SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Christopher Hood, The Blame Game, Princeton University Press, 2010 

2013年03月03日 | 
Renです。
今日も非常に面白い本を読んだのでご紹介したいと思います。
今回ご紹介するのは、Christopher Hood, The Blame Game: Spin, Bureaucracy, and Self-Preservation in Government, Princeton University Press, 2010 です。



本書は、政治・行政のあらゆる場面で現れるblame avoidance(非難回避)について、その現れ方を政治・行政の戦略によって分類し、それを豊富な例を紹介しながら論じます。
筆者は非難回避は全てではないと強調しているものの、これがいかに政治・行政のあり方を規定しているかに読者は驚かされます。

さて、筆者は非難回避の戦略を以下のように分類します。
(日本語はいま適当に考えたので、興味のある方は第3章以下を実際に読んでご確認ください。)

1.Presentational Strategy【表現手法戦略】
(1)Keeping a Low Profile(目立たないようにする)
 (あ)一方的な情報伝達…(例)文書で発表するのみ(質問とかを受け付けない)等
 (い)合意した質問項目のみのインタビューを受ける…(例)テレビ等で合意していない質問があった場合は、インタビューを打ち切る
 (う)選択的なメディア露出…(例)友好的なメディアのインタビューは答えるけど、敵対的なものには答えない
(2)Winning the Argument(非難言説の論破)
 (あ)問題の否定
   (ア)問題の存在を完全に否定する
   (イ)小さな問題の存在は認めるが、それが深刻であることは否定、またはコントロール不可能だったと主張
   (ウ)反撃を伴いながら問題を否定(マスコミや特定の批判者を非難する)
 (い)言い訳する…(例)「想定外の事態」「スタッフが不足していた」「部下からの報告がなかった」等
 (う)正当化する…(例)非難されている事案は実はいいことである理由を挙げる等
(3)Changing the subject(悪いニュースを目立たなくさせ、人々の注目を別の問題に移す)…(例)大きなスポーツイベントがある日に不人気な政策を発表する等
(4)Drawing a line(非難が昂進する前に謝罪する)

2.Agency Strategy【代理戦略】
(1)Delegation of responsibility down the line or out from the center(下位または外部の機関への責任の委譲)…ただし、責任の委譲による非難回避は、成功による名声の獲得とトレードオフになる。スポーツチームの監督ではなく会長(監督を責めたりクビにできたりもする)になるようなこと。
(2)Defensive reorganization and staff rotation(組織の改変と人事異動による防御)…別名"moving-the-target approach"。責任の構造を不明確かつ不安定にすることで、批判者に対し「システムの複雑性を理解していない」とか「その問題は古い体制の下で起こったもので、今の新しい体制では起こりえない」などと言えるようにする
(3)Partnership structures(協調の構造)…複数の組織によって複雑な構造をつくることで、どの組織が悪いのかわかりにくくする
(4)"Government by the market"(「市場による支配」という言い訳)…(例)トップの官僚の給与が平均的なサラリーマンよりも高いことについて、市場価格を理由にする

3.Policy or Operational Strategy【運営戦略】
(1)Protocolization(規約化)…厳格に(「官僚的に」)ルールを適用
(2)Herding(群れを作る)…集団で意思決定をすることによって、何か悪いことが起こっても特定の個人は非難されない。非難を除去はしないが、集団の中で薄める。
(3)Individualization(個人に責任を押し付ける)…システムや組織ではなく、個人に責任を押し付け、スケープゴートにする。
(4)Abstinence(抑制)…何もしない(非難される可能性のあることはしない)。ただし、何もしないことが非難の原因になることもある。


正直、ここまで何でもかんでも非難回避戦略と結び付けて良いのかなという疑問は浮かんできます。
上に少しだけ書いたこと以外にもたくさんの例を筆者は挙げていて、非難回避戦略と分類できないような政府の行動は存在しないんじゃないかとすら思えてきてしまいます。

Blame Avoidanceは、以前名前だけを紹介したR. Kent Weaverさん("The Politics of Blame Avoidance," Journal of Public Policy 6(4), 1986)や、彼の学説を引き継いで福祉国家縮減の政治を分析したPaul Piersonさん(Dismantling the Welafare State?, Cambridge University Press, 1994)が有名にした分析枠組みではないかなと認識しているのですが、なんだか筆者は彼らとは違った問題意識からこの概念を使っているのではないかなと感じました。
WeaverさんやPiersonさんは増税や社会保障給付の削減といった政策がなかなか行われない理由を、選挙に直面する政治家の非難回避に求め、そのような状況下でいかに必要な政策が行われた(る)かを語ろうとしていたような気がします。(以前このブログで取り上げたAlan M. Jacobsさんもこの系譜上にありますね。)

しかし、筆者(Hoodさん)は、行政学者だからなのか、blame avoidanceを行政一般の行為を分析・説明する概念として語ろうとする。
確かに筆者の言うとおりだなとも思うのだけど、すべてに当てはまることを言ってしまっているためにほとんど何も語れていないような気がしてしまう。
筆者は、上記のように非難回避戦略を分類し、後のほうの段落でblame avoidanceは全部negativeではなくpositiveなそれもあるんだ、みたいなことを少し語っているのですが、それをもっと中心的に論じてもよかったのではないかなと思いました。
そうでないと、なぜblame avoidanceをわざわざ論じるべきテーマとして選んだのかが不明瞭で、Renはいまいち、筆者がこの本の中で何を主張したいのかが分かりにくかったです。(たぶん僕の読解力・理解力不足だと思うのですが。)

ただ、この本は文句なく面白いです。
普段の自分が仕事する中で思わずやってしまうことや上司がやってるような行為が非難回避戦略の具体例として登場していて、思わずくすっとすることが何度もありました。
(たとえば、「自分はそれを聞かされてなかった」と上層部の人が現場の公務員に責任を押し付けて自分が非難されることを避けようとすることに対抗して、現場レベルの人がメールを送るときに上司にもCCで送って「聞かされてなかったとは言わせない」というようなことが紹介されていたのですが、僕も会社で似たようなことしてるかもなって思いました。こんな共感できるような具体例が満載です。)
行政の活動の少なくとも一つの側面としては必ずある非難回避戦略について楽しく理解できるのではないかと思います。(本文も200ページほどなので、読むのにそんなに苦労しないのもグッドポイント!)

個人的には、Renでも知ってるほどの超有名な行政学者であるHoodさんのこの本の中で、日本の事例が数点取り上げられていた(大蔵省の解体の話とか稟議制の話とか)ことが、なぜかちょっぴり嬉しかったです。(なぜだろう?(笑))


投稿者:Ren