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私のきもの道 着付け教室編その6 おっちょこちょい発動

2006年10月28日 | キモノとわたくし

 それは8月下旬のこと。わたくしは着つけ教室でもたもたと二重太鼓の練習をしていたとき。

 「今年のきもの道コンテストに出てみたい方はいない?」先生が皆に呼びかけました。
 「振袖の部・留袖の部・カジュアルの部とあるの。みなさんはミセスだから振袖はなしね。留袖とカジュアル、ひとりずつ誰かいらっしゃらないかしら?」 みんな、なんとなーく先生の顔を見ないようにしています。出たくはありません~という空気が教室に漂いました。

  「コンテストではね、きもの道ランジェリー(仮称)か長襦袢で舞台に上がるんですよ。そしてお着物を羽織った姿から、合図でいっせいにお着物を着て帯を結ぶの。振袖で7分、留袖で5分、カジュアルで3分くらいね。でも、速さではなくて着姿の美しさを競うのよ。どうですか?上達するわよー」
  「全国優勝したら、きものクイーン(仮称)として海外旅行にいけるのよ。副賞で素敵な着物や帯ももらえるの。今回の地区予選でも、上位入賞したら着物か帯かあたるわ。いいわよー」
  「どうかしら~」
 先生が熱心に話すほど、教室の空気は「やだよー」という色に染まっていきます。

 「私は着付けの教師を30年やっていますけど、これまでは毎年生徒を出場させていたのよ。みんな入賞して、中にはクイーンになってフランスに行った子もいたわ。でも、今年は誰も出る子がいないの。皆さんの中で誰か、出てくれないかしら?」
 お勧めモードから懇願モードに先生の声色が変わります。教室の空気はますます重く。でも、わたくしはのんびり帯締めを結んでおりました。だって、習い始めてたった4ヶ月。教室の半数は1年以上、なかには3年ほども通っている人もいるのですから、出るとしたらそっちの方でしょう。先輩は袋帯も名古屋帯もちゃんと結べてるもの。私はどっちもあやしいもの。

 「誰か出てくれないと困るのよねぇ。背の高い方は舞台映えするから特にいいのよ‥あなた、カジュアルの部に出てくれない?」
 指名されたのは、教室でいちばん若い20代の若妻ちゃん。困惑した顔をしつつも引き受けました。まぁ彼女は1年以上通っているし、『きもの道学院(仮称)』が催したきものショーにもキモノモデルで出たそうだし、適役でしょう。

 留袖の部は誰かいな~とお向かいの先輩たちを眺めていると、先生はくるりとこっちに向き直りました。
 「そして留袖の部はあなた!葉さん、出てくれないかしら?」 
 先生の視線はまっすぐこちらを見ています。えーーーーっ。まぢかよ。

  「そ、そんな無茶な。私まだ袋帯、まともに結べません。着物も‥5分なんてとてもとても‥」
 「コンテストまであと3ヶ月あるわ。5分って言ったら短いように思うでしょうけど、無駄な動きをせず、流れるように着ればいいだけよ。その美しい動作も審査対象になりますからね。練習したらできるようになるわよ」
 「む、無理ですぅ~~それに私、黒留袖持ってませんし‥」
 「大丈夫!私が貸してあげるから!出てくださいな!!」
 「で、でもやっぱりできるような気が全然しません‥」

 この段階で私、着物を着て帯を締めるのにたっぷり30分はかかっていました。5分で着るなんて、別世界の話です。練習すればフルマラソン走れるようになるからオリンピックに出なさいと言われているようなものです。無理だワニの腕立て~。

 でも先生は自信たっぷりなのです。
 「大丈夫!あなたとても熱心ですもの。大丈夫よ。着つけ教師30年の誇りにかけて、絶対あなたを仕上げて見せるわ!ここで特別にいろいろ教えてさしあげるわよ。決して恥はかかせない!絶対大丈夫!!」

 私の『熱心』はキモノ着て遊びたいがためであって、コンテストに出る類の『熱心』とは種類が違うと思うのですが‥しかし、先生があまりにも自信たっぷり言うので、なんだか興味が沸いてきてしまいました。

 ほんとうに、そんなすごいことが自分にできるようになったとしたら、こいつぁすごいぞ。「特別にいろいろ」習うのも面白いかもしれない(それにお得だ)。失敗したとて失うものは何もないし、もしもできたなら儲けもんだ。得がたい経験だ。‥やってみちゃおうかな?
 ‥おっちょこちょいが発動されたようです。

 「わかりました‥やってみます‥」
 「まぁ!ありがとう~。がんばりましょうねっ!!あなたたち!!」 

 先生は目を輝かせています。あ~あ、喜ばせちゃったよ。
 わたくしは「ほんとうにできるのか?」という不安と「これから何が起こるんだろう?」という好奇心が半々の気持ちでした。
 そして、(5分で留袖着られるようになったら宴会芸になるな。「一番、葉、留袖着まーす!」なんちて)などと能天気な想像をしておりました。