これまでのブログで詳しく説明してきたように、様々な程度と態様での「症状」を、評価の基準が曖昧なままに並べてみたり、いろいろな程度と態様の「脳の萎縮」の度合いを計測するだけの方法では、『アルツハイマー型認知症(以下、「AD型認知症」と略記する)』の発病及び症状の重症化が進行する原因を見つけることも、更には、回復可能な早期の段階(「小ボケ」及び「中ボケ」)を見つけることも、出来ないのです。
どんな程度と態様のものであれ、(「AD型認知症」の症状は、脳の働き具合のアウトプット)なのだから、「脳の働き具合」と症状とを厳密にリンクさせて、精緻に計測することが、不可欠となるのです。その為には、脳を解剖してみるのではなくて、生きた人間の/正常な機能レベルの下で及び異常な機能レベルの下で働いてる脳全体の「働き具合」を計る物差しの開発が不可欠となります。「二段階方式」と呼ばれる「神経心理機能テスト」は、協働して働いている『前頭葉』機能と「左脳及び右脳」の働き具合を「客観的に、且つ、精緻に計測出来る」優れた『手技』なのです。
「二段階方式」の手技により、私たち「エイジングライフ研究所」が計測し/集積し/解析した「脳機能データ」の詳細な説明に入る前に、「前頭葉」機能を含む/脳全体の機能について、概観しておきたいと思います。
(頭のてっぺんの所)には、身体を動かす指令を出す「運動の脳」があります。脳卒中で、半身麻痺になる人がいます。運動の脳の左の部分が壊れると、右半身麻痺が起きます。右の部分が壊れると、左半身麻痺が起きます。(運動の脳の左の部分が右半身を動かして)いて、(右の部分が左半身を動かして)いるのです。
(脳の後ろの左側部分)には、勉強や仕事などをする為の「左脳」があります。左脳は、言葉や計算や論理や場合分けなど、「デジタルな情報」を処理しているのです。
(脳の後ろの右側部分)には、趣味や遊びや人付きあいなどを楽しむ為の「右脳」があります。右脳は、色や形や空間や感情など、「アナログな情報」を処理しているのです。
(額のところ)には、(「意識」が覚醒した目的的な世界に於ける脳全体の司令塔の役割を担っていて、複合機能体である『前頭葉(前頭前野の穹窿部に局在する複合機能体)機能』があります。
私たち人間が、①意識的/目的的に、②何等かの特定の「テーマ」を発想し、実行しようとするとき、②どのような「テーマ」をどのようにして実行するか、③「運動の脳」をどのような目的の為にどのように働かせるか(身体を動かすテーマ)、④「左脳」をどのような目的の為に/どのように働かせるか(言葉や計算や論理や場合分け等の「デジタル情報の処理」のテーマ)、⑤「右脳」をどのような目的の為に/どのように働かせるか(色や形や空間認識や感情等の「アナログ情報の処理」のテーマ)、全ては、『意識が覚醒した/目的的な世界』に於ける(脳全体の「司令塔」の役割り)を担っている『前頭葉』機能が、周りの状況を把握し、理解し、判断して、決定し、決断し、実行の指令を出しているのです。
その『前頭葉』機能には、発想したり、計画したり、工夫したり、洞察/推理/忖度やら憶測をしたりする為の様々な働き{=「実行機能(Executive Function)」}が、詰まっています。
更に、自分の置かれている状況を判断し、種々ケースワークした上で、実行「テーマ」の内容や/実行の仕方を選択して、最終的に決定する為に必要な『評価の物差し【=意識の首座=自我=脳の中のホムンクルス」】の機能』という大事な働きがあります。
老人会でゲートボールを楽しむ時も、お茶を飲みながら友達と趣味や遊びや家庭の問題など世間話に花を咲かせる時も、友達を家にお呼びして得意の手料理でもてなす時も、家の周りに樹木を植えたり草花を咲かせて楽しむ時も、脳全体の司令塔の役割を担っている『前頭葉』機能が、「周りの状況を判断して、テーマを企画して、何をどのようにするかをケースワークした上で決定し、必要な指令を出して、実行させている』のです。
これが、意識的/目的的な世界における脳の働き方の全体像なのです。言い換えれば、運動の脳、左脳、右脳という三頭建ての馬車をあやつる御者の役割をしているのが、「前頭葉」機能なのです。 三頭の馬を十分に働かせられるのも、不十分にしか働かせられないのも、御者である『前頭葉』機能の働き次第ということなのです。御者が馬を操れなくなったら、どうなりますか? 馬はどこへ行ったらいいのかが分からなくなってしまうでしょう。
①『前頭葉』機能を含む脳全体の機能が異常なレベルに衰えてきて、その為に、社会生活や/家庭生活や/セルフ・ケアの面にも重大な支障が起きてくるのが、「AD型認知症」という病気なのです。脳の司令塔の「前頭葉」がちゃんと働かなくなった時点で、ほんの少し前に食事をしたばかりなのに、そのことさえ思い出せないような「重度の記憶障害」が出てくるようになるはるか前の段階で、「AD型認知症」はもう始まっているのです。
「AD型認知症」の発病/重症化が進行して行く原因を見つけるにも、「小ボケや中ボケ」の、本当の意味での早期の段階で発病を見つけて、治すにも/重症化の進行を抑制するにも、適切な介護をする為にも、更には、発病を予防する為にも、「脳の働きという物差し」が不可欠になるのです。
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