガン・フリーマン製作総指揮、27年間も投獄生活を余儀なくされた南アフリカネルソン・マンデラと南アフリカ代表のラクビーチームを主人公に描いた感動の実話。アパルトヘイトも過去のことになりつつある南アフリカで、しかしまだまだ戦いは続いているのだ。
【予告編】
映画 インビクタス/負けざる者たち 予告
【あらすじ】
1994年、南アフリカ共和国初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラだが、新生国家の船出には多くの問題があった。ある日、ラグビー南ア代表の試合を観戦したマンデラの頭の中で何かが閃いた。南アではラグビーは白人が愛好するスポーツで、黒人にとってはアパルトヘイトの象徴。しかし、1年後に南アで開催されるラグビーのワールドカップで南アのチームが勝てば、それが人種間の和解につながるかもしれない…と。(「goo 映画」より)
【レビュー】
初めてアパルトヘイトの実態を知ったのは、高校生の頃、とある集会で見た「遠い夜明け」がきっかけだった。この映画は南アフリカの黒人解放活動家 スティーヴ・ビコと白人記者 ドナルド・ウッズとの交流を描いたもので、アパルトヘイトによる黒人の弾圧がどんなものだったかが描かれている。僕はその集会を通じて、まだ投獄中だったネルソン・マンデラの存在やアムネスティの活動を知ったのだ。
アパルトヘイト政策というのは、当時、南アフリカで行われていた人種差別政策。少数の裕福な白人たちの支配を安定化させるために、黒人を最下層に有色人種をいくつかのランクに分け、そのランクごとに居住区や移動可能範囲を分け、市民としての権利、参政権、婚姻に制限をかけるというものだ。ちなみに南アフリカの最大の貿易相手国の1つだった日本は「名誉白人」という、ばかげた扱いをうけ、白人向けのホテルやレストランを利用することができた。
非常に差別的な扱いを受けていた黒人たちであったが、恐ろしいことにそれを当然のことと受け入れていた者も決して少なくなかった。それは彼らがまっとうな教育を受けていなかったために、今置かれている状況に疑問を持たなかったり、あるいは諦めてしまっていたからだった。だからこそ、こうした差別問題においては「教育」の問題がとりだたされる。
その一方でこうした不当な人種隔離政策に抵抗をした有色人種たちもいる。それがネルソン・マンデラが属するアフリカ民族会議(ANC)だ。しかしネルソンマンデラは反アパルトヘイト活動がきっかけで、1964年、国家反逆罪に問われロベン島に投獄される。そしてそれから27年間獄中での闘争が始まるのだ。
各国の経済制裁もあって、当時のデクラーク大統領はアパルトヘイトは廃止を決定する。この結果、参政権は白人だけでなく全人種にまで拡大され、総選挙の結果、1994年にはネルソンマンデラが大統領に選ばれることになる。
この映画はその後の物語だ。
ネルソンマンデラが初の黒人大統領に選ばれた時、彼が直面したのは、様々な国内外に直面する政策以上に、白人と様々な人種との融和だった。
黒人の側からすれば、ようやく手に入れた政権であり、白人たちは信用できない存在だ。これまでやられたことに対する「仕返し」をしたいという気持ちを持つ者もいるだろう。それに対しマンデラは「過去は過去」と言い切ってしまう。融和の中に未来はあるのだ、と。
前政権に使えていた白人官僚たちに対してもそのまま新しい国づくりに参加することを求め、ホディガードたちは黒人と白人の混合になる。
それはスポーツについても同様だ。紳士のスポーツとして白人たちはきれいなグランドでラクビーにいそしんできたが、黒人たちはポール1つでどこでもできるサッカーに慣れ親しんできた。そのためラクビー代表チーム・スプリングボクスとそのチームカラーはアパルトヘイトの象徴のように映っており、その変更を求める声があがった。
これに対してマンデラはこのまま変更に反対する。彼にとっては、「スプリングボクス」こそ白人たちにとっての誇りであり、この代表チームの活躍を通じて「国」を1つにまとめ、また対外的にもアピールできると考えたのだ。
そしてその想いは、スプリングボクスの主将・フランソワ・ピナールに受け継がれる。
