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札幌在住の作家・原田康子さんが亡くなって、この20日で一年になる。
処女作『挽歌』が発売と同時にベストセラーになり、北海道観光ブームが
沸き起こったのは1956年だった。昭和31年、もはや戦後では無いと言われ
大宅壮一の「一億総白痴化」や、石原慎太郎の「太陽族」が話題になった。
そんな世相を映して、戦後を引きずる建築家・桂木と、ヒロイン怜子の恋物語
『挽歌』は道東の街・釧路を舞台に、何処か退廃的な香りのする小説であった。
間もなく映画化され、怜子には久我美子が扮してエキセントリックな若い女性の
憧れや不安定な心理をうまく醸していた。
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無名の女性作家が書いた小説と映画がヒットし、社会現象とされたのは丁度
その頃フランスでフランソワーズ・サガンがブームになったのと、共通していた。
それまでの社会通念や価値観を覆し、新しい女性の生き方が模索されたのだろう。
そんな原田康子さんが長い間暮らしておられた住いは、私の家の極く近くであった。
勿論お話しする機会は無かったが、何となく気にはなっていた。
昨年の逝去後も、時々近くを通りかかった折には門前で黙祷していたのだが、つい
数日前、若い男性が工事をしており旧居が跡形も無くなっていることに気付いた。
男性に尋ねると、先週から解体工事が始まり今は土台だけが残っていると言う。
お願いして敷地内を見せて貰ったが、門扉と玄関階段そしてコンクリート土台だけが
無惨な姿を晒していた。親切な男性が話すには、まだまだしっかりした家屋で内部も
綺麗だった、壊すには惜しい建物だったとのこと。
ふと初期の短編小説『廃園』を思い出した。遥か昔に読んだ本なので小説の内容は
覚えてないが、住む人を失った原田邸は文字通り廃園となって秋風の中、頼りなげに
白い花が揺れていた。
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