こんだけ大ちゃん大ちゃん書き散らかしてる私が「フィギュアスケート」のカテゴリを作らなかったり「フィギュアファン」を名乗らなかったりするのには幾つか理由がありまして。
その一つが、「細かいルールを覚えるのがめんどくさい」だったりします。私が今から勉強したって、審査員と同じレベルで分かるようになるとも思えないし(基本的に根気がないので間違いなく挫折する)それに、ルールが分かれば面白くなることもあるけど、同時に細部にばっかり目が行っちゃうと全体像が見えにくくなることもあるんじゃないかなと。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、私は基本、細かく木を見るのが苦手なズボラ人間です。でも最近、全体をざっくり大づかみで見る自分の物の見方もある意味特技と言えるらしい、と気づいたので、多分私はこのまま永遠に初心者だと思います。
***
ある有名な体操の先生に話を聞いたことは大分以前に書いたと思います。
先生曰く「体操の採点基準はコロコロ変わる。でも基礎がきちんとできていれば対応して行ける」のだそうで、同じ採点競技であるフィギュアにも同じ事が言えそうだなと思いました。
よく「採点基準の変更で弱点を狙い撃ちされた」なんて言いますが、「基礎をきちんとする」ということは、「狙い撃ちされる弱点を最初から作らない」ことに繋がるんでしょうね。
で、「基礎をきちんとする」ために何をするのかと言うと、コーチは「ひたすら言い続ける」のだそうです。
選手は誰でも難しい技をやりたがるが、簡単な技を単に「できる」だけでなく、「正確なフォームで」できるようになるまで難しい技はやらせない。何度でも指摘し、言い続ける。
コーチが言うことを止めれば、選手は「自分は正しくできている」と思って、ずっと不正確なフォームのままになってしまうからだと仰ってました。
その上で、「メダルを取る選手というのは、まず始めに『金メダルを取る』と目標を決める」のだそうです。金メダルを取るために何が必要か、今の自分に何が欠けているのかを考えた上でその差を埋めるような練習をする。漠然と「がんばって練習して上手になればメダルが取れるかも」という考えでは絶対に勝てない、とこの辺はフィギュアどころかスポーツ以外のジャンルにでも当てはまりそうだなと思います。
***
こうして考えてみると、上記の事をきっちり実践したのがトリノの女子金メダリスト(及びそのチーム)で、それをさらに徹底したのがバンクーバーの女子金メダリスト(及びそのチーム)かなと思いました。
実際にどんな練習をしてたのかなんて分かりませんけどね。でもコーチ自ら勝負の鍵を「GOEだ」と発言してたくらいですから、ジャンプひとつにしても単に跳んで降りるだけではなくて、GOEが付く跳び方=審判に評価されるより正確な跳び方を目指した練習だったんじゃないかと勝手に解釈。
トリノにしてもバンクーバーにしても、選手・コーチ・振り付け師が的確な戦略に基づいて足並みを揃えて、勝つための準備が一番出来ていた選手が金メダルを取ったな、と言うのが、女子シングルを見ての私の印象です。
4年前はその点でモロゾフ氏が一歩先んじてたけど、この4年で他のコーチも採点法に慣れて来て追いつかれたような気がしないでも無かったり。それだけが理由じゃないとは思いますけどね。F1でもそうなんだけど、いくらチームが戦略を練っても、選手がそれを実行できないと意味ないですからね。
あ、でも難しいジャンプはトリプルアクセルと4回転しかないとでも言わんばかりの報道はさすがにどうかと思いました。素人には一番分かりやすいですけどね。3回転半と4回転。
でも男子の4回転&女子のトリプルアクセルがないというそれだけで「ジャンプ=技術で勝ったんじゃないなら芸術性だー」みたいなえらい短絡的な報道さえあったような。
女子の金メダリストは3ー3のコンビネーションジャンプを跳んでいるし(SP・FSの両方で成功させているのは五輪史上初だとどっかで聞いたような)、銅メダルの選手はアクセル以外の5種のトリプルジャンプを揃えているそうですし。「難度の低い無難なジャンプ構成」なんて簡単に言えるものではないはず。
ていうか、どうもトリノ以来ぼーっと試合を見ててなんとなく、「男子の試合で鍵を握るのは4回転よりも3A」「女子の試合で鍵を握るのは3Aよりも3ー3」なんじゃないかなーと思うんですが。
***
という訳で男子、「4回転論争」。
ちょっとだけ分かって来たぞ。
4回転ジャンプは確かに、3回転以下のジャンプに比べると点数が高い。
でも4回転ジャンプを跳ぶことで、4回転抜きのプログラムの上に、4回転が入る分の点数を単純に上乗せできるかというと中々そうは行かない。
体力を消耗する4回転ジャンプを跳ぶために、(1)つなぎを薄くする。(2)後半のジャンプを少なくする/難度を下げる。などの方法で負荷を減らすと、ジャンプの基礎点分のアドバンテージが消えてしまう。しかも大抵の場合それだけでは済まず、体力の消耗が原因でレベルを取りそこねたり他のジャンプをミスしたりしてかえってマイナスになんてことになる。
