眠らない街

将棋、サッカー、スノボ、マンガとちょっぴり恋愛話など。

三間飛車穴熊vs居飛車穴熊の攻防

2009年09月22日 | 棋譜
ちょっと前ですが、NEC将棋部員Hさんとの対局で、面白い手順があったので紹介します。

Hさんは穴熊王子のニックネームを持ち、居飛車でも振飛車でも穴熊一辺倒。
とにかく穴熊に組むまでは、駒組優先、多少の損も構わないという感じ。
しかし、穴熊に組んだ後は、切れないねちっこい攻めを続けてきます。

さて、三間飛車穴熊vs居飛車穴熊と言えば、山田トンカン氏が7~8年前連採し、朝日アマ名人奪取の原動力になった戦法です。
当時は、居飛車も振飛車も4枚穴熊に組み、猛烈な削り合いと玉頭戦が展開されました。
しかし、当時より私は、こういう展開になってしまう居飛車の応対に疑問がありました。
すなわち、固め合いと立体化(4枚熊への組み換え)は振飛車の待ち受けるところであり、更に、振飛車の序盤には穴があるはずと思っていました。

第1図はHさんとの対局の序盤。ここから中盤に移行します。

第1図以下:▲8八飛△7四歩▲4六銀△7五歩▲同歩△7二飛▲8六歩△7五飛▲8五歩(第2図)

第1図は居飛車、振飛車ともに囲いが完成するまでに4手(端の突き合いを含めると5手)ずつかかります。
振飛車は、▲3九金、▲3八金寄、▲4六銀、▲3六歩の4手。
居飛車は、△3一金、△5一金、△4一金右、△3二金右の4手。
仮に、この4手ずつ計8手をプラスした変化1図では、下記手順が部分的定跡になります。

変化1図以下:▲8八飛△7四歩▲5九角△7五歩▲7八飛△7二飛▲7五歩△同飛▲同飛△同角▲4八角(変化2図)

この手順は、三間飛車穴熊を指す上での基本中の基本で、7筋での飛交換を見事に逆用しています。当時はこれにハマった居飛車党も多かったのです。
しかし、居飛車の改良手順が第1図以下。囲いにかける4手を省略します。
▲5九角~▲4八角が出来ない振飛車は、8筋逆襲を試みます。が、この逆襲は間に合わないのです。

第2図以下:△5一金右(途中図)▲8四歩△8六歩▲同角△7九飛成(第3図)

途中図の△5一金右が好手。

▲8四歩には、△8六歩が好手。
▲8三歩成は△8五飛で無効。後手の狙いは、△7三桂ではないのです。
△5一金右は、△7九飛成以下、▲4二角成の時に金にヒモをつけています。
第2図で、即△8六歩とするより得をしています。

但し本局は、第3図以下▲8七飛△7六竜▲4二角成△8七竜▲4三馬△3三銀引▲5四馬△8九竜▲9八角△同竜▲同香(図略)と進展し、逆転してしまいました(泣)。
△8九竜が欲張り過ぎで、代わりに△8四竜なら必勝でした。

ところで、第1図からの手順は、私が開発したものではありません。
2002年12月2日、王将戦での羽生-佐藤戦の変化で生じた手順。
実戦の進行(第4図より)は、振飛車が変化しましたが、変化した手順でも先手大優勢となりました。

第4図以下:▲2四歩△同歩▲同角△2二飛▲2五歩△7一金▲6八角△2三歩▲3五歩(途中図)△同歩▲3八飛△2四歩▲3五飛△4二角(第5図)

2筋を受けない振飛車に対し、▲2四歩以下△2二飛を強要し、その後角交換をせずに3筋攻めに切り替えます(途中図)。
途中図から、第1図とは微妙に形が違いますが、攻め筋は同じ。
第5図の△4二角は、△2五歩に対し▲2四歩に気付いた振飛車の修正手順。
しかし、△4二角としてしまっては、△2五歩とすることが出来ません(▲2三歩がある)。
居飛車は、この後、手待ちしかない振飛車をしり目に、2枚の金を寄せて穴熊を完成させます。
万全の態勢から総攻撃を開始し、短手数で勝利となりました。

詳細は、当時の将棋世界に佐藤康自戦記が掲載されています。

私はこの手順があるので、三間飛車穴熊vs居飛車穴熊は居飛車穴熊有利だと思っています。

取りに取りを重ねる~某女流-Aちゃん戦

2009年09月19日 | 棋譜
現在、夏季休暇中。金欠ゆえに金はないけどヒマは持て余しています。
こうなると、将棋道場に行くのが一番金がかかりません(泣)
というわけで、7~8年ぶりくらいに蒲田将棋クラブに行ってみました。

蒲田でAちゃんと遭遇
知らないおにーさんと一緒だったけど、どうやら某若手棋士らしい。
また、強烈な攻めがウリの某女流棋士が登場。
そうこうしているうち、某女流棋士vsAちゃん戦が始まりました。

第1図が某女流-Aちゃん戦の終盤の局面。
率直に言えば、相振飛車の局面としては、お互い筋が悪いと思う。
後手の角筋を遮っている3三桂、先手の矢倉にミスマッチな浮き飛車と8五銀。
局面自体はAちゃん優勢。
しかし、先手はさすがにプロ。殴り合いに活路を見出してきました。

第1図以下:▲6四歩△5四金(途中図)▲4六金△同歩▲同角△3六歩▲6三歩成(第2図)

秒読みの最中▲6四歩。相手の言いなりにならない手
Aちゃんノータイムで△5四金(途中図)。
このように「つい」金をグイっと出る気持ちは分かる。
分かるけど、勢いがあるようでこの手は悪手。正解はじっと寄る△5三金(変化1図)。

現在、後手は4六銀とブチ込んでいて、角取りの先手になっています。
ここで、△5四金と出ることは「取りに取りを重ねる」手。
「先手(取りになっている手)は一個あればいい」
すなわち、非効率→筋が悪いということで、調布将棋センターで散々教わったこと。
△5四金の罪は、△6三歩成や△6三銀などのブチ込みが残り、6筋の弱体化。
△5四金を見た瞬間、これはAちゃんが最終的に負けると思いました。

本譜は△3六歩が入ってAちゃん勝勢だけど、やはり▲6三歩成が飛んできた。

第2図以下:△6三同銀▲8四歩△3七歩成▲同角△4五桂▲8三歩成△7一玉▲7三と△4九金▲2八玉△3七桂成▲同玉△7三桂(第3図)

△6三同銀は悪手。本譜の筋以外に▲7四銀もありました。
本譜、▲8四歩に手抜きで△3七歩成~△4五桂。
△4五桂の瞬間、先手玉が一見詰まない形なので、▲7三とで先手勝ちっぽいが、Aちゃんも狙っていた。
△4九金以下、王手で角を取り△7三桂まで進んで必勝になった。
但し、▲7三とで▲7三角成ならば、先手勝ちだったと思う。

