2009世田谷区花みず木女流オープン戦、準決勝のもう1つの対局が、渡辺女流2級-F女流学生名人戦。
渡辺弥生(みお)女流2級は、東大を2回卒業して、前回の女流育成会でぶっちぎり昇級した期待の若手。
一度、会館道場で、渡辺さんとは知らず感想戦に首を突っ込んだことがあります。
また、会館道場で女流プロ成り立ての渡辺さんが、指導対局を行っていたのですが、会館道場五段の方に圧勝(平手)していたこともありました。
この2つの出来事で、
「なかなかやるな!」というイメージがありました。
20代後半で女流プロになった遅咲きでもあるし、こういう方には頑張ってもらいたいと、
かなりの期待を持って観戦していました。
一方、F女流学生名人は、メディア等の情報も含めて全く予備知識なし。
Fさん、
「渡辺さんは大学の先輩(両者とも東大)だし、勝負になるように頑張ります」
との戦前コメント。
意外と謙虚だなーという印象。
女流アマタイトルホルダーなら「女流プロ2級と互角近く指せるぜー」とか内心思っていてもよさそうだけど・・・
解説の鈴木八段、藤田綾女流2級の戦前のコメントでは、渡辺さんは受け将棋の居飛車党、Fさんは四間飛車党、戦型は四間飛車-イビアナだろうという予想でした。
初手から:▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△7二銀▲6八玉△6二玉
(途中1図)▲7八玉△3二銀▲5八金右△7一玉▲2五歩△3三角▲5七銀△4三銀
(途中2図)▲7七角△8二玉▲8八玉△5二金左▲6六歩
(途中3図)△4五歩▲6七金△4四銀
(第1図)
初手から指し手を紹介するのは、私の棋譜紹介では珍しいけど、序盤で
気になった点が3つあります。
・Fさんは四間飛車党ということだけど、実戦で鍛えが入った感じではないということ。
・Fさんはイビアナ対策を確立していないということ。
・渡辺さんの▲6六歩は損。本で覚えた将棋という感じ。
Aちゃんも含めて、角交換型振飛車じゃないノーマル振飛車党は、
自分なりのイビアナ対策を確立していないと生き残れない時代になっています。
定跡書に書かれている手順でも構いませんが、それを自分のものにしていることが重要です。
途中1図の△6二玉は、直前の手が△7二銀。
藤井システムをやると見せかけて、あっさり放棄。
途中2図の△4三銀は、直前の手が△3二銀ですが、
△4五歩からの角ぶつけをあっさり放棄。
結局、脅しや見せかけをするけど、直後にあっさり放棄している点で、どうやってイビアナに対峙するかの意図が見えません。
あまり「序盤の拘りがない」のと「穴熊対策が確立されていない」のだと思いますが、
もうちょっと狙う姿勢が欲しいです。
狙っている姿勢が相手の伝わると、相手も息が抜けませんから。
一方、渡辺さんの駒組さんですが、これも
貪欲さに欠ける感じ。
途中3図の1手前△5二金で、振飛車からの急戦が狙えない状態になっています。
だから、出来る限り角の効きは通しておきたい。もしかしたら、▲6六銀~▲6八角~▲7七銀引の4枚穴熊に組めるかもしれません。
振飛車の駒組にピンと来ず、本来急戦警戒の▲6六歩を突いているので、
実戦よりも定跡書で覚えた将棋という印象を受けます。
さて第1図で、△4四銀の櫛田システムに決まりました。
第1図からの手順は省略し、第2図へ。
第2図以下:△5五歩▲同歩△4六歩▲同歩△5五銀▲2四歩△同歩▲3五歩△4六飛▲3四歩△4四角▲2四飛△2二歩
(第3図)
ここの手順は、定跡通りの進行。定跡書にも全く同じ形、同じ手順が解説されています。
勝負の山場は、第3図から
5手後と6手後になります。
第3図以下:▲2五飛△4五歩▲3三歩成△同角▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△5八飛成▲6七銀打
(第4図)
第3図からの▲2五飛△4五歩も現在の定跡手順で、更に▲3三歩成△同角▲3七桂(5手後)と続きます。
これに対する
振飛車の対策(6手後)が見ものでした。
しかし、渡辺さんは▲3三歩成△同角の後、30秒の秒読みを目一杯使って▲5六歩。
???
