ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

マイ・ブルーベリー・ナイツ:ノラ・ジョーンズとウォン・カーウァイが作り出した良質な時間

2009年12月06日 | 映画♪
ウォン・カーウァイの映画を初めて観たのは「恋する惑星」だった。スタイリッシュな映像。ポップな音楽。しかも初めての心斎橋でのミニシアター体験!ハリウッドとも日本のトレンディドラマとも違う新しい感覚にわくわくしたことを覚えている。ただし本当にウォン・カーウァイにはまったのは、「恋する惑星」でも「天使の涙」でもなく、どちらかというともっと泥臭い「欲望の翼」。ウォン・カーウァイらしさが固まる以前の、もっとプレミティブな愛憎がなんとも心に響く。

まぁ、そうした「欲望の翼」~「ブエノスアイレス」の頃に比べれば、ウォン・カーウァイ的な色彩感覚を残しつつも、物語展開も撮影の仕方も「こなれた」感じがある「マイ・ブルーベリー・ナイツ」はもちろん誰もが楽しめる秀作。それを「物足りない」と感じるかどうかはウォン・カーウァイへのはまり度合いによるのだろう。


【マイ・ブルーベリー・ナイツ 予告編】


【あらすじ】

恋人に捨てられたエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は彼のことが忘れられず、彼の行きつけのカフェに乗り込む。そんな彼女を慰めてくれたのは、カフェのオーナー・ジェレミー(ジュード・ロウ)と、甘酸っぱいブルーベリー・パイ。それからのエリザベスは、夜更けにジェレミーと売れ残りのパイをつつくのが日課になる。しかしそんなある日、彼女は突然ニューヨークから姿を消す。恋人への思いを断ち切れずにいたエリザベスは、あてのない旅へとひとり旅立ったのだった…。(「goo 映画」より)


【レビュー】

傷ついたエリザベスは旅にでる。傷心の旅。しかしそれは自分の心を癒すために必要であり、何よりも他者を通じて自らを発見する、自分自身を見つめ直す旅だったのだろう。彼女は旅に出て2つの出会いを経験する。

1つ目がメンフィスでのこと。メンフィスで出会ったのは、アーニーとその妻スー・リン。2人はすでに別れている。しかしアーニーは未だにスー・リンのことを忘れることができず、独り、エリザベスが働くバーで酒におぼれている。スー・リンはアーニーに反抗するかのように、他の男と遊んでいる。

何故、こうもすれ違うのだろう。

アーニーはスー・リンのことを愛している。しかしその愛情はエゴイスティックだ。アーニーはスー・リンのことを愛している。自分だけのものにしたいと思っている。束縛し、自由を奪い、自分の思うままにならないのならば(他者に奪われるならば)拳銃さえも構えてしまう。スー・リンはそんなアーニーに耐え切れなく思う。重すぎるのだ。

求めるものが強すぎること。相手を自分のものにしてしまおうとすること。それはヴィム・ヴェンダースが「パリ、テキサス」で描いたように現代という時代が抱え込んだ病なのかもしれない。

そして悲劇が訪れる。スー・リンにとっても例え反発していたとしてもその愛情はかけがえがないものだったのだろう。愛情ゆえに、求めすぎるがゆえに、時に傷つけてしまう。求めるだけが愛ではないのだ。

2つめは「ラスベガス」。ここでエリザベスは美しきギャンブラー・レスリーと出会う。彼女は「他人を信じない」ことを信条としている。相手の心を読み、相手を欺き、利用し、自らの勝負に勝とうとする。彼女からすればエリザベスのような人間はいい「カモ」だろう。すぐに人を信じようとし、疑うことをしない。

現代という時代を省みれば、このレスリーのような資質こそが求められているようなところがある。勤勉よりも狡賢さを――しかしそんなことが本当に「幸福」や「安らぎ」をもたらしてくれるのだろうか。

レスリーは結局、父親の危篤との報を信じることをせず、最期の時を過ごすことができなかった。もしあの時の言葉を信じていれば…エリザベスにとっては「人を信じること」の大切さを知ったのだろう。

他人は「鏡」のような存在ね。
自分を知るための手がかり。
他人の姿に自分を映すのよ。

この2つの出会いを通じて、エリザベスは気付いたのだろう。安らぎや幸福を与えてくれるのは、求めることでも利用することでもないのだと。優しさや相手を想う気遣いや、それは決して派手なものではないかもしれない。でもそれはいつでもそこに存在するものなのだ、ブルーベリーパイのように。


【評価】
全体:★★★☆☆
スタイリッシュな映像:★★★★☆
ノラ・ジョーンズもオーティス・レディングも最高です!:★★★★★

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MY BLUEBERRY NIGHTS 「The Story」 Norah Jones


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