新しいことを始めるには何らかの切っ掛けがある。刺激だったり憧れだったり感動だったり…
私が「介護」を志した切っ掛けは、有吉佐和子の小説『恍惚の人』に感銘を受けて…だった。
道内地方都市の図書館にパート勤務していたが、書棚の近刊書『恍惚の人』が目に留まった。
恍惚の人…ん、まだ認知症も痴呆老人も大きな話題になっていなかったが、恍惚という言葉と
妙に目を惹く赤い表紙に関心を持ち、読み始めた。うわぁ~へぇ~、年老いて次第に壊れて
いく姿に恐怖を覚えた。その年のベストセラーになり映画化もされて、俄かに「高齢化社会」とか
「ボケ老人」という言葉がクローズアップされた。映画では森繁久弥の真に迫った演技が話題に
なっていたが、老親の世話は家族で看るのが当然という考え方に不合理を感じてもいた。
結婚して二人の子供を持ち転勤族だった私も、子育てを終えたら長く働ける職業に就きたいと
考えていたので、将来「老人介護」は有望な職業になるのでは…と思いついたのだった。
あれから40年、初志貫徹して高齢者介護に関わり、現在も後継者養成に携わっていられるのも
あの頃、『恍惚の人』との出会いがあったればこそ。
著者の有吉佐和子さんは、1984年8月30日に53歳で逝去された。もし健在ならば83歳、どんな
読み物を著わしていただろうか。歴史・古典物から社会問題まで幅広いテーマで、多くの有吉
ファンを魅了し続けていたのでは…、改めて若過ぎる死を惜しむ8月30日だった。