何でトリノ世界選手権での大ちゃんのFSが、(4回転は失敗したにも関わらず)あれだけ評価されてるのかって言うと、4回転を跳んだ(そして失敗した)にも関わらず「後半に3A含めた5つのジャンプを跳んで大きなミスなくスピンステップはオールレベル4でつなぎも評価されている」からだった…という事なんでしょうか。
これならば、仮に4Fが成功してれば(4Tでもいいけど)、4回転の入ってないプログラムに、そのまんま4回転の得点を上乗せすることが可能って訳で。多分それが、今のルールに於ける理想のプログラムなんじゃないかなと思った次第です。
逆に言うと、そこまでやらないと、4回転は「美味しくない」ジャンプってことになってしまうのかも知れないですね(それでまたルールが変わる動きがあるみたいですが)。
そこで4回転を美味しく使える理想の演技を目指すのか、現実を見て美味しくない4回転を外すのか。若手はともかく、ベテランの域に入って来たトップ選手には悩ましい所なのかなと思います(実際、バンクーバーで金メダルに輝いたのは後者の選手ですしね)。
そういう中で大ちゃんは常に前者を目指して来た訳で(だからこその世界最高得点)、その姿勢をあの怪我の後でも保ち続けることができるという事は尊敬に値するし、同時にそれができるというのはすごく幸せな選手だなと思うし、支えてくれる周囲の方達にも感謝ですね。
***
この度は、普段やり付けないルールの(ごく大雑把な)話などして疲れました。
何度も言いますが、実際ルールとかよく分かってないので、事実誤認などありましたらご容赦下さい。
スケートのもうひとつのキモである「表現力」についてはまた次の機会に。
***
拍手コメントへのお返事
□2010/5/9 1:20
こんばんは。私は4年前からのファンなんですが、この4年間の展開とオリンピック&世界選手権での幕切れが劇的過ぎて、いつまでも感慨に浸ってしまいますね。
私も正直なんでこんなにどっぷりハマっているのか謎なんですが、ハマりモノがないのってすごくつまらないので、ここまでハマらせてくれる大ちゃんには日々大感謝です。
そしてまだまだ物語が続いて行くのも嬉しい所。ボーンさんの振付け、決まると良いですね。ボーンさん自身も素敵だったし、鈴木選手のウエストサイドストーリーは個人的にバンクーバーシーズンの女子のプログラムでは最高傑作だったと思います。
その一つが、「細かいルールを覚えるのがめんどくさい」だったりします。私が今から勉強したって、審査員と同じレベルで分かるようになるとも思えないし(基本的に根気がないので間違いなく挫折する)それに、ルールが分かれば面白くなることもあるけど、同時に細部にばっかり目が行っちゃうと全体像が見えにくくなることもあるんじゃないかなと。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、私は基本、細かく木を見るのが苦手なズボラ人間です。でも最近、全体をざっくり大づかみで見る自分の物の見方もある意味特技と言えるらしい、と気づいたので、多分私はこのまま永遠に初心者だと思います。
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ある有名な体操の先生に話を聞いたことは大分以前に書いたと思います。
先生曰く「体操の採点基準はコロコロ変わる。でも基礎がきちんとできていれば対応して行ける」のだそうで、同じ採点競技であるフィギュアにも同じ事が言えそうだなと思いました。
よく「採点基準の変更で弱点を狙い撃ちされた」なんて言いますが、「基礎をきちんとする」ということは、「狙い撃ちされる弱点を最初から作らない」ことに繋がるんでしょうね。
で、「基礎をきちんとする」ために何をするのかと言うと、コーチは「ひたすら言い続ける」のだそうです。
選手は誰でも難しい技をやりたがるが、簡単な技を単に「できる」だけでなく、「正確なフォームで」できるようになるまで難しい技はやらせない。何度でも指摘し、言い続ける。
コーチが言うことを止めれば、選手は「自分は正しくできている」と思って、ずっと不正確なフォームのままになってしまうからだと仰ってました。
その上で、「メダルを取る選手というのは、まず始めに『金メダルを取る』と目標を決める」のだそうです。金メダルを取るために何が必要か、今の自分に何が欠けているのかを考えた上でその差を埋めるような練習をする。漠然と「がんばって練習して上手になればメダルが取れるかも」という考えでは絶対に勝てない、とこの辺はフィギュアどころかスポーツ以外のジャンルにでも当てはまりそうだなと思います。
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こうして考えてみると、上記の事をきっちり実践したのがトリノの女子金メダリスト(及びそのチーム)で、それをさらに徹底したのがバンクーバーの女子金メダリスト(及びそのチーム)かなと思いました。
