SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Armin Schafer and Wolfgang Streeck, eds., Politics in the Age of Austerity (Polity Press, 2013)

2015年02月23日 | 
指導教授にliterature reviewを提出できた解放感の中、Armin Schafer and Wofgang Streeck, eds., Politics in the Age of Austerity (Polity Press, 2013)を読みました。
本より論文を読むことが最近は多いのですが、本を読み終えるのは論文を読み終えることよりも達成感があります。(なぜだろう?)



本書は2007年頃からの世界金融恐慌を視野に入れてはいるものの、それを直接の対象とするものではありません。
Paul Piersonが明らかにした「era of permanent austerity」(たとえば、Paul Pierson ed. (2001) The New Politics of the Welfare Stateの序章参照)の状況が、世界金融恐慌によってさらに顕在化したことを念頭に、より広くausterityの政治をめぐる様々な諸論点を検討していくものです。

中でも一番力点が置かれているのが、austerityを実施していくことと民主主義との関係。
この論点は、民主主義の正統性を「inputの側面」と「outputの側面」に分け、両者が現在対立していることを指摘するFritz W. Scharpfによる第5章(The Disabling of Democratic Accountability)、政府が「responsiveness(応答性)の要求」と「responsibility(責任)の要求」にさらされていて、近年政府はresponsiblityをより強調しているとするPeter Mairによる第6章(Representative Government and Institutional Constraints)に最も顕著に表れています。
1970年代以降のスウェーデンの福祉国家改革の政治過程を分析するSven Steinmoの第4章(The Political Economy of Swedish Success)もこの問題意識に貫かれていると言って良く、エリートが人民のプレッシャーから自律的に政策を練り上げていくスウェーデンモデルを、インプットの点では民主的かどうかは疑わしいが、アウトプットの点では民主的だと言える(p.103)と主張しています。(ただし、このモデルを他国に当てはめることは様々な条件が異なる中では危険だと、適切に注意しています。)

この論点に関連して僕が個人的に蒙を啓かれた気持ちになったのは、政治参加が先進国で低下している要因を次のように説明しているところ。(編者2人による序章(Introduction)及びWolfgang Streeck and Daniel Mertensの第2章(Public Finance and the Decline of State Capacity in Democratic Capitalism)参照。)
すなわち、緊縮政策が必要になっているとはいえ、義務的経費を減らすことは政治的に難しいので、削減されるのは裁量的経費。
これはつまり、左右どちらの政党が政府を組織しようが政策としてできることは少なくなってしまっているということで、人々からすると政治の選択肢があまりないということになる。
どの政党に入れてもあまり結果は変わらない(政治に期待できない)から投票に行かない。

なお、Armin Schaferによる第7章(Liberalization, Inequality and Democracy's Discontent)の分析によれば、不平等が拡大するほど投票参加率は下がっているとのこと。
austerityが経済格差を拡大するかどうか(拡大されることが多くの文献で前提されているけど)は議論のあるところかなと思いますが、今後は「民主主義の病理」(必要な政策ができない)だけじゃなくて、「民主主義の空洞化」(政治参加が減少して民主主義の基盤が弱くなる)とでも呼べそうな事態にも、ますます政治学(実証も規範も)は真剣に対処していかなくてはいけないのでしょう。


本書はドイツで研究をしている人たちが中心となって執筆しているもののようで、少し前にここで取り上げた英米の研究者のコラボレーションであるWyn Grant and Graham K. Wilson, eds., The Consequences of the Global Financial Crisis (Oxford University Press, 2012)にはあまりなかった大陸からの視点が反映されていそうで、併せて読むことができたことで世界金融危機の意義をより立体的に垣間見ることができたと思います。
全部が素晴らしい論文で興奮した!ということは残念ながらなかったのですが、前半の論文たち(1~5章)が僕には特に素晴らしく感じました。

(投稿者:Ren)

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