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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『絵師金蔵赤色浄土』(えしきんぞうせきしょくじょうど)

2023年09月10日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

江戸末期の浮世絵師・弘瀬金蔵(ひろせきんぞう) の生涯を描く。
文化9年10月1日(1812年11月4日)生れ、
明治9年(1876年)3月8日没というから、
まさに、江戸時代末期から明治にかけて生きた人物。
生前10回以上にわたり改名しているが、
出身地の高知県を中心に絵金(えきん)の通称で知られる。

高知城下で貧しい髪結いの子として生まれた金蔵は、
幼少の折から絵の才能で評判となり、
16歳で江戸に行き土佐江戸藩邸御用絵師・前村洞和(まえむらとうわ)に師事する。
通常ならば10年はかかるとされる修行期間を
足かけ3年で修了し、
師の名前の一文字「洞」をもらって、
林洞意美高(はやしとういよしたか)の名を得て高知に帰郷、
20歳にして土佐藩家老・桐間家の御用絵師となる。

金蔵が江戸に上るのが、
先々代の藩主の娘・徳姫(19歳)の婚儀のために
江戸に向かう行列の陸尺(駕籠の担い手)をし、
そのまま江戸に留まった、という話は、
他の資料には出て来ないから、
作者の創作か? 
その陸尺の仕組みが興味深い。
16名の編成で、
4人ずつ交代で担ぐ。
30分ごとに交代するので、
2時間で一巡り。
一日8時間進むとして、
日に4回の出番。
車のない時代の話だ。

狩野派塾のシステムも面白い。
入門の条件は、                                 7、8歳で筆を持ち、
「三巻物」と呼ばれるものが既に描けること。
三巻物とは、花鳥、山水、人物など
36枚を3巻に仕立てたもの。
入門が許されると、
狩野常信が描いた山水人物60枚を模写。
これを1年半で終わらせ、
次の半年で常信の花鳥12枚の模写。
次に一枚物、福禄寿や雪舟の一幅物など中国につながる模写。
そして、探幽の「賢聖障子」の模写。
師の別号を拝領するのは、
一枚物を初めてから7、8年後、
師の名の一字拝領は更に2年の歳月を得て卒業となる。
金蔵はこれを3年で成し遂げたというから、天才だったのだろう。

帰国後、金蔵は、
狩野探幽の贋作を描いた嫌疑を掛けられて、
職を解かれ高知城下所払いの処分となり、
狩野派からは破門を言い渡される。
諸説あるが、本書では、
頼まれて模写したものが古物商の手に渡り、
偽の落款を押されたもので、
洞意に対する周囲の嫉妬により濡れ衣を着せられた、
という説を取っている。

贋作事件の時、
林洞意の作品は土佐藩によってことごとく焼き捨てられたので、
その時代の絵は、
現在まで1枚も発見されていない。
追放後、狩野派の筆法を禁じられたので、
それをしのぶ作品は残っていない。
わずかに、人目に触れない作品として描いた
多くの白描画のなかに、
その時代の絵金を垣間見ることができるのみ。

藩の御用絵師を解かれた以後、
「町絵師・金蔵」を名乗って、
地元の寺社や農民、漁民に頼まれるがままに芝居絵や台提灯絵、
絵馬、凧絵などを数多く描き「絵金」の愛称で親しまれた。
版元のない高知のことなので、
版画ではなく、すべて一枚もの

その後、金蔵は旅に出、
謎の十年間を経て、再び土佐に戻り、
華やかな狩野派のそれではなく、
おどろおどろしい芝居絵を描く絵師として復活。
エネルギッシュに創作活動に挑み、
屏風絵、襖絵、絵馬提灯など、数々の作品を世に残している。
狩野派の手法を捨て、
猥雑、土俗的で血みどろの芝居絵だ。

なぜ晩年、歌舞伎、浄瑠璃から題材を取り、
おどろおどろしい赤色を使った
血みどろの屏風絵を描くようになったかは、
幕末当時の血なまぐさい世相を反映した、というのが、本書の主張。

