ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【読書】生きる力がわく「がん緩和医療」/ 向山雄人

2013年08月20日 | 読書
近藤誠さんの「がん放置療法のすすめ」ががんに対して積極的な治療をするのではなく、QOLを維持するために限定的に「抗がん剤」か「緩和治療薬」を使うというスタンスなのに対し、向山雄人さんは緩和ケアを早期の段階から他の積極的治療と並行して活用することを提案する。同じく「がん」に対して根治が難しい場合が多いことを認めながらもそのスタンスは対照的だ。


生きる力がわく「がん緩和医療」 / 向山 雄人


【内容】

そもそも癌の痛みとは何か。癌患者がかかえるトータルペインとは4つの苦痛から構成される。

1)社会的な苦痛
 仕事の問題、家庭の問題、経済的な問題など
2)身体的な苦痛
 痛み、倦怠感、吐き気、食欲不振、呼吸困難など
3)精神的な苦痛
 不安、いらだち、虚無感、孤独感、うつ状態など
4)スピリチュアルペイン
 罪の意識、死の恐怖、生きる意味の喪失など

これらの苦痛は適切に取り除かないと、相互に絡み合い、さらに強くなっていく。そのために体力や気力を失い、抗がん剤治療が継続できない場合もでてくる。痛みをとる治療の原則は「Just in Time(必要な時に、必要な医療を必要なだけ)」だ。

WHOでは国際標準となる「WHO方式がん疼痛治療法」が示されており、この方法に従って鎮痛剤を利用すると、80~90%の確率でがんの痛みを緩和できる。しかし日本ではがん疼痛治療が十分に普及していない。医師ががん患者の苦痛緩和に無関心であることや「モルヒネ」に対する誤解、「緩和ケア=終末期治療」という誤解があるからだ。しかし本来、「がんを攻撃する治療」と「がんに伴う症状緩和治療」は平行して行うものだ。

現時点で完全かつ永続的にがんを消去できる薬はない。一方、がんの進行にともなう苦痛は皆平等に存在する。がんを消し去れないのは一緒でも、その患者の人生を180度変えてしまうのは、質の高い緩和治療を受けられるかどうかにかかっている。

【感想】

「緩和ケア」に対する考え方はもちろん、がん患者の痛みがどのようなものか、また具体的にどのような治療があるのかなど、家族ががんになった場合、非常に参考になる本。近藤誠さんの「がん放置療法」も納得するところは多いのだけれど、「がんに挑戦しない医療」を是とするのかという疑問は残る。

それに対して、こちらで提唱されている「緩和治療」のあり方は、痛みをとり「QOL」の確保を図りながら、かつ抗がん剤や放射線治療などの積極的な医療へのサポートとして位置づけられる。おそらく「近代医療」という観点からはこちらのあり方が目指すべき方向となるのだろう。

とはいえ、「緩和医療」が結局は患者一人一人のオーダーメイドであり病院の質によって大きく違ううように、また「がん放置療法」で提唱されているようにQOLの確保のための緩和ケアのみを実施した場合とどれだけ効果が違うのかは何ともいえない。否、結局は最期の「生」をどのように考えるかという患者個人の問題なのかもしれない。


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生きる力がわく「がん緩和医療」 / 向山 雄人


【読書】がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 / 近藤誠 - ビールを飲みながら考えてみた…


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