第2図以下の指し手でポイントなのは△6三同銀。
Aちゃんはかなり上達したけど、まだまだ終盤に課題がある。
△6三同銀に手が行くことが自体が問題で、手抜いた方が(殴りあった方が)安全という感覚が染み付いていない。
殴り合えないというのは、自玉の安全度(相手玉との相対的な安全度含む)が見切れていないということ。
だからこそ、途中図の△5四金が問題になってきます。△5三金ならば△6三歩成に迷う必要がない。
迷わなければ、相手玉に専念出来、リスクも減るという訳。


第3図以下:▲7四桂△7二金▲8四銀△7四銀▲同歩△6四角▲4六歩△3六歩▲2七玉△8六角▲7三歩成△7八飛▲7四桂△3八飛成▲同玉△3七歩成▲同玉△5九角成▲2八玉△3六桂▲2七玉まで先手勝ち(終了図略)

第3図以降、Aちゃんは王手飛車をかけたり、攻防の飛車を打ったり、いかにも華々しいけど、先手玉に迫ることは出来ず、また先手の攻めを余すことも出来ずに逆転負けした。

感想戦が始まり、先手の某女流プロは「10通りくらい負けてましたね」とコメント。
また、Aちゃんの連れの某若手棋士は、第1図以下の指し手で最善の進行をコメントして行きます。
しかし、△5四金には何も触れず、△6三歩成を手抜く順や第1図以下の△3六歩に代えて△9五金(変化2図)とする手を推奨していました。

言っていることは間違いじゃないけど、それはAちゃん以上の感覚が備わって指せる手順。
今のAちゃんに一番覚えてもらいたいのは「取りに取りを重ねる手は筋が悪い」ということだと思ったので、
「ちょっと待って!△5四金じゃなく△5三金と指すべきでしょう」
と口を出しました。
しかし、某若手棋士のおにーさんは、
「どっちでもいいですよ。別に悪手じゃないでしょ」
で、全く取り合わない。
危うく、
「プロにしては筋が悪いね。おにーさん」
と言いそうになったが、アウェイの蒲田ということもあり、そこは飲みこんだ。

ただ「Aちゃん的敗因は△5四金」は、間違っていないと思う。
読んで答にたどり着くのではなく「取りに取りを重ねる」ことに違和感を持つようになって欲しいなと思いました。

Ladies Holly Cup~上田女流勝利!

2009年06月07日 | 棋譜
103手まで、上田女流が勝ちました。
対局は白熱して、見応えはありました。良い意味で予想を裏切った内容でした。
村田さんが中盤で指した△6四同銀はキラリと光る手で、これが読み筋ならば(読み筋であって欲しい)、ギリギリでバランスを保つ指し口が村田さんの将棋の魅力になると思います。

勿論、感心した部分があれば、残念な部分もあります。
また、勿体ない部分もありました。
例えるなら「女子プロレスのメインイベント前の試合で、30分1本勝負が14分で終わった」感じ。
攻防は面白かった。
感心させる内容もありました。
ただ、観客がもう終わりそう・・・と予感したところで、やっぱり終わってしまいました。
「どっちが勝つんだ???1手指した方が良く見えるぞ」
というのがなかったのです。
メインイベンターはまだ張れないなーという感じでした。
「攻防の白熱度」で、ギャラリーを魅せることが出来れば、再び村田さん、上田さんの将棋を観たいと思わせることが出来たでしょう。


さて本譜ですが、第1図は、上田さんが3筋の歩を切った手に対し、村田さんが△8六歩と仕掛けたところ。
一局の方向付けが決まった局面です。
第1図以下:▲8六同角△8八歩▲7七桂△6四歩▲5六銀△8九歩成▲6五歩△9九と▲3三飛成△同金右△6四歩(第2図)

第1図1手前、3筋歩交換すると△8六歩~△8八歩がミエミエ。
先手の上田さんも先刻承知の筋ですが、経験か、研究か、それともしらばっくれているのか、堂々と3筋の歩を交換します。

棋は対話なり。
持時間は30分。先手の3筋歩交換は、ほぼノータイム。
さりげなく通り過ぎようとしたところで、後手2分程度の小考で決戦。
「さりげなく通り過ぎようとしても、許さないわよ!」
「こんなところで熱くなっても損するだけよ!」
というのが、見えない対話のイメージでしょうか。

先手の3筋歩交換は、△8六歩で仕掛けられるリスクがあります。
だから、本当なら成立するかどうかの裏付けを取るもの。
でも、私的には、ノータイムの歩交換は賛成です。
先手には、歩の入手、桂の捌き、飛が直通というメリットがあり、後手はと金の活用(△8八と~△8七と)、または、香の入手(△9九と)のメリットがあります。
先手のメリットが上のように思えます。後手のメリットをどう見るかですが、後手のメリットが上と言い切れる人はいないでしょう。

後手は、これを咎めてみたい。それは心情的に理解出来ます。
しかし、元々イビアナに組みかえようとしていたわけですし、そもそも穴熊党は「流血したくない人たち」なんですよね。
それだけ「固さは正義」と思っているわけですが、そういう思想のところに、歩を渡して、桂を捌かせて、飛の直通を無視して、隅っこの香を拾いに行っています。
良しになったとしても、一方的に受けに回ることになるだろうし、苦労は多いし、自分の「正義」に反します。
ぶっちゃけ、この8筋に攻めは、ハイリスク・ローリターン。
先手もそれを分かっているから、30分の将棋では読みを省略します。
後手は、果敢にトライしましたが、ハイリスク・ローリターンに踏み込むタイプは、勝率が悪い側に回ることになるでしょう。

このハイリスク・ローリターンに踏み込んだのは、勿体ない部分。
しかし、この後、感心した部分が出ます。

先手は、▲5六銀が一見遅いようで大切な駒の動き。この駒が残ってしまっては良くなりません。
後手は、△9九と~△3三同金右が村田さんの「見切り」。
本当なら△9九とでなく、△8八と~△8七とのハイリターンを狙いたい。
また、△3三同金右は5三銀が浮き駒になるから、悩みどころ。
この二箇所の分岐点で、△9九と+△3三同金右の組み合わせを選んだところが「決断」であり「大局観」でもあります。
△9九との実利と、玉周辺の固さが大事。5三銀は取らせても良い(もしくは本譜が予定)・・・
そして、この判断は正しかったのです。
さて、第2図となっては、先手良しに見えますが・・・


第2図以下:△6四同銀(途中図)▲4八金引△6九飛▲4五銀△2五香▲3八金寄△4四歩▲3六銀△5五銀(第3図)

△6四同銀(途中図)が盤上この1手の好手。この手にはホント感心しました。
▲6四同角ならば、直前に取った歩を使って△3八歩があります。
△3八歩▲4八金上△3九歩成▲同銀△6九飛で良し。
もし、△8六歩の仕掛けの時点で、△6四同銀まで視野に入れて指していたなら、女流のタイトルを取れる器だと思います。
考慮2分の△8六歩は、多分その場で△6四同銀を見つけたと思うけど、自分の願望としては読み筋であって欲しい。それだけスゴイ女流プロがいると思いたいのです。