弟子の武市半平太の切腹や
斬首された若者たちへの憤りが
絵へのエネルギーとなるあたり鬼気迫るものがあった。

「血の色は厄払いじゃ。万民の不安を払い落とすのじゃ」

明治9年(1876年)3月8日死去。
享年65歳

弟子は墓碑によると数百人にのぼるとあり、
絵金風の屏風絵は現在200点余確認されており、
当地での人気の高さが窺える。

金蔵に大きな影響を与え、
金蔵自身も似たものを描いたと言われる
「雪中梅竹遊禽図」。

本書は、生涯を辿る物語としては読みやすいが、
文学性に欠けるので、
読後の印象は薄い。

1971年には、絵金を主人公にした映画「闇の中の魑魅魍魎」が製作され、
カンヌ映画祭に正式出品された。


監督は中平康、主演は麿赤児。
原作は榎本滋民の「血みどろの絵金」。
新藤兼人が脚本を担当した。

 


『ONE PIECE 実写版』

2023年09月09日 23時00分00秒 | わが町浦安

[ドラマ紹介]

尾田栄一郎によるコミックの実写版映画。
原作は、
「週刊少年ジャンプ」に1997年から
四半世紀も連載中の作品。


単行本は第106巻まで刊行されており、
国内累計発行部数は日本の漫画では最高となる
4億1000万部を突破している(2022年時点)。
中でも第67巻は初版発行部数405万部で、
国内出版史上最高記録を樹立。
第57巻(2010年3月発売)以降の単行本は
全て初版300万部以上発行を継続している。
2015年6月15日には
「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」として、
ギネス世界記録に認定された。

海外では翻訳版が60以上の国と地域で販売されており、
海外でのコミックス累計発行部数は2022年8月時点で
1億部を突破している。

1999年よりテレビアニメがフジテレビ系列で放送されており、
既に1000話を越え、
東映アニメーション製作のアニメ作品としては
最長のロングラン作品になっている。

その他、数々のスピンオフ作品、ノベライズ、
ゲーム、映画(15本)、アイスショー、イベント、
スーパー歌舞伎、玩具、展覧会他
メディアミックスの形で展開しているが、
今回のドラマシリーズは、
初の実写化
しかも、アメリカで。
Netflixのオリジナル作品
相当な予算をかけたらしい。

と書いてはみたが、
実は、私はコミックの情報難民で、
「ONE PIECE」という漫画がヒットしていて、
歌舞伎にまでなった、
ということは知っていたが、
全く予備知識なし
本ドラマを見て初めて海賊の話だと知ったくらいだ。

海賊王ゴールド・ロジャーが
死刑の際に口にした「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」をめぐり、
海賊達が覇権を賭けて争う「大海賊時代」が到来。
フーシャ村に住む少年モンキー・D・ルフィは、
村に滞在していた海賊、赤髪のシャンクスと知り合いになり、
海賊への憧れを募らせる。
ある日ルフィは「ゴムゴムの実」という悪魔の実を食べ、
全身が伸び縮みするゴム人間となってしまう。
ルフィは、村を去る間際のシャンクスから
トレードマークの麦わら帽子を託され、
将来立派な海賊になって再会することを約束する。

シャンクスとの別れから10年後、
修行を重ね17歳になったルフィは、
海賊王を目指してフーシャ村を旅立ち、
海軍に入ることを夢見る少年コビーと出会う。
ルフィは女海賊アルビダを倒し、
コビーを海賊船の雑用係から解き放つ。

ルフィとコビーは海軍基地の町・シェルズタウンに到着する。
「海賊狩り」の異名を持つ賞金稼ぎロロノア・ゾロ
捕らえられていることを知ったルフィは、
海軍基地に乗り込み、ゾロを救い出す。
二人は海軍に入ったコビーと別れ、
世界中の海賊が集まる海「偉大なる航路(グランドライン)」を目指す。

次に訪れたオレンジの町で、
海賊専門の泥棒ナミと出会う。
ナミが優れた航海術を持つと知り、
ルフィは彼女を仲間に誘い、
二人は互いの目的のために手を組むことになる。
ルフィとゾロは、町を荒らす海賊、道化のバギーから
「偉大なる航路」の海図を奪うため、海賊団に戦いを挑み、
バギー相手に勝利を収め、町を後にする。

