ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

波にゆられて

2008-09-10 02:08:21 | 日記
大ちゃんの新しいFS(の一つ)、「Ocean Waves(波)」。
如何せん演技自体を見ていないので、何ともコメントできないなあ…と思ってたんですが、色々考えてるとなんか面白くなって来たので、メモ代わりに軽く。

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装飾的な要素をギリギリまで省いたような、非常にシンプルで抑揚を押さえた音楽は、華やかでメリハリの効いた音楽が好まれるフィギュアスケートには縁がなさそうにも思えるのですが、過去にこの曲が使われたこともあるんですよね。

ダイスケファンの皆様は既にご存知かと思いますが、フランスのアイスダンサー・ディシュネー兄妹1991年のプログラムだそうです。振付けを担当したのは「ボレロ」で有名なトービル&ディーンのディーンさんですね。

私は基本、同じ曲を別の人が使っていてもあんまり気にしない(単に知らないせいもあるけど)主義なのですが、今回わざわざネタにしたのは、カメレンゴさんの頭の中に、このディシュネー兄妹のプログラムがあったのはほぼ間違いないだろう、というお話をベテランのスケートファンの方から伺ったからに他なりません。

当時カメレンゴさんは現役のアイスダンサーで、ディシュネー兄妹のちょっと後輩くらいの世代だったとか。ジョージ・ウィンストンの音楽は、当時新しい音楽のジャンル「ニューエイジ」として一大ムーヴメントとなっていたそうです。そんな「新しい」音楽を使った非常に斬新な振付けとしてこのプログラムも話題を呼んだそうですが、そういう周囲の反応や空気観まで含めて、分かった上でこれを大ちゃんにと持って来た。それがすごく面白いなと思いました。

ディシュネー兄妹のプログラムはWeb上で見れました(非公式な所なのでリンクは貼りませんが)。
まず、衣装を見てびっくりすると同時に、かなり明確なコンセプトを感じました。通常、アイスダンスは男性と女性を演じることが多い(実際、男女で滑るものだし)。ストーリー性のあるものなら当然のようにヒーローとヒロインが演じられる。
でもこのプログラムでは、敢えて「男性」「女性」という要素を排除している。それどころか、「人間」であることさえ極力隠そうとしているかのような衣装。
通常の、美しい身体のラインを強調する華やかな衣装とは真逆の、身体の線を隠し、ギリギリまで装飾を省いたシンプルな衣装。
「人間ではありません。生物ですらない自然の存在、「海」そのものを表現しているのです」
そう高らかに宣言しているような衣装、そして振付け。

この大胆なコンセプトの作品をカメレンゴさんがどう料理するのか、そして大ちゃんがどう演じるのか、ものすごく興味あります。
いや、ぶっちゃけ大ちゃんが滑るなら何でもみたいけど、それにしてもこれは面白い。

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ディシュネー兄妹のプログラムって、アイスダンスに疎い私にもはっきりと分かるくらいの、「王道外し」のプログラムだと思います。

別にフィギュアスケートに限らず、私は「王道」は決して悪いものではないと思っています。
王道ゆえにマンネリ化する危険性は常にあるものの、裏を返せば、それがいいもの、確実にうけるものだからこそマンネリ化するほど使われて来たということでもあるので。

その正攻法から外れる「王道外し」は、上手くやれば他者との差別化に繋がり、注目を集めることができる反面、失敗する危険性が高い。
従来の価値観を排除することになるのだから、それに代わる新しい価値観を提示しなければならない訳で、そこを押さえずにただ王道を外すだけだと何がやりたいのか分からない、単なる「無価値」になってしまう。

でもだからこそ、本当にセンスがある人の「王道外し」は是非見て見たい。それこそ、従来にはない新しい表現が見えて来そうでワクワクします。
カメレンゴさんが大ちゃんにこの曲を選んだっていうあたりに、大ちゃんへの期待を感じるんですよね。
そして大ちゃんがこの曲に対して躊躇するのも分かるような気がします。彼には王道を外すことの怖さが分かってるんじゃないかなと。
でもだからこそ、やって欲しいですね。どうせなら、王道を外すことの怖さと難しさをちゃんと分かってる人にこそ。

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それにこの曲のコンセプトって、面白いくらいに「eye」と対照的ですよね。
「eye」のイメージカラーは赤。情熱の炎。カラッカラに乾いた空気と照りつける太陽。そんな太陽の下、ドロドロして生々しい、生身の人間の渦巻く感情を連想させる泥臭く人間臭い表現。
「Ocean Waves」のイメージは当然青。水の色。揺らめく波と淡い光。人間ではなく、生物ですらない。大自然の中で浮き世のしがらみから離れ、あらゆる感情から解脱した静謐の表現。
単に「表現の幅を見せる」だけではなくて、二つで1対の壁画のような、合わせ鏡の物語を見ているような面白さを感じます。
それぞれ別の振付師の作品なのに、ちゃんとセットになっているのが面白い。