当時、国際試合への出場禁止となっていたスプリングボクスは弱小チームだった。マンデラからお茶に招待されたピナールは、そこでこのチームに求められていることがただの「勝利」ではなく、人種の垣根を越えてこの国を1つにまとめ「優勝」することだと悟る。そしてその想いをチームへと伝えていく。
彼らを突き動かしたものは何だろう。
1つはマンデラの不屈の精神、27年間もの間、投獄されながらも南アフリカの正義のために戦い続けた姿に感動したことだろう。ロベン島を訪れたピナールはその想いを確かなものにする。
神に感謝しよう
<負けざる魂>を授けてくれたことを
我が運命を決めるのは我なり
我が魂を征するのは我なり
今もまだ新たなる困難に立ち向かい続けているマンデラの姿は、彼らも伴に戦おうと駆り立てたのだ。
もう1つは、実際に遠くの隣人たちと触れ合うことで、心のわだかまりが解けたことだろう。貧困地区にラクビーの指導に訪れた選手たちは、その貧しい生活ぶりに驚くと同時に、いきいきとラクビーに興じる子供たちの姿に心の壁が解けていくことを感じただろう。
そしてそうした活動を通じて、黒人たちもまた南アフリカの代表チーム「スプリングボクス」を応援していくようになっていく。
クリント・イーストウッドはその様子を、オーソドックスにしかししっかりと語るべき物語を語る。「チェンジリング」や「グラントリノ」などもそうだけれど、もっと物語をメッセージ性の高いものにしようとすることもできる。事実、「ミスティック・リバー」や「ミリオンダラー・ベイビー」などではメッセージ性や問題意識が見え隠れする。
しかし全体的にみれば、やはり人間の機微のようなものを上手く描き出す監督なのたろう。そのあたりが多くの人から支持されるゆえんであり、その一方で若干のもの足りなさを感じるところだろう。しかしこの作品にかんしていえば、十分に感動できる作品であり、クリント・イーストウッドを巨匠たらしめるものといえるだろう。
【評価】
総合:★★★★☆
ネルソン・マンデラに感動:★★★★☆
モーガンフリーマンもマットディモンもGJです!:★★★★★
---
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【予告編】
映画 インビクタス/負けざる者たち 予告
【あらすじ】
1994年、南アフリカ共和国初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラだが、新生国家の船出には多くの問題があった。ある日、ラグビー南ア代表の試合を観戦したマンデラの頭の中で何かが閃いた。南アではラグビーは白人が愛好するスポーツで、黒人にとってはアパルトヘイトの象徴。しかし、1年後に南アで開催されるラグビーのワールドカップで南アのチームが勝てば、それが人種間の和解につながるかもしれない…と。(「goo 映画」より)
【レビュー】
初めてアパルトヘイトの実態を知ったのは、高校生の頃、とある集会で見た「遠い夜明け」がきっかけだった。この映画は南アフリカの黒人解放活動家 スティーヴ・ビコと白人記者 ドナルド・ウッズとの交流を描いたもので、アパルトヘイトによる黒人の弾圧がどんなものだったかが描かれている。僕はその集会を通じて、まだ投獄中だったネルソン・マンデラの存在やアムネスティの活動を知ったのだ。
アパルトヘイト政策というのは、当時、南アフリカで行われていた人種差別政策。少数の裕福な白人たちの支配を安定化させるために、黒人を最下層に有色人種をいくつかのランクに分け、そのランクごとに居住区や移動可能範囲を分け、市民としての権利、参政権、婚姻に制限をかけるというものだ。ちなみに南アフリカの最大の貿易相手国の1つだった日本は「名誉白人」という、ばかげた扱いをうけ、白人向けのホテルやレストランを利用することができた。
非常に差別的な扱いを受けていた黒人たちであったが、恐ろしいことにそれを当然のことと受け入れていた者も決して少なくなかった。それは彼らがまっとうな教育を受けていなかったために、今置かれている状況に疑問を持たなかったり、あるいは諦めてしまっていたからだった。だからこそ、こうした差別問題においては「教育」の問題がとりだたされる。
