SakuraとRenのイギリスライフ

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Christoffer Green-Pedersen, The Politics of Justification (Amsterdam University Press, 2002)

2015年05月20日 | 
表紙が美しくて全冊買い揃えたくなってしまうAmsterdam University Pressのシリーズ「Changing Welfare States」の第1冊目、Christoffer Green-Pedersen, The Politics of Justification: Party Competition and Welfare-State Retrenchment in Denmark and the Netherlands from 1982 to 1998 (Amsterdam University Press, 2002)を今日は簡単に取り上げたいと思います。



本書は福祉国家縮減の政治をデンマークとオランダを比較しながら論じたものです。
OECD各国が経済社会のあり方を新しい経済環境に適応させるのに苦労する中、デンマークとオランダはそれに成功した例とみなされている。
両国は同じくらい充実した福祉国家制度を持ち、同じような経済的問題に直面したにも拘わらず、改革の行われ方やその程度には違いがあった。
その理由を著者は両国の政党政治の形態(政党がどういう形で競合しているか)に求めます。

具体的には以下の通り。
著者は政党の競合の形として、大きく「bloc system」と「pivot system」に分けます。
bloc systemとは、政党が左派の集団と右派の集団に大きく分かれていて、中道の政党(キリスト教民主主義など)は存在しないか極めて限定的な役割しか果たさないようなシステム。
pivot systemとは、中道の政党が過半数を取らないけれどもかなり強く、政権は中道+右派or左派で構成されるようなシステム。

前者(bloc system)では左派が政権を取るか右派が政権を取るかで社会保障政策の縮減が行われるかどうかが決まる。
右派政権において彼らが社会保障政策を縮減しようとすると、左派はそれを強く批判します。
その政策が社会保障制度をより強力にするために必要なんだと彼らが主張しても、選挙民は右派は彼らのイデオロギー的な目標の達成のために福祉切り捨てをしようとしているんじゃないかと疑う(左派のおそらくイデオロギー的な批判もその疑義を煽る)。
その性質上不人気な社会保障縮減政策は、このような環境の下では選挙民からの納得を得られにくく、そのため、右派政権においては社会保障縮減は行われにくい。

ところが、左派政権においては「Nixon goes to China」の論理が働く。
すなわち、選挙民は、福祉を大切にする左派政権が社会保障政策縮減を唱えるのだから、それは社会保障制度の強化を本当に志向しているんだろうと思いやすい。
一方で、自分たちのイデオロギー的立場に一貫性を持たせようとするならば、野党の右派は社会保障縮減に強く反対しにくい。
そのため、左派政権においては右派政権と社会保障縮減についてコンセンサスが得られやすく、改革がスムーズに進む。

pivot systemでは、中道のキリスト教民主主義政党が社会保障縮減しようと思うかどうかがポイントになります。
キリスト教民主主義政党は、選挙民から社会保障縮減について理解を得ないと選挙で大敗してしまうので、その意図が社会保障制度の強化にあると思ってもらうためにも左派と組んで改革を行う。
右派も左派も自力で政権を取れないことは分かっているので、キリスト教民主主義政党にあまり強く反対して自ら政権から遠ざかるのは得策ではない。
そのため、左派と組むことにそれほど大きなハードルはないし、右派もそんなには反対しない。
著者はpivot systemのほうがbloc systemよりも社会保障縮減政策が進みやすいだろうと予測します(中道の政党が決意しさえすればいいので)。

実証部分は、bloc systemのデンマークとpivot systemのオランダの1982年から1998年までの実際の改革をなぞり、この予測がどのくらい適切かを確かめることになります。

本書のポイントは、福祉国家縮減の成否を選挙民への正当化(justification)がどれほど成功するかに求め、その正当化戦略が政党間競合のあり方によって影響を受けるとしたこと。
その意味で、本書を一言でまとめると「politics matter」ということになります。
疑問点をあえてあげるとすれば、著者は政府によるその正当化が説得力を持っていたのか、あるいはなぜそれが説得力を持っていたかを十分に説明できていないように思えることじゃないかと思います。
それを解明するには、「あなたはなぜこの政権の社会保障改革に反対じゃなかったんですか?」というようなサーベイをしなくてはいけなくなりそうだけれども。


本書は著者の博士論文の「significantly revised version」とのこと。
いずれ博士論文を書かないといけない僕にとって、内容はもちろんですがそれ以上に本文の構成のされ方が興味深かったです。(これは取り入れたいというところと、そうでないところと。)
また、比較的さらっと書かれてはあったけど、社会保障の縮減をoperationaliseする際にはその方法及びデータの収集両面において本当はかなり骨を折ったんだろうなと思って、頭が下がりました。

(投稿者:Ren)

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