次に立ち寄った「シロップ村」で、
ルフィはウソつきの少年ウソップと出会い、
新たに狙撃手として仲間に加え、
さらに海賊船「ゴーイングメリー号」を譲り受ける。

ルフィ達は海上レストラン・バラティエに向かう。
そこで副料理長にして凄腕の料理人・サンジと出会い、
新たに料理人サンジを仲間に加える。

ルフィ達は、行方をくらましたナミを追い、
コノミ諸島・ココヤシ村に上陸する。
そこは、魚人の海賊アーロンが支配する土地であった。
ルフィ達は、ナミを救うため、
アーロン一味の根城・アーロンパークに殴り込む。
島はアーロン一味の支配から解放され、
航海士ナミが正式に仲間に加わった。

東の海の大物海賊達を次々に打ち破ったルフィの情報は海軍にも伝わり、
ルフィには最高額の懸賞金が懸けられる。
それを一人前の海賊に認定されたと捉えたルフィは
ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジら仲間と共に、
「偉大なる航路」に向かって、出航していく。

ここで、シーズン1の8話は一応終結する。

単行本で言うと、ようやく12巻。
現在まで発刊された106巻のようやく1割を消化したところ。
とういことは、シーズン10はおろか、
もっともっと長いシリーズになる予感。

前に書いたとおり、
私は「ONE PIECE」という漫画は読んでいないので、
コミックとの違いもアニメとの違いも、
全く知らない、白紙の状態で観た。

で、感想は・・・面白い。
まず、CGの見事さ
海の情景、町の景観、建造物、自然、
ことごとく質の高いCGで作成されている。
次にセットの豪華さ
相当な金を注ぎ込んだと思われる堅固なセットで展開される
アクションは見応えたっぷり
そして、ルフィと仲間たちを演ずる若い俳優たちのエネルギー
どういうオーディションで選ばれたのか知らないが、
ことごとく、魅力的な若者たちだ。


キャスティングについて尾田は
「顔、口の大きさ、手の大きさ、雰囲気、所作、
声質、演技力、身長、仲間同志のバランス etc…
世界各国のスタッフと議論を重ね、決定しました」
とコメントを寄せている。
中でも、
三刀流の日本人剣士、ゾロを演ずるマッケンユウ(新田真剣佑)が
憂いに満ちた眼差しで、魅了する。
アメリカでも人気が出るのではないか。


それに加え、海軍中将のモンキー・D・ガープ(実はルフィの祖父)
を演ずるヴィンセント・リーガンや
レストラン・バラティエの料理長の
クレイグ・フェアブラスックら
年配の俳優たちも味のある演技を見せる。
サンジとゼフの別れの場面は涙を誘う。

いかにもコミックの実写化らしい
誇張や荒唐無稽さはあるが、
これはこの種の映画に付き物で仕方ないと言えよう。

物語の進展と並行して、
若者たちの過去が描写されるが、
どれも切ない話だ。

根底にあるのは、勇気と冒険、そして友情。
地球の全貌が明らかになる前の
水平線の向こうに何があるか分からない、
期待と夢にとらわれた人間たちの
熱い思いが貫く。
なにしろ、連載26年に及ぶ原作コミックが作られた
壮大な世界観・巧緻な設定のストーリー
原作者の尾田がエグゼクティブプロデューサーとして参加しているから、
それは保存されている。

シーズン2が何時になるのか知らないが、
「ONE PIECE」実写版でも高い質の作品を作り上げた。

8話で計8時間31分

8月31日からNetflixで配信中。

 


日本映画興行ランキング・その4

2023年09月08日 23時00分00秒 | 様々な話題

日本映画興行ランキングの歴史の続き。
本日は、1980年代の10年間です。

1981年(昭和56年)

