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『ベニスに死す』 美の化身タッジオに魅せられて

2011年06月23日 | 日記
          
 久しぶりに映画『ベニスに死す』を観た。1971年にR・ヴィスコンティ監督が
製作した作品で、原作はドイツの文豪トーマス・マン。
老境に差し掛かった高名な音楽家が、静養のため訪れたベニスで美少年に
魅せられ、蔓延していたコレラに罹患して命を落とすストーリーだが、如何にも
頽廃美の具現者ヴィスコンティ監督らしい、妖しい美しさに彩られている。
 以前テレビ放映された際に一度観ていたが、いま再び観てみると、受ける
印象がかなり違うことに気づく。美少年タッジオに魅惑される主人公の心境が
痛い程よく分かる。それって…もしかして…やっぱり…
          
 とにかくタッジオが美しい。永遠の…、究極の…、比類なき…、美の化身。
ドイツの名高い音楽家にストーカー紛いの行動を取らせる、神秘的な魅力を
放つ美少年。T・マンの原作によれば、タッジオは、“金髪で、整った蒼白い顔、
端正な鼻、優しい口元、彼の顔は高貴な時代のギリシャ彫刻を想起させた。
その優美さは魅力に溢れ、自然にも造形美術にも存在しない完璧さ。
上体の姿勢、白い靴の運び、それは優美そのもので、軽やかに自信に満ち、
優しさに溢れていた。子供らしいはにかみ、エロス像のような愛くるしい首、
思索的な眉、こめかみと耳には直角に垂れた巻き毛が覆っていた”…と。
         
 ヴィスコンティ監督は、タッジオを探してヨーロッパ数カ国を旅し、遂に
スウェーデンでイメージ通りの少年を見つけた。
当時15歳だった、ビョルン・アンドレセン。原作では12歳だったタッジオを
15歳に変更してでも、監督はこのビョルン少年に固執したのだろう。
確かに完璧な美少年、映画とは別に『タッジオを探して』という、30分の
ドキュメンタリーフィルムが残っているらしい。
何故かヴィスコンティ監督が、音楽家アッシェンバッハに重なって見える。 
          
 この15歳の少年とは思えない妖艶な頽廃美は、ヴィスコンティが作り上げた
マジック…。初老の主人公アッシェンバッハが、虜になるのもよく分かる。 
原作から引用すると、“少年タッジオはアッシェンバッハの前に現れ、彼を死を
もって完結する人生の昇華へと導く”とあり、“生の象徴であり、頽廃的な美の
象徴でもある”と、記されている。
 製作後にヴィスコンティ監督は、この映画を「真実と想像の平衡を保ちつつ、
リアルでありながら同時に幻想的に描いた、美しい悲劇の物語」と述懐したそう。
愛する少年の姿を遠く眼で追いながら息絶えた主人公の、『究極の美』への甘く
激しく切ない妄執…化粧が剥げ落ちたグロテスクな顔に浮かぶ、悦びと苦悶。
 全編に流れるマーラー作曲のアダージェットと共に、海辺でのラストシーンが、
深く印象に残る『ベニスに死す」。映画好きkimitsukuの、お勧め作品です。

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