定跡は、▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△4三歩という展開。
本譜は、▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△4四歩(飛取り)となり、定跡と比べて、飛を成ることも出来ず、角を質駒にも出来ません。
ぶっちゃけ、ハッキリ損。
研究手順かもしれませんが、▲3三歩成△同角の交換の意図が不明です。
・・・などと考えていると、Fさんは△4四歩とせず強気に△5八飛成。
それに対し▲6七銀打。
「いやぁ~受け将棋ですねぇ~」
と解説の鈴木八段。
正直、ガッカリしました。
第3図から、本局最初の勝負所で、あり得ない指し手。
渡辺さんの指し手は、自分から1歩損して金銀交換を挑み、一方的に交換した銀を手放したことになります。
何か、攻め駒不足や理屈を無視して
「固けりゃいい」と言わんばかりのポリシーの無さを感じます。
「いやぁ~受け将棋ですねぇ~」
という鈴木八段のコメントは、あからさまに「あり得ない」と言えず、苦肉の解説だと想像。
第4図以降、Fさんが△5二竜なら完封だったでしょうが、△2八竜▲4一飛成△2九竜▲5二歩と進展。
この後は、Fさんの指し手が乱れ、渡辺さんが圧勝。
はた目には先手が女流プロの貫禄を見せた形になりました。
しかし、私的には、急所で一番あり得ない手を指し不利になり、後手が間違えたのを咎めただけです。
あと、こういうのは「受け将棋」とは言いません。ただの「受け偏重の将棋」です。
もう1つ局面を紹介します。
第5図は、決勝の香川女流-渡辺女流戦の中盤。
渡辺さんに見落としがあり、ここでは香川さん大優勢。
観戦者としては、いかに粘るかが焦点でした。
第5図以下:△7四歩▲6四角
(図略)
島九段の解説は、下記。
「この局面(第5図)は、腕の見せ所ですね」
「怖いでしょうが、△2三玉のようなことをやってみたいですね」
「飛と飛の間に角がいる形は、後手も怖いですが、先手も難しいのです」
「△9九飛成とすれば、後手は怖さがなくなりますが、先手も楽になってしまいます」
「簡単には楽にさせないということで、7九飛はこのままで頑張ってみたいですね」
全くもって解説の通り。もし香を取るなら、先手が角のために1手かけて(例えば▲7六歩とか)からにしたい。
島九段の
解説の熱が会場に伝わり、観戦者は次の手に注目したと思います。
しかし△7四歩。観戦者一同ガッカリ。
すかさず、▲6四角で先手は怖いところがなくなったばかりか、以降の進展で▲9一角成~▲5五馬が実現し、ブっ大差になってしまいました。
もうちょっと何とかしたかったなぁ・・・これなら△6七歩成~△9九角成の方がまだ良かった。
悪手を指したかどうかは、大きな問題ではありません。
悪手を指したけど、意図や狙いがあれば、それは今後の飛躍の糧になるというモンです。
でも、ポリシーや意図がないただの弱気や拘りの無さは、今後の飛躍を感じさせません
ポリシーのない穴熊党、急所で強い手が指せない受け偏重の将棋。
渡辺さん、今のままだと女流プロでやって行くのはツライだろうなぁ~と思いました。
会場に観戦者は、一番ひどかったのはAちゃんと映ったかもしれませんが、私は渡辺さん-Fさん戦の渡辺さんよりも、香川さん-Aちゃん戦のAちゃんの方に光るものを感じました。
<追記>
第4図までの手順で、▲3三歩成△同角▲5六歩~▲4五飛△4四歩とするのは▲2五飛と逃げて△3四歩を狙う手があるとのこと。コメント参照。
この手順の意図は分かりましたが、そうするとなおさら▲6七銀打がどうかという感じです。