103手まで、上田女流が勝ちました。
対局は白熱して、見応えはありました。良い意味で予想を裏切った内容でした。
村田さんが中盤で指した△6四同銀はキラリと光る手で、これが読み筋ならば(読み筋であって欲しい)、ギリギリでバランスを保つ指し口が村田さんの将棋の魅力になると思います。
勿論、感心した部分があれば、残念な部分もあります。
また、勿体ない部分もありました。
例えるなら「女子プロレスのメインイベント前の試合で、30分1本勝負が14分で終わった」感じ。
攻防は面白かった。
感心させる内容もありました。
ただ、観客がもう終わりそう・・・と予感したところで、やっぱり終わってしまいました。
「どっちが勝つんだ???1手指した方が良く見えるぞ」
というのがなかったのです。
メインイベンターはまだ張れないなーという感じでした。
「攻防の白熱度」で、ギャラリーを魅せることが出来れば、再び村田さん、上田さんの将棋を観たいと思わせることが出来たでしょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/fd/a6fd4837801af57eedc9c22030b51349.png)
さて本譜ですが、第1図は、上田さんが3筋の歩を切った手に対し、村田さんが△8六歩と仕掛けたところ。
一局の方向付けが決まった局面です。
第1図以下:▲8六同角△8八歩▲7七桂△6四歩▲5六銀△8九歩成▲6五歩△9九と▲3三飛成△同金右△6四歩(第2図)
第1図1手前、3筋歩交換すると△8六歩~△8八歩がミエミエ。
先手の上田さんも先刻承知の筋ですが、経験か、研究か、それともしらばっくれているのか、堂々と3筋の歩を交換します。
棋は対話なり。
持時間は30分。先手の3筋歩交換は、ほぼノータイム。
さりげなく通り過ぎようとしたところで、後手2分程度の小考で決戦。
「さりげなく通り過ぎようとしても、許さないわよ!」
「こんなところで熱くなっても損するだけよ!」
というのが、見えない対話のイメージでしょうか。
先手の3筋歩交換は、△8六歩で仕掛けられるリスクがあります。
だから、本当なら成立するかどうかの裏付けを取るもの。
でも、私的には、ノータイムの歩交換は賛成です。
先手には、歩の入手、桂の捌き、飛が直通というメリットがあり、後手はと金の活用(△8八と~△8七と)、または、香の入手(△9九と)のメリットがあります。
先手のメリットが上のように思えます。後手のメリットをどう見るかですが、後手のメリットが上と言い切れる人はいないでしょう。
後手は、これを咎めてみたい。それは心情的に理解出来ます。
しかし、元々イビアナに組みかえようとしていたわけですし、そもそも穴熊党は「流血したくない人たち」なんですよね。
それだけ「固さは正義」と思っているわけですが、そういう思想のところに、歩を渡して、桂を捌かせて、飛の直通を無視して、隅っこの香を拾いに行っています。
良しになったとしても、一方的に受けに回ることになるだろうし、苦労は多いし、自分の「正義」に反します。
ぶっちゃけ、この8筋に攻めは、ハイリスク・ローリターン。
先手もそれを分かっているから、30分の将棋では読みを省略します。
後手は、果敢にトライしましたが、ハイリスク・ローリターンに踏み込むタイプは、勝率が悪い側に回ることになるでしょう。
このハイリスク・ローリターンに踏み込んだのは、勿体ない部分。
しかし、この後、感心した部分が出ます。
先手は、▲5六銀が一見遅いようで大切な駒の動き。この駒が残ってしまっては良くなりません。
後手は、△9九と~△3三同金右が村田さんの「見切り」。
本当なら△9九とでなく、△8八と~△8七とのハイリターンを狙いたい。
また、△3三同金右は5三銀が浮き駒になるから、悩みどころ。
この二箇所の分岐点で、△9九と+△3三同金右の組み合わせを選んだところが「決断」であり「大局観」でもあります。
