ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

オペラ座追記

2007-07-13 11:42:35 | ノンジャンル
「オペラ座の怪人」について、もうちょっと思うことがあったので追記。
大ちゃんとは特に関係ありませんが。

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原作読んでて思ったんですが、これ、プロットから考えて行くと、ファントムって絶対主役じゃなくて悪役ですよね。


原作のプロットとして、まずは

●オペラ座の地下に棲む恐ろしい怪人

があるとする。
そしてその怪人と戦う主人公としてラウルくん登場。

●オペラ座の怪人 VS ヒーロー・ラウルくん

という構図。
しかしそのままではお貴族様ラウルくんに、わざわざファントムくんと戦う義理も理由もない。ではどうするか。やっぱり男なら、好きな女の子を守るために戦うのがロマンだよねってことで、ヒロイン・クリスティーヌ登場。
折角「オペラ座」という舞台があるんだから、舞台の上でスポットライトを浴びる歌姫が良いでしょう。一躍大抜擢を受けたシンデレラ・ガールだとよりそれっぽい。

●ヒロイン・クリスティーヌに怪人の魔の手が!愛する人を守って戦え、ラウル!

定番中の定番です。いいですねえ。こういうベタで明確な燃え路線のプロットは大好きです。ていうか、こう考えると、いかにガストン・ルルーがきっちりプロットを練っていたかが分かるような気がします。話の骨組みがちゃんとしているからこそ、細部の肉付けが活きてくる。
こうなると、怪人がクリスティーヌを狙う理由が必要ということで、「怪人はクリスティーヌに想いを寄せている」という設定が追加されます。クリスティーヌの「シンデレラガール」の部分が、この怪人との関係に関連してくると尚面白いので、クリスティーヌ抜擢の影に怪人の指導と暗躍ってことに。

●クリスティーヌの素質を見抜き、シンデレラガールに仕立て上げた怪人は、彼女を自分のものにしようと地下に連れ去る。連れ去られた恋人を救うため、ラウルは怪人と対決する。

これで話の大まかな骨組みは完成しました。あとは細部を肉付けするだけ。
問題は、ファントムのキャラが余りに濃過ぎて、ノーマル好青年なラウルくんが完全に食われてしまったことです。
しかも最後のオチ。ヒーロー・ラウルくんは悪役・ファントムを倒す事ができず、代わりにヒロイン・クリスティーヌの愛がファントムを救ってハッピーエンド。これでラウルは完璧に置いて行かれてしまいました。

それでも最初に作られたホラー映画では、クリーチャーとしてのファントムをラウル(やその他の人)が倒すという、元々の基本プロットに近いラインだったみたいなんですが(だからこれはこれでアリなんですよね)。

この物語を一躍有名にしたALW版のミュージカルでは、ファントムとクリスティーヌの関係をクローズアップし、物語の主軸にしてしまいました(最後にオチを付けたのがそこなんだから、これはこれで原作に忠実だと言えなくもない)。
こうして主役は完全に、ラウルからファントムへと交代してしまいました。

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…という話だと思ったんですが、どうでしょう。
だから何だと言われても何もないです。単に私が楽しかっただけ。

高橋版・オペラ座の怪人

2007-07-13 08:59:20 | 日記
新潟のCOIでお披露目された新しいEXが(部分的にしか見れてないけど)、ちょっとシュールで変わった感じだったんですが。よく考えたらこれも、初めて「ノクターン」を見た時に私が彼に抱いたイメージにすんなり当てはまるような気がします。
あの時、「この人はこれから、他の人があんまりやらないような変わったことをやってくれそう」と漠然と感じたのを思い出しました。単なる演技者ではなく、クリエイターとしての資質を感じたんじゃないかと思います。
なので、競技用の曲が王道ど真ん中の「オペラ座の怪人」だと知った時は、寧ろそっちの方がなんだか意外でした。
でも試合で戦うためには、審査員に分かりやすい王道曲の方が有利ですもんね(別のリスクもありますが)。そして「オペラ座」はベタベタの王道曲であると同時に、とても曲者な曲であるところが、今から思えば絶妙な選曲だったかなと思います。

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これが女子ならば、演じるキャラクターはクリスティーヌですから、比較的等身大で演じられると思います。しかしファントムくんは等身大以前に、一般的なヒーロー像からかなりかけ離れたキャラクター。
詐欺師で脅迫者で誘拐犯で、落とし穴大好きの改造マニアで仕事人もびっくりの首絞めスキルを持った殺人犯でストーカー。ヒーローというより寧ろ悪役ですね。立ち位置的にも、キャラ造形的にも。
しかもこういう人を、「主役」として演じなければならないという難しさ。

見た感じはファントムくんを「悲劇のヒーロー」として演じられることが多いかなと思います。不幸な生い立ち&叶わぬ恋に身を焦がす切なさ、みたいな。実際ミュージカルでもそこが強調されているし。
でも私としてはそれだけでは物足りない。ファントムくんの残虐さ、エゴイズム、恐怖でもってオペラ座に影の主人として君臨する悪のカリスマ性。

大ちゃんの演じるファントムくんの魅力は、そう言った「悪」の側面までちゃんと演じられてる所だと思います。特にスケートカナダのファントムくんが真っ黒でステキです(ジャンプはアレでしたが)。5連続ジャンプの前にアピールする所、欲と恨みの念が籠った強烈な上目遣いがたまりません。

