空飛ぶ自由人・2

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小説『木挽町のあだ討ち』

2023年03月17日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

木挽町(こびきちょう)とは、
東京都中央区南部の旧町名。
現在の歌舞伎座周辺、銀座と築地の間にあたる。
江戸初期に、江戸城大修理の工事に従う木挽職人(のこぎりびき人夫)を
多く住まわせたのが地名の由来。
中村座、市村座と並ぶ江戸三座の一つ、
芝居小屋の森田座があった。

ある雪の降る夜に、森田座のすぐそばで、
美しい若衆・菊之助による仇討ちが成し遂げられた。
地方藩の若侍で、
父親を殺めた下男・作兵衛を追って、
あだ討ちの許しをもらい、
江戸に流れて来たのだが、
博徒となった仇(かたき)の大男を見つけ、
激しく斬りあった後、敵を倒し、
血まみれの首を高くかかげた快挙だった。
あだ討ち劇は、衆人監視のもとに行われ、
瓦版に載るなど、評判になった。

その二年の後、菊之助の縁者という若侍が
仇討ちの顛末を知りたいと、芝居小屋を訪れる・・・

第一幕 芝居茶屋の場
第二幕 稽古場の場
第三幕 衣装部屋の場
第四幕 長屋の場
第五幕 枡席の場
終幕     国元屋敷の場

と6つの章を、芝居小屋に関わる施設での聞き取り、という形で構成する。

聞き取りの相手は、芝居の呼び込みの木戸芸者
殺陣の指南役の元武士、
衣裳係を兼ねる女形
小道具係の久蔵と女房、
戯作者ら。

彼らは、あだ討ちの顛末を語るだけでなく、
当時「悪所」と呼ばれた芝居小屋に流れ着くまでの
自分の人生を語る。

遊女の子どもで、幇間(たいこもち)の経歴を持ち、
やがて木戸芸者になる一八。

下級武士の三男坊で、
仕官の道を陰謀で絶たれ、
芝居を見て武士を捨て、殺陣師になった与三郎。

飢饉の中、母親を亡くした時、隠亡(おんぼう)に拾われ、
縫い子になり、最後は、芝居小屋の衣裳係となったほたる。

息子を亡くした哀しみを
「菅原伝授手習鑑」の子どもの首を作ることで癒される
久蔵と女房のお与根(およね)。

旗本の次男坊で、大坂から来た戯作者の人生に触れ、
自身も戯作者を目指す野々山正二改め金治。
ここで、菊之助の母親と金治の意外な関係が判明する。

いずれの人物も、
苦悩の人生を芝居によって救われた経歴の持ち主。
語りの中で、芝居小屋の仕組みや分担が分かり、面白い。

そして、終章で、
聞き取りに来た若侍が何者であるかが分かり、
あだ討ちの真相が明らかになる。
そして、国元に帰ってからの顛末も。

それは、読んでのお楽しみ。

一つの出来事の証人を通じて、
ことの真相と、
各自の人生を描く連作短編集。
作者は永井紗耶子
レビューの中に「縮小版浅田次郎」という評があったが、
当たらずと言えども遠からず。