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変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     ○ (10:3/4)
 第3章 出撃     未
 第4章 錯綜     未
 第5章 回帰     未
 第6章 収束     未
 第7章 決戦     未
 終 章          未
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第2章 《陰謀》  (続き 3/4)

     ◆
 ブリタニアの町は賑やかであった。ルナの側近や斥候が言っていた通り、この国に心配は要らないようだ。既にルナが不在でも、自力で運営できる力を人々が身に付けていたのだ。また、宰相を統領と呼んではいるが、基本的には王国の統治システムを真似た行政府には、安心して任せられるスタッフが揃っていた。
 素朴で質素ではある。確かに未だ貧しくもある。しかし、王国のみならず、神聖同盟は言うまでもなく、帝国を含めてみても、ブリタニアの人々の方が満たされており、栄えていると言っていいだろう。人々は自由と平等をどこの国や町よりも享受していた。享受するだけの基盤が育まれていたのだ。自由とは他人の権利を奪わないもの、権利とは持てる義務を果たして得られるもの、平等とは努力する自由であってその結果として得られるものが公平であるということ、といったことを理解できるだけの能力が備わっていなければ、これらの要素は人々の活動を阻害こそすれ、発展させはしないものなのだ。辺境であり小さくはあっても、結果的に共同体社会を運営して来たブリタニアの人々は、未だ野蛮な神聖同盟や、成熟してしまって本来の意味を履き違えてしまっている王国や帝国の人々よりも、むしろ社会性に富んでいると言える。人々には活動の自由があり、社会は自由な活動の機会を平等に与えている。社会が正常に進歩し、栄えていくための環境が整っているのだ。彼等は、突き詰めると矛盾するかに見える『自由』と『平等』は、陳腐ではあるが『愛する心』によって両立する、ということを経験的に知っていたのだ。このまま成熟が進んで行くと、伝統を持つ国々のように『自由』の主張が『平等』を阻害する関係に陥って行くのかもしれないが、幸運にもこの国は未だその域には達していない。厳しい自然環境と辺境故に乏しい経済基盤が、彼等に生き抜く術を教えたのか、堕落や衰亡とは無縁なように見えた。それらが相まって、ブリタニアは歴史的発展を遂げており、活気に満ちた町からは、隣国でこれから戦争が勃発するかもしれないといった危惧は微塵にも感じられなかった。不安が皆無の世は没落を招くが、ブリタニアにそれが無いわけではない。しかし、ブリタニアにある不安要素とは、王国が抱えているような戦争といった破壊方向のものではなく、成長方向の勢いに乗り遅れまいとする、人々を発奮させる類のものなのであった。ルナがどれくらい意識していたかは不明だが、理想に近い状態にブリタニアはあったのだ。かつて、後年に賢帝と呼ばれる皇帝が北方の蛮族とブリテン島で戦っていた時代、その蛮族ですら立ち寄らなかったこの地は、その後の長い空白の時代を経て、空前の繁栄に向けて邁進していたのだった。このまま行けば、ブリタニアの事例はこの時代の成功例として、歴史に名を留めたことだろう。しかし、歴史の難しさは、関わり合うあらゆる要素に後押しされなければ、本当の成功には至らないという所にある。勿論、衰退しない成功や繁栄という事例は、今のところ存在しない。数世代に渡る繁栄を歴史は成功と見なしていると言っていいだろう。この後に続くブリタニアの歴史は、ルナを取り巻く環境がわずかに違っていれば、悲劇を回避できたのかもしれない。歴史上に刻まれた多くの事例と同様、あと少しで一部の例外だけが手にすることができる成功例と成り得たはずだ。そうはならなかったのだが、人々は、現実の厳しさを後どれくらい思い知れば惨劇を繰り返さなくなるのか。それは類稀な強運だけが導くことができる要素なのだろうか。そんな強運の持ち主だけが優秀な為政者と言うのであれば、ブリタニアにとってルナは、その資格が無かったということなのだろう。