1位  連合艦隊・・・・・・・・・・・  19.0億円
2位  ドラえもん のび太の宇宙開拓史  17.5億円
3位  典子は、今・・・・・・・・・・  14.6億円
4位  男はつらいよ 寅次郎かもめ歌   13.7億円
5位  男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎  13.1億円
6位  ブルージーンズメモリー・・・・  12.5億円
7位  駅/STATION・・・・・・・12.3億円
8位  さよなら銀河鉄道999アンドロメダ終着駅  11.3億円
9位  青春グラフィティ スニーカーぶるーす      11.0億円
10位  魔界転生・・・・・・・・・・・・10.1億円

1982年(昭和57年)

1位  セーラー服と機関銃・・・・・・23.0億円
2位  ハイティーン・ブギ・・・・・・18.0億円
3位  大日本帝国・・・・・・・・・・14.0億円
4位  機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編  12.9億円
5位  ドラえもん のび太の大魔境・・12.2億円
6位  男はつらいよ 寅次郎紙風船・・12.1億円
7位  鬼龍院花子の生涯・・・・・・・11.0億円
8位  グッドラックLOVE・・・・・10.5億円
9位  男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋  10.4億円
10位  1000年女王・・・・・・・・10.1億円

1983年(昭和58年)

1位  南極物語・・・・・・・・・・・56.0億円
2位  探偵物語・・・・・・・・・・・28.0億円
3位  汚れた英雄・・・・・・・・・・16.4億円
4位  男はつらいよ 花も嵐も・・・・15.4億円
5位  刑事物語2 りんごの詩・・・・12.0億円
6位  ウィーン物語 ジェミニ・YとS 11.0億円
7位  プロ野球を10倍楽しく見る方法  10.8億円
8位  幻魔大戦・・・・・・・・・・・10.6億円
9位  楢山節考・・・・・・・・・・・10.5億円
10位  伊賀野カバ丸・・・・・・・・・10.4億円

1984年(昭和59年)

1位  里見八犬伝・・・・・・・・・・・23.1億円
2位  愛情物語・・・・・・・・・・・・18.5億円
3位  ドラえもん のび太の魔界大冒険 17.0億円
4位  空海・・・・・・・・・・・・・・16.0億円
5位  男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 12.5億円
6位  男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎  11.5億円
7位  五福星・・・・・・・・・・・・・  9.0億円
8位  キン肉マン・・・・・・・・・・・  8.3億円
9位  上海バンスキング・・・・・・・・  8.0億円
10位  刑事物語3 潮騒の詩・・・・・・  8.0億円

1985年(昭和60年)

1位  ビルマの竪琴・・・・・・・・・29.5億円
2位  ゴジラ・・・・・・・・・・・・17.0億円
3位  ・・・・・・・・・・・・・・16.0億円
4位  Wの悲劇・・・・・・・・・・・15.5億円
5位  男はつらいよ 寅次郎真実一路   12.7億円
6位  早春物語・・・・・・・・・・・12.5億円
7位  愛・旅立ち・・・・・・・・・・11.7億円
8位  男はつらいよ 寅次郎恋愛塾・・11.0億円
9位  TAN TANたぬき・・・・・11.0億円
10位  キン肉マン 逆襲!宇宙かくれ超人  10.7億円

1986年(昭和61年)

1位  子猫物語・・・・・・・・・・・54.0億円
2位  野蛮人のように・・・・・・・・14.5億円
3位  植村直己物語・・・・・・・・・13.5億円
4位  ドラえもん のび太と鉄人兵団  13.0億円
5位  キネマの天地・・・・・・・・・13.0億円
6位  ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌  11.5億円
7位  キャプテン翼 危うし!全日本Jr.10.7億円
8位  男はつらいよ 柴又より愛をこめて    10.5億円
9位  火宅の人・・・・・・・・・・・・・10.1億円
10位  キャバレー・・・・・・・・・・・・ 9.5億円

1987年(昭和62年)

