ほとほと通信

89歳の母と二人暮らしの61歳男性の日記。老人ホームでケアマネジャーをしています。

姫と老親の物語

2013-11-28 | 映画
私は「11月まで東宝系劇場で東宝配給映画を800円で観れる券」を何枚か持っていたので、このところしばしば映画を観に行っていた。

そして今日は11月最後の休みだったが、『かぐや姫の物語』を観てきた。

映画に行くたびにこの作品の予告を観ていたので、ずっと関心を持っていたけれど、ちょっと地味かな…という懸念もあった。

全体に絵柄や色彩が淡い印象だったし、ジブリの二大巨頭の一人とは言え、渋めの作風で知られる高畑勲監督作品だったから。

でも、二時間余り、とても心地の良い時間を過ごすことができた。

確かに色彩も作画も刺激的なではないけれど、それはあくまで『竹取物語』の世界観を表現するためのもの。

人の表情も自然描写も光と影の表現も、とても丁寧で上品に作られていた。

二十代…否、三十代までの私なら、この作風に少し物足りなさを感じていたかも知れない。

しかし今の自分には、目にも心にもとても好ましく覚えた。

冒頭、竹から生まれたなよたけが、養親と暮らす場面。

赤子のなよたけが蛙を追ってハイハイをし、縁側から落ちると、初めて自分の力で立って、あんよをする。

それを見た養親は成長を喜ぶ。

この場面に、五分くらい費やすのである。

赤ちゃんの姿をこれほど丁寧に描いた映画は他には『私は2歳』くらいしか知らないけれど、この丁寧さが、最後のかぐや姫と養親の別れをとても情感深いものにしていた。

この作品はもちろん魅力的な若く美しい姫の話だけれど、同じくらいに、年老いて子宝に恵まれた夫婦の情愛の物語であった。

宮崎駿監督がこの作品を観て泣いたというけれど、確かに色々な別れや断念を知っている世代のほうが感情移入しやすい気がする。

でも、ずいぶんと長い制作時間と費用が掛かっていると聞くと、アニメーション作品なのに中高年向きとは、考えてみればスゴい冒険的な作品なのかなあ…とも思うのでした。