     ◆
 王室の憲兵が、ルナの到着を告げた。
「暫し待たせておけ。すぐに呼ぶ。」
「は。」
王に侍る側近は二人。宰相と軍の統帥の二名である。彼等を諭している王は、ルナを余り待たせたくない思いから、一気に核心をついた。
「貴公等は、何か勘違いしているのではないか?」
「心外ですな、陛下。我等一同、陛下と王国の将来のため、良かれと考えております。」
「それなら良いのだが、ルナがおらねば王国は存続すら危ぶまれる。」
「その点については我等とて同じ意見です。」
「国家の存続とは、目の前の危機だけを回避すれば良いというものでは無かろう?」
「仰せの通りです。さればこそ、ルナ殿の役割には限界があると申し上げているのです。」
「ルナはあれの完成までの繋ぎ役でしかないと?」
「申し上げるまでもありません。リメス・ジンが全てを決します。守り一辺倒だった王国の軍備は、リメス・ジンの実戦配備によって一気に攻めに転じるのです。そもそも……」
宰相の目が無気味に輝いた。
「玉石を再び発動させることが、ルナ殿を招聘した目的です。その意味で、彼は既に我々の目的を成し遂げたのです。」
「玉石は再び発動したのか!?」
「はい。先代の王が秘蹟を放棄し、それ以来停止していた玉石が再び振動し始めたのです。玉石がルナ殿の帰還を感じ取ったのでしょう。確かに王家の血族、恐るべきと言えましょう。」
「後はリメス・ジンの完成を待つのみ、ということか。」
「つまりルナ殿を戦場に向かわせるのは、神聖同盟を撃退する為ではない。お分かりですね?」
「しかし、リメス・ジンの完成が遅れているのでは、戦線を維持するための方策が必要だろう?」
「それは事実です。ですからこうして、ルナ殿を投入する作戦を考えるに苦労しているのです。ルナ殿の排除と戦線の維持、両方を成し遂げねばなりませんからな。」
玉石が既に発動したのであれば、王は頷かざるを得ない。そこに宰相がたたみかけた。
「陛下、我が一族は古くから王家に遣えております。軍の統帥とてそうです。陛下の一存に誤りがあった場合、それを正すのも我等の役目。くれぐれもお忘れなきよう。」
言葉とは裏腹に、『正当なとりまき』のお陰で『偽りの王』が成り立っていると言っているのだ。これは、もう議論する気は無いという暗黙の、そして絶対の意思表示であった。王はこう言うしかなかった。
「我々の利益が国益に適う。その考えは余とて同じだ。よし、これまでにしよう。」
「かしこまりました。リメス・ジンの開発は、遅れを取り戻しつつあります。既に試験飛行を行なっており、あれを投入する作戦の立案こそ急がねばなりません。それまでの繋ぎの作戦など、大きな失敗さえしなければ良いのです。戦線を維持さえすれば充分なのですから。」
それを聞いて王は思わず言葉を挟まずにはいられなかった。
「必ず勝てると思った作戦でも、敗戦を帰すことはあるものだが……。」
宰相は王の言葉を視線で一括し、王は額の奥の眼を一層細めて言葉の続きを失った。未だ宰相には適わない。それを確認した宰相は、王室の重層な扉を開け、微動だにしない憲兵の横に控えていたルナに入室を促す視線を投げかけた。その目は相変わらず感情を現さなかった。

「ルナ辺境伯、ブリタニアの方は大丈夫ですかな?」
宰相がルナを部屋に招き入れながら話を切り出した。
「問題無い。それより、空母戦闘機群のスタッフは集まりそうかい?」
それには軍の統帥が大儀そうに応えた。
「概ね揃う見込みだ。貴公にはこれから港に行って頂く。数日中には連中も集まるはずだ。」
ルナの視線は王に固定されており、臣下の話など聞いていないかのようだ。
「陛下。私は港に行くのですか?」
ルナの口調がまたしても丁寧になって行く。王も臣下の手前、ルナとの距離を置きたいのか、あいかわらず沈黙しており、軍の統帥が応えるに任せている。
「これは軍の作戦である。貴公は、命令に従っておれば良い。私が言うこと以上を知る必要は無い。」
悪意に満ちた雰囲気に、ルナは耐え続けた。その状況を楽しんでいるかのような表情で、軍の統帥がたたみかけた。
「港から航空隊を率いて空母戦闘群に合流してもらう。作戦の詳細は、現地でリモー提督から説明を受けるように。」
ルナは引き続き王に視線を固定しながら、言葉だけは軍の統帥に向ける。
「ブリタニアから兵を招集したい。受け入れ態勢を整えてもらえますか?」
目線を合わせようとしないルナに苛立ちを感じた統帥は、今度は慇懃に応えた。
「考えておきましょう。規模はどれくらいですかな?」
「航空小隊ひとつだけだ。大袈裟に構える必要は無い。」
軍の統帥のみならず、宰相も鼻で笑う仕草を隠さなかった。田舎者を招聘して何をするおつもりか、邪魔だけはしないでもらいたい、と今にも言わんばかりである。
「はっきりさせておこう。」
王だけを見ていたルナだったが、宰相に視線を移し、そして次に軍の統帥を睨みつけてから続けた。
「王国には貴様の作戦が必要だ。俺には俺の直営の部下が必要だ。そして、貴様には俺が必要だ。異存はあるか?」
王族としての帝王学と、動物としての生存本能、両方を経験から兼ね備えたルナの前には、王に侍る百戦錬磨の文官と言えども怯まざるを得なかった。
「よかろう、貴公の活躍を期待する。」
ルナは、宰相級の役職を想定していたが、これでは宰相はおろか、一介の部隊を率いる中級仕官並の扱いである。このような状況をルナは予想していなかった。考え直さなければならないことが山とできてしまった。しかし、この方がやりやすいかもしれない。そう思い直すしかなく、もうここでの話は終わってしまったし、この空気も耐え難いものだったので、急ぎ港に出発することにした。
「それでは陛下、私はこれにて港に向かいます。」
王はわずかに頷いて見せ、ルナから視線を外して退室を促した。
「王国に栄光あれ。」
唸るように言ってから、ルナは退室して行った。ブルータスの情報が正しいとすれば、この王は偽者なのだが、真偽は分からなかった。三年前に別れた父親のようにしか見えない。しかし、過去にブルータスの情報が誤っていたことはない。あの王は親父と別人なのだ。目の前の男が父親かどうかさえ見極められなかった自分に情けなさを覚え、ルナの心は混乱を極めていた。

<続けますよ~>


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