1位  ハチ公物語・・・・・・・・・・19.5億円
2位  ドラえもん のび太と竜の騎士    15.0億円
3位  竹取物語・・・・・・・・・・・15.0億円
4位  男はつらいよ 知床慕情・・・・12.7億円
5位  マルサの女・・・・・・・・・・12.5億円
6位  次郎物語・・・・・・・・・・・12.5億円
7位  男はつらいよ 幸福の青い鳥・・10.3億円
8位  ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲  10.1億円
9位  紳士同盟・・・・・・・・・・・  9.5億円
10位  恋する女たち・・・・・・・・・  9.5億円

1988年(昭和63年)

1位  敦煌・・・・・・・・・・45.0億円
2位  優駿 ORACION・・18.0億円
3位  いこかもどろか・・・・・16.0億円
4位  あぶない刑事・・・・・・15.0億円
5位  ドラえもん のび太のパラレル西遊記  13.6億円
6位  マルサの女2・・・・・・13.0億円
7位  ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲  12.5億円
8位  マリリンに逢いたい・・・・11.0億円
9位  帝都物語・・・・・・・・・10.1億円
10位  男はつらいよ 寅次郎物語 10.1億円

1989年(平成元年)

1位  魔女の宅急便・・・・・・・・・21.5億円
2位  ドラえもん のび太の日本誕生 20.0億円
3位  オルゴール・・・・・・・・・・14.0億円
4位  利休・・・・・・・・・・・・・12.7億円
5位  男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 12.5億円
6位  226・・・・・・・・・・・・・・11.5億円
7位  座頭市・・・・・・・・・・・・・・11.0億円
8位  …これから物語 少年たちのブルース  10.0億円
9位  丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる 9.0億円
10位  男はつらいよ 寅次郎心の旅路・・・・8.6億円

                                                      
1990年(平成2年)

1位  天と地と・・・・・・・・・・・・・50.5億円
2位  タスマニア物語・・・・・・・・・・25.2億円
3位  ドラえもん のび太とアニマル惑星・19.1億円
4位  稲村ジェーン・・・・・・・・・・・18.3億円
5位  男はつらいよ ぼくの伯父さん・・・14.1億円
6位  クライシス2050・・・・・・・・14.0億円
7位  オーロラの下で・・・・・・・・・・11.0億円
8位  ゴジラVSビオランテ・・・・・・・10.4億円
9位  あげまん・・・・・・・・・・・・・10.0億円
10位  ドラゴンボールZ この世で一番強いヤツ  9.5億円


続きは、また今度。

 


短編集『雪明かり』

2023年09月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

藤沢周平が直木三十五賞を受賞した少し後の短編集。
1973年発表のものが1本、
74年のものが2本、
75年のものが3本、
76年のものが2本。
他の短編集に収録されたものが多い。
武家ものと市井ものが半々の構成。

恐喝

竹二郎は、ゆすりたかりで飯を食っているやくざ者だ。
今は結城屋の若旦那を、借金返済の催促で脅している。
若旦那が借金の形に連れてきた女は、
足を痛めた竹二郎に肩を貸し、
手当をしてくれた女・おそのだった。
おそのを見ると、竹二郎の胸には、
幼い頃自分を庇ってくれた従姉おたかの姿がよみがえる。
おそのだけはどうしても救いたくなり、
竹二郎は、体を張って助けるが・・・

入墨

お島の営む一杯飲み屋の前に
一人のみすぼらしい格好の年寄りが立つようになった。
お島を売り飛ばし、女と行方をくらました父親だった。
妹おりつは、物心つく前にいなくなった父親の姿を見て、
哀れだと思い、店に入れて酒を飲ませるようになるが、
お島は反対する。
島送りから帰ってきた姉の昔の男がやってきた。
お島をゆする男の前に立ちはだかった父親が・・・
このことを通じ、
父親がどんな暮らしをしていたかが分かって、悲しい。

潮田伝五郎置文

潮田伝五郎は、伊沢勝弥との果し合いに決着がつくと、
自らの腹に刀を突き刺した。
河原に二個の骸が残り、母の元に伝五郎の書き置きが残る。
その置文で、それまでの経緯が語られていく。
伝五郎には、少年の頃から女神のように崇拝した女性・七重がいた。
七重が嫁いでも、恋情は変わらなかった。
しかし、その七重に醜聞の噂が立つ。
その名誉を守るために、
伝五郎は、井沢勝弥と剣を交えたのだ。
しかし、最後に、皮肉な結末が。
七重の心には浮気相手の勝弥が生きており、
伝五郎の行為に恨みを抱いていたのだ。