その一方でこうした不当な人種隔離政策に抵抗をした有色人種たちもいる。それがネルソン・マンデラが属するアフリカ民族会議(ANC)だ。しかしネルソンマンデラは反アパルトヘイト活動がきっかけで、1964年、国家反逆罪に問われロベン島に投獄される。そしてそれから27年間獄中での闘争が始まるのだ。
各国の経済制裁もあって、当時のデクラーク大統領はアパルトヘイトは廃止を決定する。この結果、参政権は白人だけでなく全人種にまで拡大され、総選挙の結果、1994年にはネルソンマンデラが大統領に選ばれることになる。
この映画はその後の物語だ。
ネルソンマンデラが初の黒人大統領に選ばれた時、彼が直面したのは、様々な国内外に直面する政策以上に、白人と様々な人種との融和だった。
黒人の側からすれば、ようやく手に入れた政権であり、白人たちは信用できない存在だ。これまでやられたことに対する「仕返し」をしたいという気持ちを持つ者もいるだろう。それに対しマンデラは「過去は過去」と言い切ってしまう。融和の中に未来はあるのだ、と。
前政権に使えていた白人官僚たちに対してもそのまま新しい国づくりに参加することを求め、ホディガードたちは黒人と白人の混合になる。
それはスポーツについても同様だ。紳士のスポーツとして白人たちはきれいなグランドでラクビーにいそしんできたが、黒人たちはポール1つでどこでもできるサッカーに慣れ親しんできた。そのためラクビー代表チーム・スプリングボクスとそのチームカラーはアパルトヘイトの象徴のように映っており、その変更を求める声があがった。
これに対してマンデラはこのまま変更に反対する。彼にとっては、「スプリングボクス」こそ白人たちにとっての誇りであり、この代表チームの活躍を通じて「国」を1つにまとめ、また対外的にもアピールできると考えたのだ。
そしてその想いは、スプリングボクスの主将・フランソワ・ピナールに受け継がれる。
当時、国際試合への出場禁止となっていたスプリングボクスは弱小チームだった。マンデラからお茶に招待されたピナールは、そこでこのチームに求められていることがただの「勝利」ではなく、人種の垣根を越えてこの国を1つにまとめ「優勝」することだと悟る。そしてその想いをチームへと伝えていく。
彼らを突き動かしたものは何だろう。
1つはマンデラの不屈の精神、27年間もの間、投獄されながらも南アフリカの正義のために戦い続けた姿に感動したことだろう。ロベン島を訪れたピナールはその想いを確かなものにする。
神に感謝しよう
<負けざる魂>を授けてくれたことを
我が運命を決めるのは我なり
我が魂を征するのは我なり
今もまだ新たなる困難に立ち向かい続けているマンデラの姿は、彼らも伴に戦おうと駆り立てたのだ。
もう1つは、実際に遠くの隣人たちと触れ合うことで、心のわだかまりが解けたことだろう。貧困地区にラクビーの指導に訪れた選手たちは、その貧しい生活ぶりに驚くと同時に、いきいきとラクビーに興じる子供たちの姿に心の壁が解けていくことを感じただろう。
そしてそうした活動を通じて、黒人たちもまた南アフリカの代表チーム「スプリングボクス」を応援していくようになっていく。
クリント・イーストウッドはその様子を、オーソドックスにしかししっかりと語るべき物語を語る。「チェンジリング」や「グラントリノ」などもそうだけれど、もっと物語をメッセージ性の高いものにしようとすることもできる。事実、「ミスティック・リバー」や「ミリオンダラー・ベイビー」などではメッセージ性や問題意識が見え隠れする。
しかし全体的にみれば、やはり人間の機微のようなものを上手く描き出す監督なのたろう。そのあたりが多くの人から支持されるゆえんであり、その一方で若干のもの足りなさを感じるところだろう。しかしこの作品にかんしていえば、十分に感動できる作品であり、クリント・イーストウッドを巨匠たらしめるものといえるだろう。
【評価】
総合:★★★★☆
ネルソン・マンデラに感動:★★★★☆
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