ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【映画】ソラニン:浅野いにおの世界を宮崎あおいが演じた今どきの青春映画

2011年06月13日 | 映画♪
浅野いにおの作品というのは「おやすみプンプン」しか読んだことがなかったのだけれど、その独特の内省的な世界観―存在論的な不安感や過剰なまでの自意識や生/性といったものは、90年代の山本直樹と同じくらい独自のポジションを築いている。そんな浅野いにおが描いたいまどきの青春ストーリー。ここ最近見た青春ものではピカイチな作品。

【予告編】

映画『ソラニン』予告編


【あらすじ】

都内の会社に勤めるOL2年目の芽衣子(宮崎あおい)は、フリーターでバンドマンの恋人、種田(高良健吾)と付き合って6年になる。田舎から上京、大学時代に軽音サークルで知り合った二人は、多摩川沿いにある小さなアパートで一緒に暮らしていた。毎朝バイトを終えて帰ってくる種田と入れ違うように、満員電車に揺られて出勤する芽衣子。やりがいのない仕事と面倒な人間関係をやり過ごす日々に辟易していた彼女は、辞表を提出する…(「goo映画」より)


【レビュー】

この映画では、宮崎あおいが主人公・井上芽衣子を演じ、他のメンバーともども、将来に対する漠然とした不安や現実という「壁」の存在、迷い、妥協、夢、一緒にいるということ、希望を見いだせない未来、どこにも行けない自分といった大学生~社会人なりたての「モラトリアム」の様子を透明感のあるタッチで描いている。

何かになれる時代。何にでもなれる時代。それは同時に何にもなれない時代でもある。

バンドが好きで、自分でも何かを表現したくて…でもそんなモラトリアムな時間を社会は待ってはくれない。才能はあるのか。それさえも自信が持てない。そもそも才能って何だ。CDが売れることか、それで食っていけることか。だったらアイドルのバックバンドにでもなればいい。でもそうではない。そうした割り切れない純粋さや理想や希望を捨てきれないから、どこにも行けずにいる。

OL2年目の芽衣子は将来に希望を見いだせず、種田の言葉に後押しされてそのまま辞めてしまう。芽衣子と同棲中の種田はデザイン会社にバイトの身で、細々とバンド活動を続けている。2人でいれば楽しいし、それはまるで学生の頃のように。ゆるい幸せ。それは「責任」を回避し続けることで成り立つ世界だ。

「だって、芽衣子さん、お茶くんだり、顧客管理したりするために生まれてきたわけじゃないじゃんか」
「そんな未来予想できる生活なんてつまんなくないっすか」

じゃぁ、自分に何ができたのか。互いに自分のできないことを、その裏返しの気持を相手に重ねあわせ、苛立ち、責め立てる。種田に真剣にバンドをやって欲しいと自分の気持ちをぶつける芽衣子。そして出来上がった曲「ソラニン」。しかし現実はそんなに甘くない。やがて夏が過ぎ、季節は変わろうとしている。

種田もそれは分かっている。どこかで区切りを付けなければならないのだ。

一度は芽衣子に別れを告げようとする種田。しかし結局は芽衣子と共に生きることを決意する。それは同時に何かを選択することでもある。

「芽衣子さん、俺は音楽でね、世界を変えようと本気で思ってた。…でもこの頃はさぁ、バンドがやりたかっただけなんじゃんってさ。みんながいて、芽衣子がいて、本当はそれだけでいいんだ。」

「俺は幸せだ。本当さ。」しかし込み上げてくる涙。そしてバイク事故――。

相互依存的に2人で暮らしてきた生活。しかしそれは突然、終わりを告げる。芽衣子の中にはポッカリと空いた穴がある。新しい仕事も見つかり、生活を始めてみても、まだ何も終わってはない。そんな想いの中、芽衣子は種田の父から種田のギターを託される。

きっと、芽衣子にとっては「ソラニン」を歌うことは新しい生活への通過儀礼だったのだろう。それは芽衣子だけではなかったのかもしれない。それはビリーも加藤も同じだ。

「ソラニンは恋人の別れの曲だって言ったでしょ。でももしかしたらそうじゃないかもしれない。うまく言えないんだけどさぁ、過去の自分との別れの曲かも。そんな風に思えてきたんだ。」

新しい場所へ向かうために、しかしそれは「忘れるため」ではない。「別れ」ではなくその記憶を抱いたまま再生するための契機として、芽衣子は「ソラニン」を歌いあげる。

宮崎あおいが歌った「ソラニン」は、アジカンに比べれば全然下手くそだし、届くものもないかもしれない。ただ「頑張っている」だけだ。それでも仮にただの素人だった芽衣子が歌ったのだとしたら、やはりこんな感じだったのだろう。そしてそれはそれでいいのだ。

続いていく日常。何かが変わったわけではない。でも確実に何かが始まったのだ。


【評価】

総合:★★★★☆
宮崎あおいが可愛すぎます!:★★★★★
でも、やっぱりアジカンのソラニンが聴きたくなる!:★★★★★


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ソラニン / ASIAN KUNG-FU GENERATION


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ソラニン (ヤングサンデーコミックス) / 浅野いにお



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