以前紹介したPolitics in the Age of Austerity (2013)で読んだFritz Scharpfさんの論文がとても刺激的だったので、そこに引用されていた彼の著書を読んでみました。
Fritz Scharpf, Governing in Europe: Effective and Democratic? (Oxford University Press, 1999)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/ea/fa132a6b7a58935df75c6d667d5347ac.jpg)
僕が本書を手に取った動機は、上記の論文で触れられている「input-oriented legitimacy」と「output-oriented legitimacy」についての議論が詳細に展開されているのではないかと期待したからですが、これらの概念については第1章で少し語られるだけでした。
著者によれば、input-oriented legitimacyは「government by the people」を強調し、output-oriented legitimacyは「government for the people」を強調するもの(p.6)。
両者は相補って政府に正統性を付与すると著者は主張するのですが(その通りだと思うけど)、両者の関係をどう考えていけばいいのか僕にはいまいちよく分かりませんでした。
たとえば、アウトプットを強調したとして、そのアウトプットが適切かどうかは結局民主的プロセス(「input」)で判断せざるを得ないし、アウトプットの実現が正統性を付与するとしてもアウトプットだけで(インプットを無視して)国民がその政府に正統性があると感じるとは思えない。
インプットとアウトプットのバランスが必要だということになると思うけど、本書からはそのバランスのとり方についての指針を読み取れませんでした。
しかし、著者からすれば、「それは本書の主題ではない」ということになるのかもしれません。
著者が本書でしたことは、欧州統合をnegative integration(貿易の自由化を阻むものを除去)とpositive integration(経済規制のシステムの再構築)に分けて把握(pp.45-46)し、前者の進展に比べて後者が停滞していることを指摘して後者をどうやって進めていけばいいのかを考察したこと。
具体的には、当初加盟国が条約を締結した段階では想定していなかった分野・程度までnegative integrationが進んだ背景として欧州委員会や欧州司法裁判所の働きがあったように、positive integrationでもこれら機関によるlegal integration(実効的な合意調達が困難な政治による進展ではなく)を活用すべき、と主張します(p.200-201)。
それがinput-orientedの観点から言うとlegitimacyをより一層欠いてしまうのは明らかではあるものの、上記機関がより欧州の人たちの公益を実現できるとすればoutput-orientedの観点からのlegitimacyを獲得できる。
この意味でinput-orientedとoutput-orientedの関係とかバランスのとり方が重要になってくるはずなので、この議論が不十分に見えることが僕には残念でなりませんでした。
でも、positive integrationを進めていく際に、経済的・社会的・文化的に条件が多様な加盟国を単一の制度の下におくことの弊害を認識して、福祉国家政策については「福祉国家レジーム」別に、産業関係については「資本主義の型」別に、環境規制については富裕な国とそうでない国と分けて統合を考えていくアイディア(第4章&第5章)は興味深く読みました。
実際には各国がどのグループに入るかについて、そう簡単に合意できないだろうなとは思うけど。
(投稿者:Ren)
Fritz Scharpf, Governing in Europe: Effective and Democratic? (Oxford University Press, 1999)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/ea/fa132a6b7a58935df75c6d667d5347ac.jpg)
僕が本書を手に取った動機は、上記の論文で触れられている「input-oriented legitimacy」と「output-oriented legitimacy」についての議論が詳細に展開されているのではないかと期待したからですが、これらの概念については第1章で少し語られるだけでした。
著者によれば、input-oriented legitimacyは「government by the people」を強調し、output-oriented legitimacyは「government for the people」を強調するもの(p.6)。
両者は相補って政府に正統性を付与すると著者は主張するのですが(その通りだと思うけど)、両者の関係をどう考えていけばいいのか僕にはいまいちよく分かりませんでした。
たとえば、アウトプットを強調したとして、そのアウトプットが適切かどうかは結局民主的プロセス(「input」)で判断せざるを得ないし、アウトプットの実現が正統性を付与するとしてもアウトプットだけで(インプットを無視して)国民がその政府に正統性があると感じるとは思えない。
インプットとアウトプットのバランスが必要だということになると思うけど、本書からはそのバランスのとり方についての指針を読み取れませんでした。
しかし、著者からすれば、「それは本書の主題ではない」ということになるのかもしれません。
著者が本書でしたことは、欧州統合をnegative integration(貿易の自由化を阻むものを除去)とpositive integration(経済規制のシステムの再構築)に分けて把握(pp.45-46)し、前者の進展に比べて後者が停滞していることを指摘して後者をどうやって進めていけばいいのかを考察したこと。
具体的には、当初加盟国が条約を締結した段階では想定していなかった分野・程度までnegative integrationが進んだ背景として欧州委員会や欧州司法裁判所の働きがあったように、positive integrationでもこれら機関によるlegal integration(実効的な合意調達が困難な政治による進展ではなく)を活用すべき、と主張します(p.200-201)。
それがinput-orientedの観点から言うとlegitimacyをより一層欠いてしまうのは明らかではあるものの、上記機関がより欧州の人たちの公益を実現できるとすればoutput-orientedの観点からのlegitimacyを獲得できる。
この意味でinput-orientedとoutput-orientedの関係とかバランスのとり方が重要になってくるはずなので、この議論が不十分に見えることが僕には残念でなりませんでした。
でも、positive integrationを進めていく際に、経済的・社会的・文化的に条件が多様な加盟国を単一の制度の下におくことの弊害を認識して、福祉国家政策については「福祉国家レジーム」別に、産業関係については「資本主義の型」別に、環境規制については富裕な国とそうでない国と分けて統合を考えていくアイディア(第4章&第5章)は興味深く読みました。
実際には各国がどのグループに入るかについて、そう簡単に合意できないだろうなとは思うけど。
(投稿者:Ren)
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