穴熊

夜逃げした経師屋の娘お弓を探す博徒の浅次郎。
女を売っている場所で、お弓に似た女性と会う。
しかし、別人で、武家の者だと感じ、素性を知りたがる。
いかさま賭博で損をしてしまった浅次郎は、
仕返しのため、浪人・塚本伊織を誘い、
賭場のいかさまを暴いて大金をせしめる。
実は、塚本の妻が、あのお弓に似た女で、
病気の子どもを抱えての生活苦を助けるつもりだったのだ。
しかし、金が入ったのに、あの女はまだ男に身を売っている。
そして、夫の塚本は・・・

冤罪

堀源次郎は、部屋住みの身で、
散歩のたびに庭で畑仕事をしている娘を見るのを楽しみにしている。
しかし、ある日、娘の家は材木で釘付けにされていた。
父親は死に、娘は行方不明だという。
源次郎の耳に、
娘の父親が藩金横領の咎で腹を切ったという噂が入った。
不審に思った源次郎は、真相解明に動き、
娘の父親が冤罪で殺されたことを突き止める。
しかし、真相が表に出ることはなかった。
苦い思いの源次郎の前に、あの娘が現れて・・・

暁のひかり

壺振りの市蔵は、町で一人の娘と出会って、
かたぎになろうかと思う。
その少女・おことは病から立ち直ろうと必死に闘っていたのだ。
しかし、娘に絡んだ男をぶちのめしたことから、
逆におことに恐れられてしまう。
やがて、おことが死んだことを聞いた市蔵は、
前から誘われていたいかさまに手を染めるが・・・

遠方より来る

足軽の三崎甚平の家に、一人の男が訪ねて来た。
はるか昔、大坂冬の陣で敵の首を獲ったおり、
証拠の見届け書き付けを書いてくれた曾我平九郎だ。
見届け書は奉公の役に立たなかったため何の義理もない男だったが、
言い出せず、平九郎は図々しくも居候を始めた。
甚平は、平九郎の仕官の道を探って苦労するが・・・

突然やってきたそれほど親しくもない男に、
図々しく居候されて戸惑い、
小さな諍いを始める家族の様子がユーモラスに描かれ、
胸に残る。

雪明かり

高禄の家に婿入りし、
禄の低い実家との交流を絶たれる菊四郎。
血のつながらない妹・由乃の嫁ぎ先での不遇をほっておけなく、
手を差し延べた時、姑と許婚者から非難を受ける。
最後に兄がした決断は・・・

血のつながらない妹との愛情を描く、心に残る作品。

江戸時代の市井の人々や下級武士の、
悲喜こもごもを描いた短編集。
歴史的な事件や有名人物とは無縁の物語。
それだけに、江戸時代に生きた人々
価値観や人生観や情感がにじみ出る。
他の本を読んでいる中、
藤沢周平の作品に触れると、
ああ、こういう物語を読みたかったんだ、
とほっとする。
そういう意味で、
時々立ち戻りたくなる藤沢周平の世界だ。

 


映画『パターン』

2023年09月05日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

パキスタンの将軍カーディルは
インド政府がカシミール地方の自治権を無効化したことを知り、
テロ組織を率いるジムと共に、
インドに対するテロ計画を企てる。

ジムはかつて、インドの諜報機関
RAW(Research Analysis Wing of India) 所属の
エージェントだったが、
ある事件で国から裏切られ、妻を殺され、
自らも瀕死の重傷を負ったため、
母国インドに憎しみを抱き、
国家を破滅させるためにテロ組織を作っていたのだ。

一方、RAWのエージェント、パターンは、
一線を退いた元エージェントたちを呼び集め、
JOCRというRAWの内部組織を立ち上げる。
そのキーワードが「金継ぎ」で、
バラバラになったエージェントを
再び繋ぎ合わせて一つにするという、
日本がらみの嬉しい話。

