SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

R. Michael Alvarez and John Brehm, Hard Choices, Easy Answers, Princeton University Press, 2002

2013年11月28日 | 
この間の授業で、先生が
「政治行動に関わる本で一冊だけ読むべきものを選ぶとしたらZallerのもの」
とした上で、
「一冊だけだとZallerになっちゃうけど、もう一冊と言われたら、Alvarez & Brehmを選ぶかな」
と仰っていたので、
今日はそのもう一冊のほうである、R. Michael Alvarez and John Brehm, Hard Choices, Easy Answers: Values Information, and American Public Opinion, Princeton University Press, 2002をご紹介しようかと思います。



本書は、Converse(1964)などで大衆の世論調査への回答が、まるで彼らがランダムに答えているかのように不安定であることを指摘されているにも拘わらず、アファーマティブ・アクションについての賛否等のいくつかの論点については回答が比較的安定しているのはなぜかという問題を解き明かそうとします。
この問題について著者らは、人々の価値観がこれに大きく影響していると主張します。

著者らによれば、Zaller(1992)が論証したように人々のpolitical awareness(政治についての関心・知識の高さ)は非常に重要だけれども、それとともに人々のcore value(中核的な価値観)などを構成要素とするpolitical predisposition(政治的立場を方向付けるその人の性質・個性(うまく訳せない!!))が、世論調査に回答するときには使われている。
(Zaller(1992)においては、poitical predispositionはどの情報をacceptするかという段階で働くくらいのものだったのが、Alvarez and Brehm(2002)においては回答する段階で直接参照されるものの一つとして扱われていて、Zallerよりもpolitical predispositionが重要視されています。)

political predispositionを重視する本書が革新的なのは、political predispositionとpolitical awarenessの関係によって、政策が以下の3つに分けられると主張しているところでしょうか。
(1)Ambivalence:ある個人のpredispositionが内面において対立して、一定の結論を導き出すのが難しいもの。political awarenessが大きいほど意見のぶれが大きくなる。
  (例)中絶をめぐる問題:「女性の自律」と「誕生前に人間の生命が始まる」という価値の対立。
     安楽死:「自己決定権」と「生命の尊厳」という価値の対立
(2)Uncertainty:predispositionよりもその人のpolical awarenessが影響するもの。political awarenessが大きい人ほど意見のぶれは小さい。
  (例)人種をめぐる政策(アファーマティブ・アクションとか)
(3)Equivocal:「公務員は個別の事情に融通をきかせるべき」と「公務員はすべての事情を同じように扱うべき」という矛盾する期待が両立するべきと考えるように、複数のすべて実現させることが不可能な価値を同時に抱いているもの。political awarenessが大きい人ほど意見のぶれは小さい。

このように政策を分けることで、各政策における人々の意見の安定/不安定の理由を推測することが可能になり、世論をより細かく分析することにつながります。
しかし、ambivalenceやuncertaintyはなんとなくわかるのだけど、equivocalはどういうものなのか、いまいちよく分かりませんでした。
意見のぶれがpolitical awarenessが高い人ほど小さくなる点ではuncertaintyと共通するけれど、その人が抱いている価値同士が矛盾・対立しているところがequivocalをuncertaintyから分けるものなのか。
Renの読解力ではこれがどういうものなのか明晰判明にはならなかったので、この本を引用して詳しく解説している論文とかを探さないとなと思っているところです。


本書は、その副題にも示されているように、「世論調査への人々の態度及びその変容」の理論を提示するだけではなく、「アメリカの世論がどういう価値(political predisposition)を抱いているか」についても解明をしようとしたものです。
どちらかといえば前者のほうが興味があるRenのような人だけじゃなくて、アメリカ人の価値意識に興味がある読者にとっても、有益となる本なのではないかと思います。

前に紹介したZallerさんのものと比べるとだいぶ薄くて読みやすかったけれど、Renにとっては上述したような分からなさがあり、読後感はいまいちすっきりしないものとなりました。
ただ、世論研究の奥の深さを分からせてくれるような、そんな本でした。

ちなみに、、、
蛇足ですが、本書のカバーの写真は、Converse(1964)が描く理論の要約になっているように思います。
質問者が家までやってきて、回答者は「ドアの前で」(いま初めて、それまで考えたことなかった)政治についての質問への答えを考える。
しかし、ここでこの回答者はpolitical predispositionを利用しているのだ!とAlvarez & Brehmは本書で主張することになります。なんて秀逸なデザイン!!

洋書に時々見られる、こういう深い意図(や遊び心)を込めたデザインの意味がたまに分かると、なんだかとても嬉しい気分になれますね。
残念ですが、Zallerさんの三角形のデザインの意図は、まだ分かりません。。


(投稿者:Ren)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