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そういう訳で見てみたいですね。
もうひとつあるというFSも、曲名を知ればきっと見たくなるんだと思うんですが(そういえば、NHK杯の記者会見でも出て来なかったですね。まだまだ企業秘密?)、今は取りあえず「Ocean Waves」が見たいですすごく。
NHK杯の記者会見ではえらい男前になっててびっくりしました。髪型もさることながら、身体のラインがきれいに出ているスーツのシルエットに驚き。ああいう風に全身のバランスで服選べるのってやっぱりセンスですかね。
アホなことばっかり書いてますけど、やっぱり一番のポイントはSPの4回転ー3回転ですね。前年にFSで2度の4回転を達成したから、次は当然そこを目指すだろうとは思ってましたが、それでもかなりドキドキします。

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拍手コメントへのお返事
■9月7日22時頃
私信につき詳細は省きますが、こちらこそありがとうございました。
あの頃の花とゆめって面白かったんですよ。絵にはクセがある人が多かったけど、その分中身が濃かったですね。

最近読んだ本とマンガ

2008-09-06 01:13:06 | 漫画
永久帰還装置 (ハヤカワ文庫 JA (918))

大分前に出てたんですが、ずっと読みそびれてました。
新装版で出てたのを買ってやっと読めました。

最後まで読んで、やっとこの作品が「SF小説」ではなく、「SF小説の形を借りた恋愛小説」であることに気づきました。「恋愛小説」ってジャンルが好きな人は、多分この本読まないだろうなと思うような恋愛小説ですが。
でも見方によっては、ものすごく純粋な恋愛小説って気もしないではないです。
だって「愛とは何か」をとことんつきつめて考える、ただそれだけのために「多次元構造の世界を渡り歩き、世界に干渉する邪悪な高次の存在であるボルターと、それを追う永久刑事。彼らの干渉を受け、変容する世界に巻き込まれた女は…」とか言う大掛かりな舞台装置をわざわざ用意してる訳ですよ。
そんな訳でこれは、とことん理詰めで語られる愛の物語だと思いました。
結論から言えば、タイトルの「永久帰還装置」っていうのが、即ち「愛」のメタファーなんでしょうね。世界が変容しても、自分が変容しても、自分の帰るべき場所がどこなのかを教えてくれる道標。
本来比喩的に使われるであろう表現を、本当にやってしまう所が流石です。
そして相変わらず、猫が重要なキーポイントになってる所が神林さんらしい。
個人的にはキベーレのキャラクターがちょっと新鮮でした。

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聖(セイント)☆おにいさん (2) (モーニングKC (1720))
聖☆おにいさん 1 (1) (モーニングKC)

「東京の立川で同居するブッダとイエス・キリスト」という設定が気になって買ってしまったマンガ。
およそ「生活感」からはほど遠い崇高で神聖な存在であるはずの聖人二人を、「生活感」のド真ん中に投げ込んでそのギャップを楽しむギャグマンガです。
パロディというのは元ネタを知らないと楽しめないものですが、神様仏様ならみんなが知ってるからその点誰にでも楽しめる…と思いきや、結構マニアックなネタも入ってるので、仏教とキリスト教に関してそれなりに知識があるとより楽しめるかも。あと、宗教に対してあんまり堅苦しく考えない方が楽しめるかもです。
「ジョニデに似てると言われて喜ぶイエス・キリスト」とか、結構いい感じに意表を突かれました。
新選組コスプレまでやっちゃうキリスト様には、是非眠狂四郎のコスプレにも挑戦して頂きたい(眠狂四郎には、「顔がキリストにそっくり」という設定があるのです…)。

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妖怪研究家ヨシムラ (怪COMIC)

livedoorのデイリー四コマでやってる五コマ漫画。まさか本当にデイリー四コマから単行本化されるとは思いませんでしたが、デイリー四コマでも人気があったし、そこから「怪」への掲載があったりして、見事単行本発行と相成りました。
胡散臭さと普通っぽさを併せ持つヨシムラの妙なリアリティと、妖怪のくせにやたら人間臭い妖怪たちがたまりません。表紙にもなっているカッパのブリックとヨシムラの奇妙な友情(?)など、随所にホロリとくるネタもあり、たかが四コマと侮れない味わい深い作品になっています(五コマだけど…)。
好きな妖怪は
・カッパのブリックとその友達(子供って不条理だ)
・まくらがえし(イキがってる小物)
・あかなめ(スイーツ(笑)なねえさん)
・あずきとぎ&あずきはかり(職人気質)
・男泣きじじい(ハードボイルド)
・あまのじゃく(ハードボイルド)
・芹沢教授(そう言えば人間だった)
…その他、枚挙に暇がありません。