△6九飛まで進んで、居飛車満足の分かれ。
先手も▲4五銀という地味だけど力のある活用をして、白熱の攻防。
▲5六銀~▲4五銀と活用した上田さんにも、いぶし銀のような強さを感じました。
ハイリスク・ローリターンの筋に踏み込んだ後、これだけ白熱した攻防になるとは・・・予想を見事に良い方に裏切られました。

しかし、一転して△2五香が意味不明。

△2五香に対し、ノータイムの▲3八金寄で、後手が長考に沈みます。
この長考の最中、チャットでは、
「25意味不明」
「25は悪手」
「後手おかしい」
などの疑問の声が出て来ます。

私も疑問に思いましたが、それ以前に、ここで長考することが許せません。
△2五香には▲3八金寄が必然。
だから▲3八金寄の次の手を、ノータイムでビシっと指して欲しい。
「当然読み筋だよね!だったら指せるでしょ!」
って言いたい。
プロの「リズム」というのを、アマチュアにいかんなく見せて欲しい。
観戦者の目が覚めるような手をビシっと指せば「やっぱりプロは違う!!」となるけど、ここでの長考が意味するものは「やっちまった~」以外の何物でもありません。
そうやって、観客の呼吸を外すのががっかりした部分。

感想戦で、△2五香は、▲3八金寄△3七歩▲同金△5九角の読み筋と判明しましたが、以下▲3八金引△7七角成▲3四歩で不利なのが分かり、長考になったとのこと。
村田さんは、感覚よりも読みを重視していることが分かります。
私だったら、△2四香ならともかく、2五地点に香を打つ「気持ち悪さ」で、最初から読み筋の対象になりません。△8六歩の仕掛けも然り。
だけど、村田さんはしっかり掘り下げています。長所でもあるけど、短所でもあります。
感覚で読みを切り捨てるのは、効率化だけでなく「自分が気持ち悪いと思う手は指せない」というこだわりでもあります。
阿部八段、郷田九段がこの代表格ですが、女流プロでもこういうこだわりの強い棋士を見たいですね。

本譜△2五香は(結果的に)悪手ではなかったかもしれません。第3図まで進むと、△4六銀~△3七歩を狙って働いているとも言えます。
また、第3図以降の変化で、△2五香が生きた変化もありました。
△2五香以降、第3図までノータイムで進めば、逆に感心したかもしれません。


第3図以降は、後手に勝機がありましたが、ギリギリで逃し先手の逆転勝ちになりました。
△6四同銀の鮮烈手を指した村田さんに勝って欲しかったですが、ちょっと残念。
ただ、次も観たいと思いましたし、タイトル争いに絡むような棋士になって欲しいなとも思いました。

上田さんの将棋は何回か見たことがありますが、穴熊に固執しているのが将棋を狭くしている印象。
強い部分もありますが、捌きや力強さの部分で、穴熊頼みという部分があります。
穴熊から離れればもっと強くなれるのにと思いました。

花みず木トーナメント~受け将棋ですか・・・

2009年05月05日 | 棋譜
2009世田谷区花みず木女流オープン戦、準決勝のもう1つの対局が、渡辺女流2級-F女流学生名人戦。

渡辺弥生(みお)女流2級は、東大を2回卒業して、前回の女流育成会でぶっちぎり昇級した期待の若手。
一度、会館道場で、渡辺さんとは知らず感想戦に首を突っ込んだことがあります。
また、会館道場で女流プロ成り立ての渡辺さんが、指導対局を行っていたのですが、会館道場五段の方に圧勝(平手)していたこともありました。
この2つの出来事で、「なかなかやるな!」というイメージがありました。
20代後半で女流プロになった遅咲きでもあるし、こういう方には頑張ってもらいたいと、かなりの期待を持って観戦していました。

一方、F女流学生名人は、メディア等の情報も含めて全く予備知識なし。
Fさん、
「渡辺さんは大学の先輩(両者とも東大)だし、勝負になるように頑張ります」
との戦前コメント。
意外と謙虚だなーという印象。
女流アマタイトルホルダーなら「女流プロ2級と互角近く指せるぜー」とか内心思っていてもよさそうだけど・・・
解説の鈴木八段、藤田綾女流2級の戦前のコメントでは、渡辺さんは受け将棋の居飛車党、Fさんは四間飛車党、戦型は四間飛車-イビアナだろうという予想でした。

初手から:▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△7二銀▲6八玉△6二玉(途中1図)▲7八玉△3二銀▲5八金右△7一玉▲2五歩△3三角▲5七銀△4三銀(途中2図)▲7七角△8二玉▲8八玉△5二金左▲6六歩(途中3図)△4五歩▲6七金△4四銀(第1図)

初手から指し手を紹介するのは、私の棋譜紹介では珍しいけど、序盤で気になった点が3つあります。
・Fさんは四間飛車党ということだけど、実戦で鍛えが入った感じではないということ。
・Fさんはイビアナ対策を確立していないということ。
・渡辺さんの▲6六歩は損。本で覚えた将棋という感じ。

Aちゃんも含めて、角交換型振飛車じゃないノーマル振飛車党は、自分なりのイビアナ対策を確立していないと生き残れない時代になっています。
定跡書に書かれている手順でも構いませんが、それを自分のものにしていることが重要です。

途中1図の△6二玉は、直前の手が△7二銀。藤井システムをやると見せかけて、あっさり放棄。
途中2図の△4三銀は、直前の手が△3二銀ですが、△4五歩からの角ぶつけをあっさり放棄。
結局、脅しや見せかけをするけど、直後にあっさり放棄している点で、どうやってイビアナに対峙するかの意図が見えません。
あまり「序盤の拘りがない」のと「穴熊対策が確立されていない」のだと思いますが、もうちょっと狙う姿勢が欲しいです。
狙っている姿勢が相手の伝わると、相手も息が抜けませんから。


一方、渡辺さんの駒組さんですが、これも貪欲さに欠ける感じ
途中3図の1手前△5二金で、振飛車からの急戦が狙えない状態になっています。
だから、出来る限り角の効きは通しておきたい。もしかしたら、▲6六銀~▲6八角~▲7七銀引の4枚穴熊に組めるかもしれません。
振飛車の駒組にピンと来ず、本来急戦警戒の▲6六歩を突いているので、実戦よりも定跡書で覚えた将棋という印象を受けます。

さて第1図で、△4四銀の櫛田システムに決まりました。
第1図からの手順は省略し、第2図へ。

第2図以下:△5五歩▲同歩△4六歩▲同歩△5五銀▲2四歩△同歩▲3五歩△4六飛▲3四歩△4四角▲2四飛△2二歩(第3図)

ここの手順は、定跡通りの進行。定跡書にも全く同じ形、同じ手順が解説されています。
勝負の山場は、第3図から5手後と6手後になります。

第3図以下:▲2五飛△4五歩▲3三歩成△同角▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△5八飛成▲6七銀打(第4図)