何度も書いてることですが、こういうキャラを演じるのは、経験や技術だけでは足りない、と私は勝手に思ってます。自分が常に正義の側にいると信じて疑わない人、というのが世の中には結構いますが、そういう人はどんなに演技力があってもダメだと思うんですよね。誰の心にもある闇の領域、それが自分にも確かにあることに気づいて、そこに想いを重ねられる人でないと。

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しかし確かに、ファントムくんことエリックくんは、ヤバい人であると同時に哀しい人でもありました。
己の醜さに絶望し、醜さ故に人生を奪われ、闇の底深くに棲みながら、美と光とに恋焦がれ、何より愛に飢えていた。
彼にとって美と光の象徴であったクリスティーヌ。彼女の愛を求めてエリックは、彼女を力づくで連れ去り、自分だけのものとするために脅迫します。一方的で自分本位な愛情。
それに対してクリスティーヌは、彼に愛情を与えた。たった一度のキスではあったけれど、騙されたのでも脅しに屈したのでもなく、彼女自身の意志で示した愛。それはエリックが永らく求めても得られることのなかった愛情だった。
ようやく飢えを満たしたエリックは、そこで初めて「求める愛」ではなく「与える愛」を理解したのではないでしょうか。自分ではなくクリスティーヌのために、彼女の幸せを願って光の中に送り出し、自分は独り闇の中に消えて行く。

うーん…。この話を最初、「芸術(=ファントム)と社会的身分(=ラウル)を秤にかけて、結局後者を選んだクリスティーヌ」という図式だと短絡的に解釈してしまった自分が恥ずかしい。恥ずかしいので戸田奈津子に責任を押し付けておきます。実際、この人の字幕は鵜呑みにすると危険です。
それとやっぱり、舞台や映画のファントムは外見がかっこ良過ぎるのも問題かも。そのせいで、クリスティーヌが男を天秤にかけてるように見えちゃうんですよね。原作を読むと、ファントムが到底恋愛の対象をはなり得ない存在である所から物語が始まってるのがよく分かります。

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話を大ちゃんに戻します。

キャンベルで最初に披露された時には、フィニッシュは跪いて手を付くポーズでした。ファントムが闇の中に姿を消す、というミュージカルの筋書きに準じたものだと思います。
それがスケートカナダ以降、天を仰いで仮面を剥ぎ取るフィニッシュに変更になりました。
ファントムが闇に消えるラストはミュージカルだと余韻がありますが、4分余りのプログラムのラストとしては弱い印象。それに対して仮面を剥ぎ取るフィニッシュはミュージカルにはない場面ですが、劇的でカタルシスがあります。

そしてここから、原作ともミュージカルとも違う、大ちゃんだけの「オペラ座の怪人」が新しい展開を見せて行ったような気がします。

ファントムの黒さだけでなく悲しさも、狂気に満ちた切ない想いも、彼はまるで自分の感情のように表現していました。彼にはいつも、それが演技ではなくリアルな彼自身の感情であるように錯覚させられるんですよね。
特に「オペラ座の怪人」は、最後のストレートラインステップで演じられるファントムの狂気が、そのまま会場の熱狂を巻き込んでどっちがどうなのか分からなくなって来る。それが仮面を脱ぐフィニッシュで劇的に幕を閉じる。あそこで「ファントム」の仮面が外され、素の彼へと切り替わる。
ファントムの狂気に翻弄されていた私たちも、そこで現実に戻って大ちゃんに拍手を送ることができるという感じ。

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そして世界選手権。
仮面を外して、さてどんな大ちゃんの顔が出て来るんだろう、と思っていたら、泣き顔でした。
最初はちょっとびっくりしたんですが、声を上げて大泣きしている彼を見ている内に、ああ、やっとこの人は自分を許せたのかなという気がして来ました。これまで色々しんどい思いをして来ても、結果を出せない以上、それを表に出してはいけないと自分に言い聞かせて背負い込んで来たものが、東京のこの舞台でここまでやれた!というので、やっと自分で自分を解放できたのかなと。
それと同時に、変な感覚というか妄想が脳裏を過ったんですよね。あの仮面を取った瞬間、パリのオペラ座の地下で闇の中に横たわっていたファントムくんの魂が、東京の空の下に解放されたような。
ヨーロッパのお化けは何百年でもふらふらしてますが、日本の幽霊はちゃんと成仏しますから(笑)。なんか大ちゃんが、自分の感情と一緒にファントムくんをきっちり成仏させてあげたようにも見えました。
自ら仮面を剥ぎ取り、その素顔を白日の下に晒すファントム。原作にも、ミュージカルにもなかった救いのある結末を、彼は自分の生身の生き様を重ねることで完成させたのかも知れません。

だから多分、もうファントムくんの呪いを恐れて蹄鉄画像を貼る必要もないかなと思います(そう言いながらまた別のお守り画像を探して来そうですが私の場合)。

それともう一つ、忘れてはいけないのがサーキュラーステップですね。特に後半、「ミュージカルの中で最もゴージャスな場面」と言われる仮面舞踏会のシーンを、たった一人で再現しているのが素晴らしい。日本人にあんなゴージャスな表現ができるなんてと思うと、改めて感動してしまいます。

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なんか結局、イタくて長い語りになってしまいました。
でも大ちゃんをきっかけに、「オペラ座の怪人」に出会えて楽しかったです。音楽もかっこ良かったし原作も面白かった。勢いで9月に四季の舞台のチケットも取ってしまいました。
また次の、新しいプログラムも楽しみにしています。