小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

再び、黄金の上から目線。

2015年09月12日 | 芸術(映画・写真等含)

 

先に書いた「黄金の、上から目線」について、どなたかから間違いを指摘された(前々回の記事・コメント欄参照)。その鋭い指摘には、まことに恥じ入る次第でお詫び申し上げた。そのブログ記事に補記を設け、しかるべく訂正をし、なぜ間違いを犯したのか表記するつもりであった。もっと時間をかけて検討する予定であったが、私としてはやはり記事の大意は変更しない、という判断に至った。
もちろん、間違いは訂正し、その点について重々お詫びをする。また、絵画技法に関して、私は初心者以下の知見しかないので、この点について今後もご教示を仰ぐことになるかもしれない。

さて、私が主眼として言いたかったことは、視点を高みにおいて見下ろすときの「光景」のことだ。

つまり絵を描くときの視座、視点(アイレベル)を問いたいのだ。高台とか塔の上に立って下方をみるときの安定感、見晴らしのいい開放感や気持ちよさ。それは「黄金比率」と、なんらかの相関関係がありはしないかということ。それが直観で導きだした30度の傾斜角ではないかという、素人が考えつきそうな仮説であった。

そうだ黄金比率の長方形から簡単に対角線の傾斜角度は求められるではないか。まずそれを示さなければならなかった。

上記図がいわゆる黄金比率の長方形である。

b~aの高さの辺=1とすると、 黄金比率では、b~eの底辺は、{(1+√5)÷2}となる。 

計算するとb~e≒1,618・・になる。

この場合、aとeを結ぶ対角線を想起していただきたい。 そして直角三角形をイメージしていただきたい。

                          

 上記の公式を使うと角度が求められる。この上記の図に照らして、aを1.618に、bを1とした。

この式に上記数値を当てはめると角度は、31.718度になった。
黄金比そのものが割り切れないので正確な数値ではない。しかし、この31.7度は、ほぼ30度に近似してはいないか。

さて、ご指摘の飛行機の進入降下角度だが、指摘されたとおり明らかに3度である。前回のブログでも、引用文については、「PAPIは、パイロットへ適正な進入降下角度°3を可視光で伝える役割をもつ。(ウィキペディアでは°3という表記。これは30度を示すものか分からない)」というふうに表記した。°3の表記を30度という呆れるばかりの牽強付会、自分のドタマをかち割りたい。
こんな間違いは、飛行機が降下するイラスト図版をそのまま見たからだ。見るからに降下角度は30度っぽい。妻にどう見えるか聞いてみたら、「30度でしょ、3度だったら地面にぶつかる」なぞと宣い、私も「まあそうだな」くらいのノリで30度にしてしまった。
飛行機の進入降下角度は3度であることは間違いない。ここに訂正して深くお詫び申し上げます。

ただ、進入降下角度をもとめることは、私の主眼ではない。アイレベル(視点)が高所にあり、見下ろした場合の見え方である。

もう一度、安野光雅の「旅の絵本」のひとつを紹介したい。

   

間違いを指摘された方によると、「パースペクティブで描かれており、近くは急な深い角度で、遠くは浅い角度で見下ろされています」とある。さらに、前置きとして「一定の角度で見下ろしている、すなわちアクソノメトリックで描かれてはいません」とも断っている。アクソノメトリックはいわゆる建築設計でいうところのパース図であって、これほど厳密な描法を安野画伯は用いてはいない。

私の主眼はアイレベルであり、パースペクティブ(透視図法)で描くにあたって、安野画伯の視座、アイレベルは何処にあるのかが最もわたしの関心事なのである。明らかに上記の図は、高い鉄塔のような所に立っているか、宙に浮かんだ気球のバスケットから描いているというシチュエーションである。この絵の場合、消失点はほぼ蒸気機関車が走っている線路あたりだろう。この絵はネットから転用したもので、絵のタッチが詳らかではないが、SLの描きかたや遠景の色彩は明らかにしっかり描かれ、近景との描き分けの差はすくない。安野画伯ならではのパースペクティブ描法である。

ただし、何度も繰り返して恐縮だが、この「旅の絵本」シリーズは、描く視点・アイレベルがすべて、空中に求められるのである。

早川書房の「美の幾何学 天のたくらみ、人のたくらみ」という文庫を読んだ(出版は1979年頃)。安野光雅・伏見康治・中村義作の鼎談で構成された「美と数理」「幾何学精神」などを主題とした面白い本である。シンメトリーはもちろん、対数螺旋と黄金分割、遠近法のうらおもて、四次元を見るetc.など、より原理的な美の本質、幾何学的な法則について解説された本である。

安野画伯はあらゆる面において広汎な見識、技法・幾何学を熟知。エッシャーはいうまでもなく、2点透視図法などについて語り、さらに「デザルグの定理」についても言及している。これについては私はまだじゅうぶんに理解できていない。

分からないで書くと、また間違っていることを書くかもしれないので手が震える思いであるが、平面上のあるものを、「デザルグの定理」によって3次元の空間に視点を設定できる。つまり、その平面(二次元)にあるモノを、三次元空間のなかに立体的に再現するような、透視図法として応用できそうなのである。この点について、詳しい方がいれば是非ともご教示ねがいたい。

ともあれ、安野画伯はそのような「美のたくらみ」を自家薬籠中のものとして「つまり多少インチキに描き」分けているのかもしれないのである。

 

あと、「モノリスの比率は黄金比ではなく1:4:9です」という「寄り道中」氏の指摘があった。このキューブリックの映画「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリス。

ご指摘のとおり1:4:9、いわゆる1,2,3の平方数である。私はウィキペディアから、黄金比率の具体例を探していたら映画「2001年宇宙の旅」のモノリスがあったので安易に引用してしまった。ウィキペディア恐るべし! でもしかし、「モノリス」とは一般的に、黄金比率の長方形のことをいうそうだ。アーサー・C・クラークの原作では、この黄金比率の長方形が示されている。だが、キューブリックは1:4:9の長方形の立方体を採用した。また、この立方体の厚さ「1」の割合ではなく、実際にはもっと薄い直方体として映画に登場したそうである。ここにキューブリックならではの、余人にはしれない美学があるのであろう。ということで、エクスキューズではないが、どうかこの点原作では黄金比率の立方体だったということで、お目こぼしをいただけたらと思う次第である。

 

 

最後になるが、見下ろしている絵画は意外と少ない。わたしが思う傾斜角30度ほどの視点からの、「黄金の上から目線」で描かれた絵画があるやなしや。

 

 

 上は私の好きなアントニオ・ロペス。「バリューカスの消防署の塔からみたマドリード」である。

消失点は地平線。それゆえアイレベルからの角度はそれこそ3度くらいか(追記;これも私の見立て違いだろう。1度ぐらいか。9/17記)。ゆったりと見渡せる、見るだけでこころの平安をもたらしてくれるようなスペインリアリズム風景画の傑作である。ただし、視点から見切れる近景、遠景のいたるところに驚異的な描法で描かれているのであるが、これでは全く分からない。原画を見なければ話にならない、とはこのことをいうのであろう。

 

だいぶ長くなってしまった。

私がなぜ空中からのアイレベルに拘泥しているのか。稿をあらためて書きます。またここまでのことを、「寄り道中」氏にも再度吟味していただき、手厳しい批判・叱咤を加えていただきたいと思っている。

 

 

 

 

 


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