第3図からの▲2五飛△4五歩も現在の定跡手順で、更に▲3三歩成△同角▲3七桂(5手後)と続きます。
これに対する振飛車の対策(6手後)が見ものでした。
しかし、渡辺さんは▲3三歩成△同角の後、30秒の秒読みを目一杯使って▲5六歩。

???
定跡は、▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△4三歩という展開。
本譜は、▲5六歩△同銀▲同金△同飛▲4五飛△4四歩(飛取り)となり、定跡と比べて、飛を成ることも出来ず、角を質駒にも出来ません。ぶっちゃけ、ハッキリ損
研究手順かもしれませんが、▲3三歩成△同角の交換の意図が不明です。

・・・などと考えていると、Fさんは△4四歩とせず強気に△5八飛成。
それに対し▲6七銀打。
「いやぁ~受け将棋ですねぇ~」
と解説の鈴木八段。
正直、ガッカリしました。
第3図から、本局最初の勝負所で、あり得ない指し手。
渡辺さんの指し手は、自分から1歩損して金銀交換を挑み、一方的に交換した銀を手放したことになります。
何か、攻め駒不足や理屈を無視して「固けりゃいい」と言わんばかりのポリシーの無さを感じます。
「いやぁ~受け将棋ですねぇ~」
という鈴木八段のコメントは、あからさまに「あり得ない」と言えず、苦肉の解説だと想像。

第4図以降、Fさんが△5二竜なら完封だったでしょうが、△2八竜▲4一飛成△2九竜▲5二歩と進展。
この後は、Fさんの指し手が乱れ、渡辺さんが圧勝。
はた目には先手が女流プロの貫禄を見せた形になりました。
しかし、私的には、急所で一番あり得ない手を指し不利になり、後手が間違えたのを咎めただけです。
あと、こういうのは「受け将棋」とは言いません。ただの「受け偏重の将棋」です。

もう1つ局面を紹介します。
第5図は、決勝の香川女流-渡辺女流戦の中盤。
渡辺さんに見落としがあり、ここでは香川さん大優勢。
観戦者としては、いかに粘るかが焦点でした。

第5図以下:△7四歩▲6四角(図略)

島九段の解説は、下記。
「この局面(第5図)は、腕の見せ所ですね」
「怖いでしょうが、△2三玉のようなことをやってみたいですね」
「飛と飛の間に角がいる形は、後手も怖いですが、先手も難しいのです」
「△9九飛成とすれば、後手は怖さがなくなりますが、先手も楽になってしまいます」
「簡単には楽にさせないということで、7九飛はこのままで頑張ってみたいですね」
全くもって解説の通り。もし香を取るなら、先手が角のために1手かけて(例えば▲7六歩とか)からにしたい。
島九段の解説の熱が会場に伝わり、観戦者は次の手に注目したと思います。
しかし△7四歩。観戦者一同ガッカリ。
すかさず、▲6四角で先手は怖いところがなくなったばかりか、以降の進展で▲9一角成~▲5五馬が実現し、ブっ大差になってしまいました。
もうちょっと何とかしたかったなぁ・・・これなら△6七歩成~△9九角成の方がまだ良かった。

悪手を指したかどうかは、大きな問題ではありません。
悪手を指したけど、意図や狙いがあれば、それは今後の飛躍の糧になるというモンです。
でも、ポリシーや意図がないただの弱気や拘りの無さは、今後の飛躍を感じさせません
ポリシーのない穴熊党、急所で強い手が指せない受け偏重の将棋。
渡辺さん、今のままだと女流プロでやって行くのはツライだろうなぁ~と思いました。
会場に観戦者は、一番ひどかったのはAちゃんと映ったかもしれませんが、私は渡辺さん-Fさん戦の渡辺さんよりも、香川さん-Aちゃん戦のAちゃんの方に光るものを感じました。

<追記>
第4図までの手順で、▲3三歩成△同角▲5六歩~▲4五飛△4四歩とするのは▲2五飛と逃げて△3四歩を狙う手があるとのこと。コメント参照。
この手順の意図は分かりましたが、そうするとなおさら▲6七銀打がどうかという感じです。

花みず木トーナメント~拘り

2009年05月02日 | 棋譜
2009世田谷区花みず木女流オープン戦が4月29日に行われました。
Aちゃんが出場したこともあり、NEC将棋部員有志で応援に参戦!
Aちゃんは香川女流2級と対戦し、途中作戦勝ちになるも、最後は香川さんが77手で勝利。女流プロの貫禄を見せました。
勢いに乗った香川さんは、決勝でも圧倒しそのまま優勝。
優勝した香川さんは、正直、強いと思ったし、「意思の強い」良い将棋を指すなという感じ。

この「意思の強さ」というのは、私が将棋をみているAちゃん、Fくん、Tくんらに身につけてもらいたいこと。
「意思の強さ」と言われても彼らは実感が沸かないでしょうが、分かる時が来たら、絶対、「一段上の景色」を見て、将棋が指せるようになると思います。

話を戻して、花みず木トーナメントは、若手女流プロ、世田谷区民、女流アマタイトルホルダーの4名で争われる公開対局。
Aちゃんは育成会員で、世田谷区民枠での出場。
持時間は5分切れ30秒ですが、5分ではほとんど考えていなくても中盤の入口前に切れてしまいます。
NHK杯と同じ考慮時間制にした方がいいと思いますが、次回から検討してもらいたいですね。

Aちゃんは、中盤で香川さんの意表の仕掛けに動揺し、そのまま立て直せず短手数で負けてしまいました。
そのことをすごく気にしていましたが、動揺したらなかなか立て直せないのは、実力に関係なく起こること。
公開対局、30秒将棋、実力を考えれば、仕方無いと思います。
むしろ私が残念だったのは、Aちゃんの良さが会場の観戦者に伝わらなかったこと。
物凄く高度な序盤の駒組をしていて称賛されてもいいのですが、乱れた部分ばかり印象に残ってしまったと思います。

第1図は、香川さん-Aちゃん戦の序盤。

第1図以下:△4二銀▲8五歩△5四歩(第2図)

両者とも振飛車党で、相振は戦前から予想されていました。
Aちゃんが、△3五歩を保留しているのは最新の定跡。
香川さんは最新定跡というより、「肌にしみ込んだ感覚で指している」という印象。
第1図の▲8六歩を見てそう思ったのですが、この▲8六歩にはちょっとした思い出があります。
調布将棋センター時代に、私の師匠格の先生から、以下のように教わりました。
「いいか○○。▲8八飛と▲8六歩はセットだけど、▲8八飛だけでは何ら効果がない」
「だから▲8六歩を先にして、飛の道筋を確保してから飛を回るんだ」
「場合によっては居飛車で使うことも出来るからな」
香川さんは誰かに教わったわけではないでしょうが、相振を指し込みながら、こういうことを実感してきたのでしょう。
この時点で「香川さんやるな」と思ったし、かなりの実戦量もあるだろうと推測出来ました。