△9九との実利と、玉周辺の固さが大事。5三銀は取らせても良い(もしくは本譜が予定)・・・
そして、この判断は正しかったのです。
さて、第2図となっては、先手良しに見えますが・・・
第2図以下:△6四同銀(途中図)▲4八金引△6九飛▲4五銀△2五香▲3八金寄△4四歩▲3六銀△5五銀(第3図)
△6四同銀(途中図)が盤上この1手の好手。この手にはホント感心しました。
▲6四同角ならば、直前に取った歩を使って△3八歩があります。
△3八歩▲4八金上△3九歩成▲同銀△6九飛で良し。
もし、△8六歩の仕掛けの時点で、△6四同銀まで視野に入れて指していたなら、女流のタイトルを取れる器だと思います。
考慮2分の△8六歩は、多分その場で△6四同銀を見つけたと思うけど、自分の願望としては読み筋であって欲しい。それだけスゴイ女流プロがいると思いたいのです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/d9/237e01b15d4c643a62e4e1cf26151b39.png)
△6九飛まで進んで、居飛車満足の分かれ。
先手も▲4五銀という地味だけど力のある活用をして、白熱の攻防。
▲5六銀~▲4五銀と活用した上田さんにも、いぶし銀のような強さを感じました。
ハイリスク・ローリターンの筋に踏み込んだ後、これだけ白熱した攻防になるとは・・・予想を見事に良い方に裏切られました。
しかし、一転して△2五香が意味不明。
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△2五香に対し、ノータイムの▲3八金寄で、後手が長考に沈みます。
この長考の最中、チャットでは、
「25意味不明」
「25は悪手」
「後手おかしい」
などの疑問の声が出て来ます。
私も疑問に思いましたが、それ以前に、ここで長考することが許せません。
△2五香には▲3八金寄が必然。
だから▲3八金寄の次の手を、ノータイムでビシっと指して欲しい。
「当然読み筋だよね!だったら指せるでしょ!」
って言いたい。
プロの「リズム」というのを、アマチュアにいかんなく見せて欲しい。
観戦者の目が覚めるような手をビシっと指せば「やっぱりプロは違う!!」となるけど、ここでの長考が意味するものは「やっちまった~」以外の何物でもありません。
そうやって、観客の呼吸を外すのががっかりした部分。
感想戦で、△2五香は、▲3八金寄△3七歩▲同金△5九角の読み筋と判明しましたが、以下▲3八金引△7七角成▲3四歩で不利なのが分かり、長考になったとのこと。
村田さんは、感覚よりも読みを重視していることが分かります。
私だったら、△2四香ならともかく、2五地点に香を打つ「気持ち悪さ」で、最初から読み筋の対象になりません。△8六歩の仕掛けも然り。
だけど、村田さんはしっかり掘り下げています。長所でもあるけど、短所でもあります。
感覚で読みを切り捨てるのは、効率化だけでなく「自分が気持ち悪いと思う手は指せない」というこだわりでもあります。
阿部八段、郷田九段がこの代表格ですが、女流プロでもこういうこだわりの強い棋士を見たいですね。
本譜△2五香は(結果的に)悪手ではなかったかもしれません。第3図まで進むと、△4六銀~△3七歩を狙って働いているとも言えます。
また、第3図以降の変化で、△2五香が生きた変化もありました。
△2五香以降、第3図までノータイムで進めば、逆に感心したかもしれません。
第3図以降は、後手に勝機がありましたが、ギリギリで逃し先手の逆転勝ちになりました。
△6四同銀の鮮烈手を指した村田さんに勝って欲しかったですが、ちょっと残念。
ただ、次も観たいと思いましたし、タイトル争いに絡むような棋士になって欲しいなとも思いました。
上田さんの将棋は何回か見たことがありますが、穴熊に固執しているのが将棋を狭くしている印象。
強い部分もありますが、捌きや力強さの部分で、穴熊頼みという部分があります。
穴熊から離れればもっと強くなれるのにと思いました。