[書籍紹介]
小惑星が地球に衝突する話、
というと、最近の先行作品として、
映画「ドント・ルック・アップ」や
江戸川乱歩賞受賞作「此の世の果ての殺人」があげられるが、
お互いに影響を与えた痕跡はない。
というより、既に一つのジャンルと化している感あり。
今度の衝突は一カ月後、と、期限が短い。
突然政府が発表し、
直径10㎞の小惑星が衝突するという。
衝突を回避できないかと、
各国で秘密裡に努力してきたが、
ついに、衝突回避困難となった、ので発表。
衝突場所は南太平洋で、
高波が平地を襲い、
衝撃波で建物が破戒され、
粉塵で太陽光が遮られて作物は枯れ、
空気も水も汚染される。
つまり、人類は滅亡する。
その報道がなされると、
世界的に暴動、略奪、自殺が起こった。
日本も東京、大阪など、都市部で激しい。
その1カ月間を、
四人の視点、
4つの章建てで描く。
1.の「シャングリラ」は、
江那友樹(えなゆうき)という高校生の視点で。
友樹は、井上という同級生にパシリとして使われている、情けない男。
父親は生まれる前に死んだと知らされており、
母が女手一つで育ててくれた。
友樹は、藤森雪絵というマドンナ的存在の美少女に恋をしている。
その雪絵は、地球滅亡の情報が伝わると、
歌姫Locoのライブに参加するため、東京に行くことを決意する。
実は、幸絵には、家庭的にある事情があり、
そのため、東京に行きたいのだが、
友樹は、雪絵を危険から守るために、
遠く離れて付き添うことにする。
同じ意図を井上たちが持っており、
雪絵と行動を共にする。
しかし、井上が雪絵に暴行しようとした時、
友樹が飛び出して助け、
その後、友樹と雪絵は一緒に東京に向かう。
2.の「パーフェクトワールド」は、
目力信士(めぢからしんじ)というヤクザ者の視点で。
恩義ある人から、暴力団の幹部の殺害を依頼され、
凶行に及ぶ。
小惑星が衝突するから、そんな必要はなかったのだが、
気づいた時には、殺していた。
衝突を知ると、18年前に別れた女、静香に会いたくなり、
消息を探り、会いに行く。
ここで、友樹の話と繋がるのだが、
意表を突かれた。
おお、そうくるか、と。
3.の「エルドラド」は、
友樹の母親の視点で。
友樹と雪絵と合流した母親は、
信士を加え、4人で大阪ヘ向かう。
Locoのライブに参加するためだ。
4.の「いまわのきわ」は、
歌姫Locoの視点で描く。
友人とバンドを組んでいた時、スカウトされ、
アイドルグループの一員となり、
その後、天才的音楽プロデューサーに見出されて、
歌姫として天下を取る。
しかし、本当の自分との相克が始まり・・・
そして、最後は、小惑星の衝突当日のライブに、
友樹と雪絵、友樹の母、信士たち全員が集結する・・・
「シャングリラ」とは、
イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンの小説「失われた地平線」に登場する
理想郷(ユートピア)の名称。
ここから転じて、一般的に理想郷と同義としても扱われている。
また、エルドラドとは、
南アメリカに伝わる黄金郷にまつわる伝説。
転じて、黄金郷自体や理想郷を指す言葉としても使用される。
不幸な環境の中にいた
登場人物たちは、
あと1か月後の滅亡の前に
一つの理想郷に到達する。
それが、題名の「滅びの前のシャングリラ」。
期限をつけられた生をどう生きるか、の物語。
「孤浪の月」で本屋大賞を受賞した凪良ゆうが
翌年も本作で本屋大賞にノミネートされた。