さて、本譜は第2図の△5四歩で、序盤の方向性が決まりました。

第2図以下:▲8八飛△5三銀▲4八玉△5二金左▲5八金左△6四歩▲3八銀△1四歩▲1六歩△3五歩▲4六歩△3六歩▲同歩△同飛▲4七金△3二飛▲3九玉△8二玉(第3図)

序盤の方向性というのは、先手向飛車に対し8筋を受けて指す(矢倉)のか、受けないで指す(美濃)のか、ということ。
美濃は8筋歩交換を許すけど、囲いに費やす手数は矢倉より少なくて済みます。
その分、攻撃型を作ることを優先したわけです。
また、後手の攻めは2筋が絡まないので、効率の良い攻撃型を作る必要があります。


第3図以下:▲9六歩△5五歩▲8四歩△同歩▲同飛△8三歩▲8八飛△6三金(第4図)

第3図の△8二玉は手順前後で、△5五歩が正解。
▲8四歩△同歩▲8五歩△同歩▲同飛△8三歩▲2五飛という筋でつぶれていましたが、本譜▲9六歩で一瞬の危機は去りました。
先手の▲9六歩は、▲9六歩~▲9五歩~▲9七桂~▲8五桂~▲9三桂成を狙っています。
後手の△5五歩は、△5五歩~△5四銀~△4四歩~△4五歩という攻撃型を作る狙い。これが実現すれば、前述の効率の良い攻撃型になります。

相振が難しいのは、一見良い形でも、相手玉への具体的な攻撃手順が見えていないと何にもならない点です。
居飛車の相矢倉は、先手の攻撃型が確立されていて、後手はそれを阻止することは出来ません。最善形で受けに徹する戦い方になります。
一方相振は、矢倉(高矢倉、平矢倉)、穴熊、美濃、金無双と複数の囲いがあり、それぞれどのように攻撃型を作るかが問われます。
また、相手の囲いによって攻撃型が変わり、相手が形を決めない状態では、どれにも対応出来るようにする必要があります。
更に、自分が攻撃型を作るだけでなく、相手の理想の攻撃型を阻止するという戦いもあります。

ここまでAちゃん、先ほどの手順前後を除き、ほぼ満点の内容。

第4図以下:▲3六歩△5四銀▲2八玉△5二飛(第5図)

▲3六歩はやや早い感じ。代わりに▲2八玉と指したい。
攻撃型を作る先陣争いでは、Aちゃんがややリードした感じ。
しかし、第5図の△5二飛がどうだったか・・・

第5図以下:▲9五歩△4四歩▲3七銀△4五歩▲同歩△同銀▲4六歩△3四銀▲6五歩(第6図)

第5図の△5二飛は、ひと目指したくない手。
後手の理想は、△4四歩~△4二飛(または△1三角)~△4五歩。
しかし、△5二飛を省略して△4四歩とすると、▲6五歩△同歩▲8四歩△同歩▲同飛△8三歩▲5四飛△同金▲4三銀が生じます。

だから、Aちゃんが指した△5二飛は慎重な手を言えるけど、指したくない
というのは、後手は4筋を狙っていて、飛は3筋なら4筋攻めと連動して使えますが、5筋では使えません。
だから飛の位置をいずれ変えることになりますが、その時に△5二飛が1手損になるから。
私だったら(時間があれば)▲4三銀をやらせてどうかを考えます。やらせてダメなら△7四歩で防ぐか。
Aちゃんがどういう考えを持っていたかは分からないけど、形にとらわれて△5二飛ならば、そういう部分に拘りを持って欲しいと思います。

さて、第5図以下の進行で、△4五同銀も他に何かなかったかという感じ。
本譜の△3四銀で端攻め狙いが見えたのかもしれませんが、ここは先手陣が不十分(攻撃型が出来ていない、▲3八金としていない)なので、一気に攻撃開始したいところでした。
△4五同銀に代えて、△3三桂▲4四歩△4二飛とか。
ここでも、▲3八金としていない点に着目して、
「生かして帰さん!」
ぐらいの意気込みを見せて欲しかった。

本譜は、第6図の▲6五歩が香川さんのジャブで、△同歩▲8四歩から十字飛車を狙っています。
これに動揺して乱れてしまい、冒頭の結果になってしまいました。
ただ、▲6五歩△同歩▲8四歩△7四金とすれば、先手が攻め切るのは容易でなく、後手に楽しみが多い局面でした。

第5図手前までの序盤と、第5図以降の乱れ具合、両方ともAちゃんの実力と言えますが、中終盤が伸びてくれば、もっと勝てるようになると思います。
また、自分の構想を実現するための「拘り」や「意思の強さ」を持って欲しいですね。

将棋を教える~Fくんの場合~2回目

2009年04月26日 | 棋譜
4月18日、NEC将棋部の活動。
その後の打ち上げ(カラオケ)で、久々にFくんと指しました。

Tくん、Fくんの2人にもう1人Kくんという後輩がいて、この3人はほぼ同カテゴリ。会館道場で二段くらい。
それぞれに長所と短所があるけど、Fくんは攻めよりも受けが好きという点で、他の2人とは異なっています。
というより、強くなる過程で攻めよりも受けが好きということ自体が珍しい。
でもFくんの場合、ハッキリ言ってしまえば、受けを誤解しています。


第1図は、Fくんと私の対局から。
私が指した第1図の最終手△3五歩は、正しく指せば咎めることが出来ます。

第1図以下:▲4六銀(途中図)△5一角▲9九玉△3四飛▲6八角△4五歩▲3五銀△7四飛▲7七角(第2図)

▲4六銀(途中図)は正しい咎め方。

二段ぐらいでこの手を指せるあたり、Fくんは「それなりにやる将棋指し」と言えます。
以降の手順も全く自然。
だけど、第2図の▲7七角は凝り過ぎています。悪い手ではないけど・・・

第2図以下:△3三角▲同角成△同桂▲2二角△4二金▲1一角成△7六飛▲7七歩△7四飛▲6八銀(第3図)

第2図の▲7七角に△3三角は仕方ありません。▲2二角を打たれるのは承知していますが、それでも仕方ありません
以下の進行は大体こんなもの。
後手からすれば香損の代償は、先手の馬の働きの悪さ
だから、▲6六馬のように馬を引きつけられる展開だけは避けなくてはいけません。
第3図の最終手▲6八銀は、△5七角を受けた手ですが、こういう受けを思いつくあたりが、Fくんの個性と言えます。
良い手ではないけど、教える過程において個性は大事にしたい。
勿論、場当たり対応でなく、流れの中で3手の読みをした上での話。

第3図以下:△3四銀▲4四香△3二金▲3四銀△4四飛▲3三銀不成△4一飛▲2二銀成△7二銀▲2四歩△4六歩▲同歩△5四角▲2三歩成△2七歩▲4八飛△1一飛▲3二と△8四香▲7九銀(第4図)

第3図△3四銀に▲4四香の返し技で後手シビレてしまいました。
前述しましたが、後手は馬に活躍される展開だけは避けなくてはいけません。
だから銀、桂取られても、△3二金の方がチャンスがあります。
Fくんは、いくら私が相手と言っても、▲3三銀不成の局面では、簡単に逃さないと思ったはず。
しかし、Fくんからは、「何が急所なのか」「彼なりに考えた急所を実現させるという意思」が伝わってきません。
だから、まだ十分勝負になると思っています。
▲3三銀不成に△4一飛~△7二銀がちょっとしたテクニック。
▲2四歩では▲1二馬が一番嫌で、以下△2二金▲同馬となれば、▲6六馬コース。
こう指されていたら、負けを覚悟したかもしれません。

本譜△8四香でちょっと勝負の気配
ここで物量で受けられたら(▲7八銀△8七香成▲同銀△同角成▲7八金打~▲8七歩)、まだ足りません。
しかし、第4図の▲7九銀。これは・・・?