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イヌジニン ―犬神人― (1) (怪BOOKS)

ついでに買ってみた、「ヨシムラ」と同じ作者のマンガ。
犬神人とは、平安時代に京都のある神社に仕えた下級の神職のこと。神社の様々な汚れ仕事を請け負い、人々に畏れられていたとか。
そんな犬神人たちが現代の日本で活躍し、淀んだ「気」と人間の暗い思念の結びつきによって生まれる「怪(け)」を退治して行くという設定のマンガです。
「ヨシムラ」とはうって変わって大人向けのマンガです。絵柄が何か、エグいネタを描くときの富樫義博みたいな感じになってるんですが…(ていうか、基本は伝奇「ホラー」なのでその点ご注意を)。
「ヨシムラ」からもちらちら垣間見える、作者の知識の豊富さと人間観察眼の確かさはこの作品でも健在です。
1話完結で4話収録。1話で「目」の広田さん、2話で「耳」のもときくん、3話で「手」の三隅さん、4話で「声」の樹さんと順番にフューチャーして行って(でも一貫した主役は三隅さんぽい)、この1巻で設定の大まかな全体像が把握できる感じです。上手いね。

元・田舎のコドモです。

2008-09-05 18:23:09 | ノンジャンル
関西に出て来て5年くらいになりますが、都会で(私にとっては大阪も神戸も大都会)で生まれ育った人とはやっぱり感覚が違う。自分は根っこは田舎者なんだなと今でも時たま思う日々。

…というネタから始まって、未だにだらだらと「うたばん」の大ちゃんの話。
「生まれ変わったら、(フィギュアスケーターではなく)ダンサーになりたい」発言で、2006年のFOIを思い出しました。初めて生で見たフィギュアスケート。初めて生で見た大ちゃんの演技。そして初披露だったEX版「ロクサーヌ」の衝撃。
この人はきっとスケートじゃなくても、ダンスでもなんでも、とにかく身体を使ったパフォーマンスであれば世に出られる才能の持ち主なんじゃないのかと思ったものです(身体の硬さえクリアできれば…)。

しかし同時に、彼の生まれ育った環境からするに、フィギュアスケート以外のルートで「踊る」こととの接点を持つのは限りなく不可能に近かったような気もします。
大阪や神戸では子供向けのダンススクールが結構流行ってるみたいですが、地元でそんな小洒落た習い事に通ってる子なんて見た事ないし。

そうして見ると、結構生まれ育った場所の「地の利」の差ってバカにできないと思ってしまった。私みたいに腰が重い人間だと、学校出てから「夢を叶えるために」思い切って都会へ出て来るのに10年かかってしまいます(それ以前に「岡山では夢を叶えるのはどうも無理っぽい」という事に気づくのに10年かかってる)。根性と才能さえあれば乗り越えられる差…なのかも知れないけど、やっぱり最初から都会で生活していると、スタートラインの段階では有利だなと思います。

大ちゃんに話を戻すと、彼はフィギュアをやってたからこそ舞台やミュージカルの世界に接することができたり、ダンスを習ったりできた訳で、だからこそ「もし、最初からダンスの方を目指す事が出来ていたら?」と思ってしまう気持ちは分からないでもなかったり。
でもそもそも彼の場合、フィギュアに出会えた事自体が奇跡に近いんですよね。
田舎のコドモだった私は、サンピア倉敷が出来るまで、フィギュアスケートが「習える」もんだなんて想像だにしなかったです。

…という訳で、そんな大切な倉敷のスケートの拠点・サンピア倉敷についても動きがあった模様です。
倉敷・スケート場存続問題:市長、県連盟による臨時営業許可を要請へ /岡山
市長、本当に東京まで行ってくれたんですね。いや、疑ってた訳じゃないけど、なんか忙しそうだったので。スケート連盟の橋本会長との会談の記事からしても、存続にかなり前向きな姿勢を見せてくれているのが有り難い限りです。
この記事を見る限りでは「ウェルサンピア倉敷」という施設自体の先行きは未だ不透明なままのようですが、そんな中でもスケートリンクだけは使えるようにと動いて下さっているみたいですね。感謝しつつ、この先良い方向に進展することを祈ります。

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拍手コメントへのお返事
■8月26日4時頃
お返事が遅くなってすみません。
番組としてこれで大丈夫なのか?という心配を余所に、茶化さず真剣に答えてくれましたね。>SMAP
モチベーションに関する質問は確かに、「ボクらの時代」では、表現の要素を持ちながら、あくまで基本はスポーツであり、勝負の世界であるフィギュアスケートと、純粋な表現の場である舞台芸能との違いを意識していたと思うので、そういう意味での興味もあったのかも知れないですね。