SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Jeremy Moon, Corporate Social Responsibility: A Very Short Introduction (Oxford University Press)

2017年01月05日 | 
意識的に英語を読むようにしているRenですが、一向に英語を読むスピードは速くなりません。
でも、ゆっくりとしか読めないからこそ、丁寧に読むことにもつながります。
(逆に、日本語の本だと、飛ばし読みしてしまって、頭の中にあまり残らない、ということも少なくありません。)
こういう利点があるから、門外漢の分野の本を読むとき、あえて英語の本を選ぶのも悪くありません。

ということで、日本語の入門書ですらこれまで一冊も読んだことがない、CSRについて書かれた本である、Jeremy Moon, Corporate Social Responsibility: A Very Short Introduction (Oxford University Press, 2014)を今日はご紹介したいと思います。



本書は、CSR(企業の社会的責任)という概念について、その理論的フレームワーク、その系譜(前史、アメリカにおける発展、近年における世界的な広まり)、それが近年特に注目されるようになった背景、その限界、等々といったことをコンパクトでありながらとても分かりやすく説明するものです。
冒頭に書いたように、僕はCSRについて「なんとなく聞いたことがある」レベルの知識しかなかった(それで「知識」と言えるかは措くとして)のですが、
・もともとフィランソロピーだったり従業員のための施し的なものとして始まったCSRが、どんどんその対象を拡げ、またそれが企業にとってのソフトな規制になっていく(ハードな法的規制をかけなくても、政府は企業に社会的に責任のある行動を行わせることができる)こととか、
・企業が激しい人材獲得競争を行う中でCSRに熱心に取り組んでいることが有利に働く(人は社会に貢献したいという欲求を持っているので、その企業がCSR活動に熱心なことは被雇用者のモチベーションアップにつながる)こととか、
・欧州においては米国とは異なり民衆の株式保有が少なく、企業は銀行や家族によってファイナンスされていたため、「大企業は社会的責任を果たすべきだ」という意見は強くなく、また戦後、コーポラティズムの枠組みで、企業は環境、教育を含む様々な政策領域において政府の政策にコミットしていたという事情があって企業のCSR活動は米国と比べて活発ではなかったが、近年になって公共目的の直接の政府行動が相対的に低下してきたことやマネジメントの理論と実践の標準化を背景に、欧州においてもCSRが急速に求められるようになってきたこととか、
・今後の課題として、企業のCSR滑動のアウトカムを評価するためのツールやシステムを開発していくことが指摘されていることとか、
非常に興味深く、感心しながら読み進めることができました。

おそらく本書の特徴は、著者がもともと政治学をバックグラウンドを持つ人であることなのではないかと思います。
著者のプロフィールによれば、もともと著者がCSRに興味を持ったのは、1980年代前半に大量の失業者問題に対する公共政策を研究していたときのことであるとのこと。
http://www.cbs.dk/en/research/departments-and-centres/department-of-intercultural-communication-and-management/staff/jmoikl#profile
その関心を反映して、本書もCSRを政府の活動との関わりで論じるところが少なくありませんでした。

それは、僕のように政治学が専門の読者にとってはとっつきやすいし、分かりやすい(し、すごく面白かった!)のだと思うのですが、もっぱら経営学的な興味で本書を手に取る人にとっては不満を抱くところなのかもしれません。
事実、企業の営利活動やブランド戦略とCSRがどのように結びつくか、という観点の論述は、もちろんなかったわけではないものの、当初予想していたよりも薄かったように思います。
本書を読んでCSRに俄然興味が湧いてきたので、次は経営学的側面に力点を置いた本も読んでみたいと思いました。

(投稿者:Ren)