第4図以下、△8七香成▲6六桂△9八成香▲同飛△同角成▲同玉と進んだのですが、△8七香成を誘って、飛を捌いてしまう狙い。
先手玉は、角よりも飛の方に耐性があるとみています。
▲7九銀にはビックリしたけど、▲9八玉の局面が意外に難しいのに再度ビックリ。
多分、▲4三角までの局面が読みの括りだと思います。それなりに主張はしています。
こういう手順を編み出すのも個性。

ただ、結果的に▲4三角が難しくした要因かもしれません。△5四歩で意外に受けに役立ちません。
第4図からざーっと進んで、第5図。最終手の▲8七玉は、9八地点から上がったもの。

第5図から、難しい手順が続いたけど、Fくんが期待したであろう▲2一飛に対し、△7一金~△6一香で攻めがなくなってしまい、最後は圧勝になってしまいました。

さて、途中の局面を振り返ると、Fくんなりに個性を出しているけど、どうも場当たり的な感があります。
終局後、Fくんに言ったのは、
①何が急所なのか「それを実現させるための方針」をどこかで立てる
②シンプルに考える
の2点。

例えば、第2図の▲7七角。
悪い手ではないけど、Fくんが狙っているのは、体制勝ちであって、後手玉ではないように思えます。
後手玉に迫るなら、▲7七角よりも「破れる飛先は破っておく」の▲2四歩。
以下、△2四同歩▲同銀△7六飛▲2二歩△3三桂▲2一歩成~▲3一と~▲4一とのように、主張を1つに絞った方が分かり易い。
ここまで読めるかどうかは別ですが、Fくんは、▲2四歩には見向きもせずノータイムで▲7七角と上がった点が不満。
そして、玉に迫る一番シンプルで早い手を、読みの優先順位筆頭に持ってこない点も不満。

また、第3図の▲6八銀、第4図の▲7九銀、途中の▲4三角、第5図の▲8七玉についても個性があるものの、不満があります。
この4つはどれも受けの手ですが、冒頭で書いたように、Fくんは受けを誤解しています。
受けというのは「攻めのための時間稼ぎ」が第一なのです。

受けの手だけ指しても、玉に迫らないうちは勝ちになりません。
だから、受けは攻めを見据えてのものであり、「こういう攻めがしたいから○手稼ぐ」「こういう攻めがしたいから持駒の○は温存する」という意思が伝わって来て欲しいのです。
残念ながら、Fくんの受けからは、攻めの意思が伝わってきませんでした。

第3図▲6八銀の前に、▲2四歩を実現させるには。
第4図▲7九銀の前に、駒得を生かして見えない玉を作り上げればおしまい。
途中の▲4三角の前に、▲2一飛~▲6二金の余裕を得るには。
第5図の▲8七玉の前に、桂で王手をかけさせなければ・・・。

結局、将棋は攻めてナンボ
「攻めるための受け」ということを意識して欲しいなと思います。

NHK杯出場女流棋士決定戦~石橋女流王位-矢内2冠戦

2009年03月29日 | 棋譜
以前、石橋さんと飲んだことがあり、
「何故矢倉を指さないのですか」
「後手番が辛くて」
と言われたことがありました。もう10年以上前の話ですが。

ハッキリ言って、残念な回答。
矢倉後手番の辛さを、本当に実感している女流棋士がいたら、それはそれでスゴいレベルだと思います。
当時、女流棋界で矢倉を指す人は中井さんくらい。
居飛車党はいるけど、矢倉党はいなかったのです。
居飛車党だけど矢倉を指さないあたりが、女流棋士の「実力はあるけど腰の重さにつながらない」要因だと思っていました。
第一人者の清水さんが矢倉を指さないのも、女流棋界全体から言えばマイナスだったかもしれません。

今日、石橋-矢内戦で、矢倉が指されたの食い入るように見入っていました。
女流の将棋で矢倉を観るのは、ほとんど初めて。矢倉は相撲で言えばがっぷり四つ。ストロングな戦型ですよ。やっぱり。

序盤、矢内さんの△7三銀には、
「主張のある指し方を選ぶよな~」
と感心しましたね。善悪はともかく主張する姿勢が、女流棋界第一人者という感じです。

で、ワクワクしながら観ていたのですが、石橋さんの▲1五歩を見てガックリ。
チャンネル変えたくなりました。
これはカウンターを狙う指し方。
矢倉の先手番なら、それを生かして先に殴ることがキモ。そういう指し方をしないならば、他の戦型を指した方がマシ。
石橋さんの選んだ指し方は、主張を放棄してリアクション指向。自分から将棋を創っていかず、ある意味楽をしようとしています。
こんなんじゃ、Tくん、Fくん、Aちゃんに考え方のお手本として示せません。

将棋は、矢内さんが圧勝ペース。
石橋さんが、苦戦ながらも▲6五銀と桂得し、なんとか頑張ろうとしたところで、△8七歩に対しノータイムで▲7九玉。
これをみて、再びガックリ。
どうなろうと取る1手。ノーアウトランナーなしで敬遠したような手です。
取っても取らなくても、勝ち目は薄いですが、取らないと惨めな終局だけが残ります。

投了数手前、矢内さん△1八竜。
矢内さんが最後の考慮時間を使ったので、出来ればペンペン草も生えなくなるよう△1八竜は指さずに、スパッと首を切る手を考えていたかと思います。
でも、そこまでの手はありません。ノータイムで指せる△1八竜を1分使って指したところに「矢内さんの苦悩」を感じます。
△1八竜に、▲2三銀からちょっとした形作りですが、その後▲6八金打に三たびガックリ。棋譜を汚すだけ。

負けは負けで仕方ありませんが、▲1五歩で主張を放棄したあたりからケチがつきまくっています。
もっと主張する姿が観たいと思いました。残念でした。

瀬川師範との角落ち指導対局

2009年02月06日 | 棋譜
私は、駒落ち下手を持つ時、1つ決めていることがあります。
「振飛車をしない」
これだけ。

駒落ちは、下手が主導権をとって、先攻することに意味があると思っています。
先攻して優勢を確立する。その後、上手が追い込んでくるだろうけど、優勢を生かしてしっかり逃げ切れるようにする。
これが駒落ち下手のあるべき姿だと思うのです。
角落ちのプラス分を、距離間として掴むのが自分なりのテーマ。
サッカーで言えば、ポゼッションして攻める。
退場者が出ているのに、相手を動かしてリアクションを選ぶのは、勝ち「だけ」にこだわった戦い方
駒落ち指導対局に上達を求めるなら、居飛車で先攻すべきだと思います。