実際にどんな練習をしてたのかなんて分かりませんけどね。でもコーチ自ら勝負の鍵を「GOEだ」と発言してたくらいですから、ジャンプひとつにしても単に跳んで降りるだけではなくて、GOEが付く跳び方=審判に評価されるより正確な跳び方を目指した練習だったんじゃないかと勝手に解釈。
トリノにしてもバンクーバーにしても、選手・コーチ・振り付け師が的確な戦略に基づいて足並みを揃えて、勝つための準備が一番出来ていた選手が金メダルを取ったな、と言うのが、女子シングルを見ての私の印象です。
4年前はその点でモロゾフ氏が一歩先んじてたけど、この4年で他のコーチも採点法に慣れて来て追いつかれたような気がしないでも無かったり。それだけが理由じゃないとは思いますけどね。F1でもそうなんだけど、いくらチームが戦略を練っても、選手がそれを実行できないと意味ないですからね。
あ、でも難しいジャンプはトリプルアクセルと4回転しかないとでも言わんばかりの報道はさすがにどうかと思いました。素人には一番分かりやすいですけどね。3回転半と4回転。
でも男子の4回転&女子のトリプルアクセルがないというそれだけで「ジャンプ=技術で勝ったんじゃないなら芸術性だー」みたいなえらい短絡的な報道さえあったような。
女子の金メダリストは3ー3のコンビネーションジャンプを跳んでいるし(SP・FSの両方で成功させているのは五輪史上初だとどっかで聞いたような)、銅メダルの選手はアクセル以外の5種のトリプルジャンプを揃えているそうですし。「難度の低い無難なジャンプ構成」なんて簡単に言えるものではないはず。
ていうか、どうもトリノ以来ぼーっと試合を見ててなんとなく、「男子の試合で鍵を握るのは4回転よりも3A」「女子の試合で鍵を握るのは3Aよりも3ー3」なんじゃないかなーと思うんですが。
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という訳で男子、「4回転論争」。
ちょっとだけ分かって来たぞ。
4回転ジャンプは確かに、3回転以下のジャンプに比べると点数が高い。
でも4回転ジャンプを跳ぶことで、4回転抜きのプログラムの上に、4回転が入る分の点数を単純に上乗せできるかというと中々そうは行かない。
体力を消耗する4回転ジャンプを跳ぶために、(1)つなぎを薄くする。(2)後半のジャンプを少なくする/難度を下げる。などの方法で負荷を減らすと、ジャンプの基礎点分のアドバンテージが消えてしまう。しかも大抵の場合それだけでは済まず、体力の消耗が原因でレベルを取りそこねたり他のジャンプをミスしたりしてかえってマイナスになんてことになる。
何でトリノ世界選手権での大ちゃんのFSが、(4回転は失敗したにも関わらず)あれだけ評価されてるのかって言うと、4回転を跳んだ(そして失敗した)にも関わらず「後半に3A含めた5つのジャンプを跳んで大きなミスなくスピンステップはオールレベル4でつなぎも評価されている」からだった…という事なんでしょうか。
これならば、仮に4Fが成功してれば(4Tでもいいけど)、4回転の入ってないプログラムに、そのまんま4回転の得点を上乗せすることが可能って訳で。多分それが、今のルールに於ける理想のプログラムなんじゃないかなと思った次第です。
逆に言うと、そこまでやらないと、4回転は「美味しくない」ジャンプってことになってしまうのかも知れないですね(それでまたルールが変わる動きがあるみたいですが)。
そこで4回転を美味しく使える理想の演技を目指すのか、現実を見て美味しくない4回転を外すのか。若手はともかく、ベテランの域に入って来たトップ選手には悩ましい所なのかなと思います(実際、バンクーバーで金メダルに輝いたのは後者の選手ですしね)。
そういう中で大ちゃんは常に前者を目指して来た訳で(だからこその世界最高得点)、その姿勢をあの怪我の後でも保ち続けることができるという事は尊敬に値するし、同時にそれができるというのはすごく幸せな選手だなと思うし、支えてくれる周囲の方達にも感謝ですね。
***
この度は、普段やり付けないルールの(ごく大雑把な)話などして疲れました。
何度も言いますが、実際ルールとかよく分かってないので、事実誤認などありましたらご容赦下さい。
スケートのもうひとつのキモである「表現力」についてはまた次の機会に。
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拍手コメントへのお返事
□2010/5/9 1:20
こんばんは。私は4年前からのファンなんですが、この4年間の展開とオリンピック&世界選手権での幕切れが劇的過ぎて、いつまでも感慨に浸ってしまいますね。
私も正直なんでこんなにどっぷりハマっているのか謎なんですが、ハマりモノがないのってすごくつまらないので、ここまでハマらせてくれる大ちゃんには日々大感謝です。
そしてまだまだ物語が続いて行くのも嬉しい所。ボーンさんの振付け、決まると良いですね。ボーンさん自身も素敵だったし、鈴木選手のウエストサイドストーリーは個人的にバンクーバーシーズンの女子のプログラムでは最高傑作だったと思います。