月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『京都利休伝説殺人事件』

2014-03-15 19:45:06 | キノコ本
『京都利休伝説殺人事件』  柏木圭一郎 著

≪「飛鳥英機さんの体内から検出された毒物なんですが、とっても珍しいものだったんです」
「珍しい毒物?」
美雪がコーヒーを淹れる手を止めた。
「カエンタケっていう毒キノコなんです」
「カエンタケ?」 ≫

週に一度の割合で謎に満ちた殺人事件が起こる、謀略と猜疑の渦巻く街・京都。

そこでふたたび殺人事件が起きた。被害者は茶の湯のグランプリの優勝候補。金と権力がちらつくきな臭い人間関係をバックに疑いが疑いを呼び、捜査は混迷を極める。ここで登場するのがフリーカメラマン・星井裕。彼は元妻の警察官・美雪と力を合わせ、持ち前の推理力を活かして事件の真相に迫る・・・!

出た!毒キノコ殺人事件!
もちろん前例がないではないが、こういう典型的な推理小説で毒キノコが出てくるのはかなり珍しい。で、なに?使ったのはカエンタケ?気付かれずに致死量食わせるのって難しくない?赤いよ?ダシ煮詰めるわけ?
あとなに?このダイイングメッセージみたいなのとか、こじつけっぽくて無理があると思うんだけど。それに二件目のトリックとかも。そもそもねー、美食カメラマンってなによー、コレあざと過ぎない?なんか「ドラマ化カモーン!」みたいで。だって、京都とグルメだよ、そんなの・・・グブッ、ウッ・・・  え?・・・何、コレ・・・なんか、ヘンな、ゴフッゴフッ!・・・・・毒?  ハァ、ハァ・・・ちょ、そんな・・・  カハッ、待っ・・・

グッ・・・  お・・・・・   ガクッ





【しばらくお待ち下さい】




……数ある推理小説でもめずらしい、毒キノコを用いた殺人事件モノ。本作では毒キノコの中でも今もっとも旬といえる、カエンタケが犯行に用いられている。カエンタケは近年発生が激増していて、触るだけでもかぶれる真っ赤な毒キノコとしてマスコミ露出度も高い。話題性はピカイチだ。

さてっと。問題はここからだな。

毒キノコ殺人事件というのが(現実にもフィクションにも)ありそうでないのには実は理由があって。思いつくものから挙げていくと

1・調理しなければならないため犯人が特定されやすい
2・人を殺す毒としては不確実
3・即効性がない

の、3つだ。1はなんとかクリアするにしても、犯人サイドとして2と3はかなり困る。実際に、猛毒キノコを食べても一命を取りとめる確率はけっこう高いし、死に至るとしても、すぐに亡くなるケースは珍しい。カエンタケの実際の死亡症例を見ても、中毒患者が亡くなったのは翌日か翌々日だ。この小説のように数時間で亡くなる確率は高くない。

これだけのデメリットがあるのにもかかわらず、それでも毒キノコで人を殺そうというのなら、それ相応の理由がないといかんわけなんだけど……これが難しいんだな。

結論を言ってしまえば、この小説も、毒キノコを殺人に用いた動機は、いまひとつ納得いかないものだった。多少入手に難があっても、確実に人を殺せる毒薬の方を選ぶだろ、ふつー。

ってことで!
ミステリー作家の皆さん!毒キノコ殺人事件として、バチっと整合性のあるヤツを今度こそ頼む!


ちなみにこの「京都利休伝説殺人事件」は「名探偵・星井裕の事件簿シリーズ」のうちの一作で、シリーズのうちの何作かはドラマ化もされている。京都とグルメが売りというあざとい小説だが、作中で登場する飲食店が、限りなく実名に近い形で登場してくるという、さらにあざとい作りとなっている。クソッ、祇園の鰻屋さんに行きたくなったぜ(゜¬゜)

そして、私が実際にお会いしたことのある菌類の先生まで限りなく実名に近い形で登場していた!まさかキノコフリークまで読者に取り込もうというのか!?

うーん、優雅な景観とはうらはらに、貪欲な本性が見え隠れする商業の街……まさしく京都のミステリーですな。