NEC将棋部での瀬川師範との角落ちを紹介します。

第1図以下:▲7九角△6五歩▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲6八角△8五歩▲7七銀△4二金上▲7八金△6四銀▲6九玉(第2図)

角落ちは「位の将棋」と言われます。
「上手に位を取らせてはいけない」ということで、歩を突かれたら、即その筋の歩を受けるのが下手の基本。
△6四歩に対し、基本通りなら▲6六歩ですが、即△6五歩をあまり考えていませんでした。
やはりというか、すかさず△6五歩。
本譜△6四銀まで進むと、確かに手段を与えているような感じ。うーん。
△6四銀の局面、△5五歩は見えていますが、▲6九玉として手を渡しました。

第2図以下:△5五歩▲同歩△同銀▲5六歩(途中図1)△6四銀▲3六歩△6三金▲4六歩△7四歩▲4七銀△7二飛▲4五歩(第3図)

上手の5筋交換は当然ですが、途中図1の▲5六歩が受けの好手
△5六同銀なら、▲4六歩△5七歩▲同銀△同銀成▲同金で、上手が銀に費やした手数よりも下手が銀に費やした手数の方が少なく、手得が残って下手良し。
以下、駒組みが続き、上手は7筋を狙ってきますが、▲4五歩(第3図)で下手十分を意識しました。

第3図から、△7五歩▲同歩△同銀は、▲7六歩△同銀▲同銀△同飛▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲8四飛で下手良しになります。
第3図以下、△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7四飛と進行。ざーっと進んで第4図へ。


第4図以下:△3四歩▲4六角△5二金▲9六歩(途中図)△5五金▲3七角△3三桂(第5図)

第4図以前に▲3五角△5三銀のやり取りがあり、下手だけ銀を手駒に残すことが出来ています。
上手は、その代償として1歩得と5筋の垂れ歩。
第4図から、△3四歩で角が追われ、一見角が窮屈ですが、▲4六角に△5五金とは出来ません(▲6三銀がある)。
▲6三銀のキズを消して△5二金ですが、途中図2の▲9六歩が自慢の一着

玉の懐を広げるだけでなく、上手が△2二銀の手待ちなら、▲7五銀(変化図)を狙っています。
△7五同金なら▲7三角成。△5五金なら▲同角△同飛▲4六金△5四飛▲5五歩△9四飛▲9五歩でいずれも良し。
本譜△5五金~△3三桂ですが、満を持して決めに行きました。

第5図以下:▲4六銀△6四銀▲5五銀△同銀▲5六金△同銀▲5五金△4五桂▲5四金△3七桂成▲同桂△4六角(第6図)

▲4六銀が狙いの反撃。5五金と7三桂が攻撃目標になっています。
△4六同金▲同金は、△5七歩成とされるものの、以下▲5五金△8四飛▲5四歩が厳しく下手良し。
△6四銀の応援に▲5五金△同銀▲5六金とハードパンチ!矢倉に囲った強い陣形が生きてます。
第6図まで進んで銀桂交換の駒損ですが、駒が全て捌けて勝勢になりました。

第6図以下:▲4四歩△同歩▲同金△3三銀▲5四飛△5三歩▲3三金△同玉▲4四銀△2二玉▲2四歩△同歩▲5六飛△3七角成▲2四飛△2三歩▲3四飛△3二歩▲3五桂まで下手勝ち(投了図略)

第6図の△4六角は、3七桂を取ると見せた一種の脅しで、本命は△6九銀
桂取りを受けるのは効かされ。桂を取られるこの瞬間が、最大限に働いています
桂を受けずに▲4四歩が寄せの好手で、△3七角成とする余裕がありません。
金を4四に移動させて、▲5四飛が決め手。
以降は、▲2四歩と▲3五桂を交えて、うまく寄せることが出来ました。

ちょっと出来過ぎですが、距離感を掴むというテーマはクリア出来たと思います。
瀬川師範からもOK頂いたので、次回から、香落ちで挑んでみたいと思います。

関西遠征~11月23日~vs大阪・京都

2008年11月26日 | 棋譜
さて、西日本職団戦当日
西日本職団戦は、A~D級とF級(フリークラスでF1、F2がある)に分かれています。
前者は、会社対抗の団体戦で、関東の職団戦と同じ。
後者は、有志で構成されたチーム対抗の団体戦で、社団戦のようなもの。

私が参加したのはF1級で、17チームが参加。
3~4チームが1ブロックになった予選を戦い、1ブロック2チームが通過。25分切れ負け。
ブロック分けでは、優勝候補最右翼の桜井研チーム、同じく優勝候補の大阪・京都チームと一緒になります。

桜井研チームは、アマ名人の浅田氏を筆頭に、関西の学生強豪で構成されています。
関東では馴染みがありませんが、以前本ブログにも登場した桜井氏が研究会を主催しています。
若い方ですが、かなり熱心で関西将棋界を活性化しようとしていて、関西のアマ強豪も一目置いているようです。
桜井研の名前は覚えておくと、関東でも頻繁に耳にするようになるでしょう。

大阪・京都チームは、リコーの野山氏、日レスの鰐淵氏、社団戦光OKACHIチームの近村氏など、メジャーアマ強豪が勢ぞろい!
職団戦のS級で見知った顔が多く、「よくぞこれだけのメンバを集めた」という感じ。

私が所属するのは、アラフォー・アラフィーチーム
NEC将棋部の辻さん、JFさん、大阪正棋会の巽さん、寺井さん、私で構成されています。
皆さんとは顔馴染みで、気心知れた仲と言えます。
特に巽さんは、中終盤の鍛えが入った指し手に個性が出ていて、私の憧れの振飛車党です。
同じチームで指せるなんて、夢のようです。

1試合目、vs大阪・京都戦。

第1図は中盤の難所で、先手はここで方針を立てる必要があります。
候補手は、▲9五歩▲8五歩▲5六銀▲6五歩あたりでしょうか。
しかし、後手が指したら、また悩むことになりそう。つまり、▲8五歩なら△7三銀、それ以外なら△2五歩の時、指す手が難しい。
私は、前述の4つ以外の手を指しました。

第1図以下:▲5六歩△2五歩▲5八飛△5四歩▲9五歩△2二飛▲6五歩(途中図)△2六歩▲同歩△同飛▲2七歩△2四飛▲6六銀△7三銀▲5五歩△同歩▲同銀△5三歩(第2図)

まず考えたのは、▲8五歩とせずに△7三銀と上がらせたいということ。
端攻めを狙って▲9七桂~▲8五桂を残しておきたいのです。
また、▲5六銀としても、銀がぶつかる形にはならないだろうなぁ~ということ。
後手は、2筋の歩交換~△1五歩~△1三桂のように、2筋1筋だけ手をかければいい状況。
だから、▲5六銀は、後手の狙い筋に対し何ら働いていないのです。

