ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【映画】藁の楯(わらのたて):藤原達也の狂気じみた演技と三池崇史のあざ笑い

2013年04月30日 | 映画♪
「この男を殺して下さい。お礼として10億円お支払いします。」という衝撃的な広告。対象は少女を陵辱し殺害する人間のクズのような男。そんな状況が目の前に現れたら果たして人はどのような行動をするのか――。東日本大震災の際の行動を見るまでもなく、日本にはコミュニタリズムと強い倫理意識があると感じている僕からすると、すでにこの時点で物語は破綻しているように見えるのだけれど、そうはいっても、そういう人間もいるだろう。その上で、それを守らねばならない者たちの死闘を描いた作品。監督はそうすんなり片付けてはくれない三池崇史。果たしてその結末は―。


【あらすじ】

7歳の幼女が惨殺される事件が発生。8年前に少女暴行殺人事件を起こし出所したばかりの清丸国秀(藤原竜也)に容疑がかかり、警察による捜査が行われるが、一向に清丸の足取りは掴めずにいた。事件から3ヶ月後、事態が大きく変わる。殺された幼女の祖父・蜷川隆興(山崎努)は政財界を意のままに動かす大物で、彼が大手新聞3紙に、清丸を殺した者に10億円支払うとの全面広告を打ち出した。この前代未聞の広告を見た国民は一気に殺気立ち、身の危険を感じた清丸が福岡県警に自首。東京の警視庁まで清丸の身柄を護送する最中に彼の身を守るために、生え抜きのSP5名が配置された。いつ、どこで、誰が襲撃してくるかわからない極限の緊張状態の中、護送が始まる……。(「Movie Walker」より)

【予告編】

映画『藁の楯 わらのたて』予告編


【レビュー】

本題とは関係のない話から。MOVIXに「藁の楯」を見に行ったのだけれど、客の入りは7割りほど。といっても全8列の客席の前4列は閉鎖されていたから、実際はその半分ほど。確かに3~4割の客の入りだということを考えると、前4列を閉鎖して、掃除などの手間を省きたいというのはわかる。そうすることで運営コストを落とすことも出来るだろう。

ただ映画館というのは、垂直方向には前の席がいい人もいれば後ろの席で俯瞰できる方がいいという人もいるかもしれないが、水平方向には端の席より中心部の座席のほうがいいに決まっている。

今回、全席指定で受付をしているにもかかわらず、始めに来た人たちから後3列内に割り振った結果、時間ギリギリに来た人たちが後ろから4列目の真ん中、つまりより中心に近い座席が配布されるという状態が起きていた。このオペレーションはおかしいだろう。運営者都合で考えすぎではないか。

閑話休題。

「この男を殺して下さい。お礼として10億円お支払いします。」と書かれた新聞広告。そして日本中から狙われることになったのは少女暴行殺人事件を起こしている人間のクズ・清丸国秀。果たしてSPら護送チームは命をかけてまで守る必要のある男なのか。

ストーリー展開はいたって単純。正直、話としては深みもないし、それほどでもという感じなのだけれど、何といっても役者陣の熱演で、久々に力が入ったまま観たという感じ。

何といっても清丸国秀を演じた藤原竜也の狂気っぷりが凄い。いやー、ホント、こういう役を演じさせたら天才だなぁと思う。おそらくこの映画を見た誰もが全く同情をしないほど、非人道的かつ人間として許しがたい存在に作り上げている。

この藤原達也の「狂」演に護送チームも負けていない。永山絢斗の青臭い熱演ぶりに、伊武雅刀も人情を併せ持った味のある演技で応える。岸谷五朗も敵か味方か分からない、かつ熱さをあわせもった演技で物語を引っ張っていく。出番は多くなかったとはいえ、余貴美子も緊張の中にアクセントをつけるいい雰囲気で登場。山崎努は言わずもがな独特の雰囲気を醸し出しながら存在感を放ちつつラストに登場。

キャラクター的にも、他の役者陣に押され気味だった大沢たかおも藤原達也との対決シーンでは本領発揮。それまで押さえてきた感情をむき出しに藤原達也を追い詰める。それでも不敵な演技の藤原達也…

ストーリーの単純さをそれぞれの役者の熱演が埋める形で、見ている側は物語に引き込まれていく。裏切り者は誰なのか、誰が彼らの位置を教えているのか――疑いだすと誰もが犯人のようにも見え、そうでないようにも見える。この物語は役者が支えているのだ。

そんな中で残念なのが松嶋菜々子だろう。もちろん「悪い」というわけではない。立ち姿は格好いいし、下手なわけでもない。ただこういう役割だと、熱量や緊迫感が足りないのだ。松嶋菜々子が藤原達也に拳銃を向けても、そこに殺意や憎悪は感じられない。テレビのように1シーンごとにカットをされているような作りであればごまかせるかもしれないが、映画では通じない。他の役者陣が熱くがんばっていた分、そのことが目立ってしまった。

それにしても相変わらず三池崇史監督は毒をまぶしてくれる。

幾人もの犠牲者を払い、被害者としての不条理な感情をこらえつつ守り抜いた清丸の命を、司法の下であっさりと死刑宣告してしまうのだ。果たして何のために守り抜いたのか――。

それを「職務」だからという単純な理由で片付けられるものではない。護送チームのそれまでの真剣な戦いをあざ笑うかのように死刑宣告を行い、何の語らいもなく白岩篤子の息子が引き取られ笑顔を振舞うシーンを挿入する。「十三人の刺客」の時もそうだけれど、それまでの真剣な取組み・ミッションをあざ笑うかのように、結末を挿入するのだ。それはさもその真剣さ自体が間違っているのだといわんばかりに…

その意味では、相変わらずの三池作品なのだ。


【評価】
総合:★★★☆☆
役者たちの熱い演技:★★★★☆
エンディングの曲が…:★☆☆☆☆


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