ドバイ訪問中のインド大統領が
ジムのテロ組織に命を狙われいるという情報を掴んだJOCRは、
大統領警護の任務に就く。
しかし、大統領暗殺計画は囮で、
ジムの本当の目的は同じくドバイにいたインド人科学者の誘拐だった。
ジムの計画は、天然痘をインドにばらまき、
国家を破滅させるというもの。
ジムとパターンとの間で生物兵器の争奪戦が始まる・・・

パキスタンの美人エージェントとの恋模様、
変異ウイルスから全世界の人を救う為の
研究室の自己犠牲も描かれ、
最後は、デリーの上空の飛行機に
生物兵器が仕掛けられ、
残された時間はわずか6分という絶体絶命の状況となる。

という話は既視感があり、
まあ、いかにも作り上げられた印象。
その点で、「バーフバリ」「RRR」の
新鮮で深みのあるストーリー展開でないところが弱点だ。

ただ、「ミッション:インポッシブル3本分」という歌い文句は、
嘘ではなく、熱いアクションの見せ場の連続だ。
カーアクション、高速列車の屋根での格闘、バイク同士の一騎打ち、
超高層ビル壁面の降下、氷上バイク、ヘリ、飛行機、そして人間飛行!


凍った湖の上でのアクションでは、
美人エージェントがスピードスケートまで披露する。
列車でのアクションは、橋の爆破で
落下する列車を駆け上る脱出シーンなど、
先の「ミッション:インポッシブル」と似ているが、
真似したわけではない。
なにしろ、公開日はこちらの方が早い。
同じアイデアが重複しただけのこと。


撮影地も豪華で、
ドバイ、アフガニスタン、トルコ、イタリア、フランス等々、
ついには、シベリアのバイカル湖まで出て来る。
エンドロールでのダンスシーンが撮影されたのはスペインのマヨルカ島だという。

題名の「パターン」は主人公の呼び名で、
これはパシュトゥン人のことを指すらしい。
パターンを演ずるシャー・ルク・カーンは、


サルマーン・カーン、アーミル・カーンと並ぶ、
ボリウッドの「3人のカーン」の一人。
もう一人のサルマーン・カーンは、
同じRAWの同僚役で、通称「タイガー」で、
「タイガー伝説のスパイ」(2012)の主人公。
本作でも、パターンの危機の時、
突然救出に現れる。

パキスタンの諜報機関ISIのエージェント、
ルバイを演ずるディーピカー・パードゥコーンが華を添える。
インド映画によく出て来る超美人。


これだけ美しいと、
毎日、鏡に映る自分の姿に惚れ惚れしてしまうのではないか。
こんな美人がどんな人生を送るのかと気になる。

製作会社のYRF(ヤシュ・ラージ・フィルムズ)は、
「タイガー伝説のスパイ」「パターン」「WARウォー!!」(2019)に
今後製作される予定の「Tiger3」「WAR2」を含めて、
「YRFスパイ・ ユニバース」として展開するらしい。
インド版アベンジャーズというところか。

1月のインドでの公開時は、
インド映画界が沸騰した。
座席は数日先まで売り切れ、
シャー・ルク・カーンの初登場シーンでは場内が大沸きし、
サルマーン・カーンが突然姿を現した時も
場内は大歓声だったという。
エンディング曲では、
劇場内で歌い踊り出す若者が続出。


こういう環境で、映画を観てみたいものだ。
初日だけで、興収10億6千万ルピー(約19億円) を稼ぎ出し、
以後も興収記録は伸び続け、
2023年6月現在で世界興収105億ルピー強(約183億円) を稼ぎ、
「ダンガルきっと強くなる」(2016)、「バーフバリ王の凱旋」(2017)、
「RRR」(2022)、「K.G.F: CHAPTER 2」(2022)に次ぐ、
インド映画世界興収歴代5位となった。

ここヘ来て、インド映画が世界水準に達している。

監督は「WARウォー!!」「バンバン!」のシッダールト・アーナンド

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。
一部劇場ではIMAX上映。