考慮5分ほどで▲5六歩。狙いは▲5八飛~▲5五歩~▲5四歩の中央指向。
後手も▲5五歩は許せないはずで、△5四歩としますが、途中図の▲6五歩までが読みの括り。

角がぶつかる形を作ることで、▲3一角を狙い筋として残しました。
本譜は第2図まで進行しますが、「▲8五歩とせずに△7三銀と上がらせる」が実現しました。
我ながら、主張した手順かと思います。

第2図以下:▲6八飛△2五銀▲4五歩△5四歩▲4六銀△3四銀▲3三角成△同桂▲6六角△2三飛▲7七桂(第3図)

しかし、第2図を前にして、再び悩むことになりました。
▲9七桂としたいのですが、現状は無理。▲5七飛として角にヒモをつけても、それほど安定した形にはなりません。
次に考えたのは、▲4五歩~▲4四歩を何とか実現出来ないかということ。
▲1六歩が一案で、▲1六歩△2五銀▲4五歩と進めることは出来そうですが、その後、△1六銀▲同香△1五歩と強襲されると、25分切れ負けでは自信が持てません。うーむ。

第2図から▲6八飛。△2五銀を誘って▲4五歩。
▲4六銀までの進行が読み筋で、端攻めを緩和出来たし、戦えると自信を持てました。
しかし、この後がマズかった

第3図まで進めたのは、勝手読みもいいところで、せっかくの構想がパァ。
第3図以下、△8七角▲9四歩△同歩▲9三歩△7六角成▲8五桂△2六歩で必敗形。
戻って、▲3三角成でなく、じっと▲1六歩(変化図)で一局だったと思います。

2勝2敗でこの対局が残りましたが、何とか逆転勝ちしてチームに迷惑かけずに済みました。
でも、内容は褒められたものでなく、自戒の一局。

藤井は超上手い!!~NHK杯片上-藤井戦

2008年11月11日 | 棋譜
久々に、プロの技術の高さを目の当たりにした思いです

藤井、超上手いです、上手すぎます!!あれが振飛車の真骨頂ですね。いやぁ~感心することしきりでした。
実は、ガジガジ流と藤井システムのイメージが強すぎて、「振飛車を指す棋士ではあるけど、振飛車党とは見ていなかった」ところがありました。
普通の振飛車も超上手い!凄かったです!

最近、「穴熊の暴力」という言葉をよく見かけます。
これって、「無理(?)が通れば道理引っ込む」だと思うんですよ。
でも、大山、森安の頃の振飛車と、大ちゃんの四間飛車は「柔よく剛を制す」が根底思想だったんですね
2008年は「柔よく剛を制す」の思想が無くなった・・・体現する振飛車党が消えた年
でも、水面化ではいたんですね!あぁ良かった

勿論、主張点なくして「柔よく」にはなりません。
振飛車に求められる「柔」とは、居飛車穴熊の駒組みの偏りや無理を咎める動きだと思います。
本局、居飛車の駒組みは居飛車穴熊ではありませんが、序盤の▲6六歩という小さなミスを咎めで開戦!
失敗した頭がある先手の▲5八飛、▲3七桂など、これまた小さなミスの反動で有利を拡大
終盤は、一見遅そうな△3七桂成がピッタリ距離感を測った一着で、速度計算の確かさを感じさせました

で、実戦の進行ですが・・・

第1図以下:△2四歩▲同歩△同角▲4六歩△1四歩(途中図1)▲6八角△3三角▲2五歩△4二角(第2図)

第1図の1手前の局面を見た時は、後手とても勝てるという感じはしませんでした
ですが、▲6六歩が不用意で△2四歩の仕掛けを誘発。先手片上五段は、真っ先にこの手を悔やんでいました
飛交換は後手有利。なので、先手は飛交換を避けますが、△2四同角の局面がビミョーです。
本譜は▲4六歩ですが、△1四歩(途中図1)が好手。△1三角▲2五歩△4六角を狙っています。
▲6八角と受けましたが、▲6六歩と▲4六歩と▲6八角の3手は1手多い。1手余分に指しているがゆえに、バランスが悪い
そのバランスの悪さを突いて、△3三角▲2五歩△4二角(第2図)が細かい動き。
先手に歩を使わせるだけでなく、無理な動きを強要する狙いです。

第2図以下:▲4七銀△4三銀▲3七桂△2三歩(途中図2)▲1六歩△5二金▲6七金右△3二飛▲5八飛(第3図)

先手は、後手について行くのが精一杯という感じ。

途中図2の△2三歩は勿体ないようですが、▲3七桂と跳ねさせた(△4二角の効果)ことに満足して、3筋狙いに切り替えています
▲5八飛は、局後の感想戦で、片上五段自ら「悪手だと思うが・・・」と言った手。
片上五段「最善を尽くしても、先手は良くて千日手」
藤井九段「千日手なら、こちらは満足」
しかし、先手はそう「感じていた」としても、千日手には出来ないでしょう。
そこまでハッキリと形勢に差がついているわけではないのです。
だから▲5八飛。
3筋で歩交換されることに対して、5筋歩交換で釣り合いを取ろうとしたのですが、結果的に後手に新たな主張点を許してしまいました。
第3図以下、十数手進んで第4図。

第4図以下:△5四歩▲2八飛△3二飛▲2六飛△5一角▲5八銀△2二飛(途中図3)▲5七角△5五歩▲2九飛△5四銀(第5図)

第4図の次の手で、あっさりと△5四歩
一見先手の主張が通ったようで、そうではありません。後手は5筋歩交換を逆用しようとしています。
それを実現すべく、細やかに先手の手を消していきます。
▲2八飛は、▲4五歩△同歩▲2四歩△同歩▲同角が狙い。
△3二飛はその防ぎ。▲2四同角に対し△2二飛を用意。この変化は銀損しますが、2枚飛車の方が勝ります。
更に▲2六飛で2枚替えを狙います(飛を取らせる位置をずらす)が、△5一角がその防ぎ。

狙いがなくなった先手は▲5八銀と手待ちしますが、△2二飛(途中図3)が5筋歩交換逆用の準備
▲5七角に対し、△5五歩が待望の一着!
以下△5四銀までで狙いが実現。離れ駒が無くなり、後手は強い戦いが出来るようになりました。
第5図以降戦いが始まりましたが、5四銀型の好形を生かし、飛交換からピッタリ1手勝ちしています。

後手は、先手の弱点を「1つだけ」形を変えながら狙っていました。
先手は、最初の疑問手を何とかフォローしようとしますが、既に「歪み」が生じています。
「歪み」は、最初は6筋(▲6六歩)。以降、2筋(▲2五歩)→3筋(▲3七桂)→5筋(▲5五歩)と場所を変えますが、後手は、その「歪み」を的確に狙います
最初の実利をあっさり放棄(途中図2、3)しているように見えて、次の「歪み」を狙うための的確な動き。
「歪み」を感じ取れる感覚が、最高峰の振飛車使いなんだと思いました。