空飛ぶ自由人・2

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小説『滅びの前のシャングリラ』

2023年03月21日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

小惑星が地球に衝突する話
というと、最近の先行作品として、
映画「ドント・ルック・アップ」や
江戸川乱歩賞受賞作「此の世の果ての殺人」があげられるが、
お互いに影響を与えた痕跡はない。
というより、既に一つのジャンルと化している感あり。

今度の衝突は一カ月後、と、期限が短い。
突然政府が発表し、
直径10㎞の小惑星が衝突するという。
衝突を回避できないかと、
各国で秘密裡に努力してきたが、
ついに、衝突回避困難となった、ので発表。
衝突場所は南太平洋で、
高波が平地を襲い、
衝撃波で建物が破戒され、
粉塵で太陽光が遮られて作物は枯れ、
空気も水も汚染される。
つまり、人類は滅亡する
その報道がなされると、
世界的に暴動、略奪、自殺が起こった。
日本も東京、大阪など、都市部で激しい。

その1カ月間を、
四人の視点
4つの章建てで描く。

1.の「シャングリラ」は、
江那友樹(えなゆうき)という高校生の視点で。
友樹は、井上という同級生にパシリとして使われている、情けない男。
父親は生まれる前に死んだと知らされており、
母が女手一つで育ててくれた。
友樹は、藤森雪絵というマドンナ的存在の美少女に恋をしている。
その雪絵は、地球滅亡の情報が伝わると、
歌姫Locoのライブに参加するため、東京に行くことを決意する。
実は、幸絵には、家庭的にある事情があり、
そのため、東京に行きたいのだが、
友樹は、雪絵を危険から守るために、
遠く離れて付き添うことにする。
同じ意図を井上たちが持っており、
雪絵と行動を共にする。
しかし、井上が雪絵に暴行しようとした時、
友樹が飛び出して助け、
その後、友樹と雪絵は一緒に東京に向かう。

2.の「パーフェクトワールド」は、
目力信士(めぢからしんじ)というヤクザ者の視点で。
恩義ある人から、暴力団の幹部の殺害を依頼され、
凶行に及ぶ。
小惑星が衝突するから、そんな必要はなかったのだが、
気づいた時には、殺していた。
衝突を知ると、18年前に別れた女、静香に会いたくなり、
消息を探り、会いに行く。
ここで、友樹の話と繋がるのだが、
意表を突かれた。
おお、そうくるか、と。

3.の「エルドラド」は、
友樹の母親の視点で。
友樹と雪絵と合流した母親は、
信士を加え、4人で大阪ヘ向かう。
Locoのライブに参加するためだ。

4.の「いまわのきわ」は、
歌姫Locoの視点で描く。
友人とバンドを組んでいた時、スカウトされ、
アイドルグループの一員となり、
その後、天才的音楽プロデューサーに見出されて、
歌姫として天下を取る。
しかし、本当の自分との相克が始まり・・・

そして、最後は、小惑星の衝突当日のライブに、
友樹と雪絵、友樹の母、信士たち全員が集結する・・・

「シャングリラ」とは、
イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンの小説「失われた地平線」に登場する
理想郷(ユートピア)の名称。
ここから転じて、一般的に理想郷と同義としても扱われている。
また、エルドラドとは、
南アメリカに伝わる黄金郷にまつわる伝説。
転じて、黄金郷自体や理想郷を指す言葉としても使用される。

不幸な環境の中にいた
登場人物たちは、
あと1か月後の滅亡の前に
一つの理想郷に到達する。
それが、題名の「滅びの前のシャングリラ」。

期限をつけられた生をどう生きるか、の物語。

「孤浪の月」で本屋大賞を受賞した凪良ゆう
翌年も本作で本屋大賞にノミネートされた。