空飛ぶ自由人・2

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短編集『驟り雨』

2023年03月25日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

藤沢周平の初期短編集。
1980年刊行。
既に円熟味を見せている。

10篇が収められているが、
全て市井もの。
商家を舞台にしたものは一つもなく、
全部が裏長屋に住む人々の哀歓を描く。

好短編集。


贈り物

六十を過ぎた作十は腹部に死病を抱えた日雇い。
痛みのあまり道端で動けずにいると、
同じ裏店に住むおうめが介抱してくれた。
おうめは亭主に逃げられ、女手一つで子どもを育てているが、
その亭主の借金を取り立てに来た男たちに、
女郎屋で働かされそうになっている。
作十はそれを見て、金は用意するから少し待てという。
作十は、昔の盗人仲間を訪ねて・・・
親切にしてくれた長屋の女に報いようとする
老人の切ない物語。

うしろ姿

六助は酔っぱらうと誰構わず人を連れてきてしまう、女房泣かせの悪癖があった。
今度六助が連れてきたのは、乞食ばあさんだった。
女房のおはまは数日だけ預かり、
その後出て行ってもらうつもりでいたが、
ばあさんは居ついてしまう。
六助とおはまは、そのばあさんの姿に、
悔恨を残す母への扱いを思い出す。
やがて、おばあさんの息子だという商人が訪ねて来て・・・

ちきしょう!

夜鷹のおしゅんは今夜、一人も客が付かない。
子供が病気なのでその薬代を稼がなければならないのだ。
そこに酔った万次郎がやってきて、おしゅんの客になるが、
金を持っておらず、
事が終わると逃げてしまった。
仕方ないので家に帰ると、子供は死の間際だった。
しばらくの後、おしんは町で万次郎の姿を見つけ・・・
10作中、最も悲惨な物語。

驟り雨(はしりあめ)

小さな神社の軒下に盗人の嘉吉が潜んでいた。
目星をつけた商家に入るつもりが、
雨に降られてしまったのだ。
同じ軒先を様々な人が訪れ、嘉吉に気づかず
人間模様を繰り広げる。
子どもが出来たと女に告げられておののく男。
分け前を巡っての男同士の争い。
最後に、病期の母子の姿を見て、嘉吉は・・・
場所も時間も限定した話で、
最後に救われる。

人殺し

長屋に伊太蔵という疫病神が住み着いた。
狂暴で横暴な限りを尽くす伊太蔵に、
長屋の者たちはうつむき加減に暮らしている。
若い繁太は、伊太蔵にやり返さない意気地無しの長屋の連中を見て、
ある決心をするが・・・
人々のためと思ってした行為が
歓迎されない悲哀。

朝焼け

博奕にはまった新吉は、賭場からの借金が七両に膨らんでいた。
胴元から返済日を区切られ、
金を借してくれそうな当てを考えたとき、
最後に一人の女の顔が浮かんできた。
それは、お品という、新吉が七年前に裏切り、捨てた女だった。
お品は意外とすんなり金を貸してくれたが、
この借りた金を再び博打ですってしまう。
胴元は新吉が返せないのがわかると、
ある条件を出し、
その結果、新吉はとんでもないことをしてしまう・・・。
たった一人の自分を愛してくれた女に気づく、最後が哀しい。

遅いしあわせ

飯屋で働く出戻りのおもんは、
客の桶職人・重吉のことが気になっている。
おもんには極道者の弟がいて、
離縁の原因にもなったのだが、
その弟が無心に来て、
店の裏口で言い合いとなったのを、
重吉に見られてしまう。
おもんは弟の30両のかたに女郎に売られそうになるが、
そこへ重吉が現れて・・・

運の尽き

女たらしの参次郎は、米屋の一人娘をたらしこむが、
父親の大男が現れ、
娘の婿になってくれるなんて、ありがたいことだと言って、
参次郎を連れて行き、
参次郎は米屋で強制的に働かされてしまう。
やがて、歳月が過ぎ、
一人前の商人になった参次は、
昔の遊び仲間を訪ね、
自分が変わってしまったのを悟る。
あの日が運の尽き、良い方向への運の尽きだったのだ。
笑える、後味の良い作品。

捨てた女

歯磨き売りの信助は、
頭がのろい矢場の女・ふきと同情で結ばれるが、
博奕にはまって金が無くなった時、
金のある女の元に転がり込む。
ふきを捨てたのだ。
やがて殺人をして島送りになった信助は、
戻って来た時、ふきとの生活をなつかしみ、
消息を探るが・・・
捨てた女への愛情に気づいた男を描いて、切ない。

泣かない女

錺職人の道蔵は、
出戻りの親方の娘お柳と体の関係が出来、
女房と別れるつもりでいた。
足の悪いお才に同情して一緒になった道蔵は、
女房に何の未練もなかった。
別れ話を切り出すと、
泣き狂うと思われたお才は、
あっさりと認め、静かに家を出ていった。
雨が降って来て、傘を持ってお才を探す道蔵は・・・
泣かない女の泣かせる話。

どの作品も、読み終えたあと、
ページを閉じて、余韻に浸る、
短編小説を読む醍醐味を味あわせてくれる。
うまい寿司の時、
一つ食べた後、
次に箸を向かわせず、
じっくりと味あうのに似ている。

やはり、藤沢周平はいい

篇中、
「遅いしあわせ」は、
2015年、BSフジで、
檀れい主演でドラマ化された。