空飛ぶ自由人・2

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映画『死体の人』

2023年03月24日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

吉田広志は、
物言わぬ死体役ばかりあてがわれている、売れない役者。
撮影現場では、名前で呼ばれず、
「死体の人」と言われている。

陰での評価は、
「こだわりはすごいんだけど、演技がねえ」。
こだわりとは、
台本を読み込んで、
死後硬直だの、水死体の膨張だのを主張。
監督にはうるさがられ、
死体の映像をカットされたり、遠景で処理されたりしていて、
事務所に叱られている。

撮影現場で、後輩役者と遭遇し、
「座長」などと呼ばれることから、
昔、劇団を主宰していたことが分かる。
今は売れっ子になっている後輩には、
「あんまり(役の)作り込み、しない方がいいですよ。
どうせ伝わりませんから」
などと言われる始末。

ある時、呼んだデリヘル嬢の加奈が忘れていった
妊娠検査薬を、きまぐれで試してみたら、
陽性反応が出てしまった。
男なのに、妊娠?
そのデリヘル嬢は、
音楽活動をしている男と同棲しているが、
そいつは、働かず、加奈の稼いだ金で
賭けマージャンにのめり込む、クズだった。

加奈が妊娠してしまい、
堕ろせという男の命令で
医者を訪ねる時のパートナー役を広志は頼まれてしまう。

この話に、実家で心臓の悪い母と父の話がからむ。

死体役は、セリフもなく、
演技の必要もない役なのだが、
広志が役者としてこだわるのが面白い。
しかも、空回り。
いやな役だが、誰かがしなければならないのだ。

その死体専門(?)俳優の日常を描いて、良い着眼点

いくつか笑える場所がある。
父母から見合い写真を見せられて、
顔じゃない、顔じゃないと言うので、
「二人とも、その人に失礼じゃないか」

撮影現場で、
「あ、死体の人は、そこで死んでて下さい」

心臓の具合が悪い母を気づかうと、
「私が死ぬ? 死体はあんたで十分だよ」

母親が死の間際に、
「死にざま、よく見て」
と自分の死を息子の役作りに役立てさせようとするところなど、
笑う、というより、切ない。

母親を演ずるのは、烏丸せつこ
クラリオンガールも、すっかりおばあさん。(失礼!)68歳。
広志を演ずるのは、奥野瑛太


結構、いろいろな映画に出ている人だ。
加奈を演ずるのは、唐田えりか


レビューに『色々あって久しぶりの唐田えりかさん』とあり、
何があったのかと調べたら、
この人、東出昌大の不倫相手で、
ホされた人だった。
きれいだね。

加奈と男の別れ話にからめ、
広志が大芝居をする。
死体役の経験が生きて、うまい展開。
最後に、妊娠検査薬陽性反応の理由が明らかになる。

演技をやめられない売れない役者の
理想と現実のはざまでの悲哀を
生きること、死ぬことにからめて描く、
拾い物の小作品だった。
最後の監督のねぎらいの一言で報われる。

“まだ存在しない映画の予告編”で審査する映像コンテスト
「未完成映画予告編大賞」最優秀作品の映画化。

5段階評価の「4」

シネクイント他で上映中。