
札幌の街に例年より6日早く、天からの白い手紙が届いた。
この時期になると、物理学者であり随筆家だった北大教授、
中谷宇吉郎氏の『雪は天からの手紙』という言葉を思い出す。
地上の土壌や海水・河川の汚染にも関わらず、天上から届く
手紙は、いつも純白で清々しい。天を仰いで感謝したくなる。
降っては消えてゆく初雪を見ていると、井上靖『しろばんば』を
思い出した。しろばんばとは、雪虫のこと。

札幌でもこのところ雪虫の飛来が多かった。風のない夕方などに
払っても払っても小さな白いものが、頭に洋服にまとわり付いてきた。
矢張り雪虫は冬の使者だったらしい。雪虫はアブラムシ科の一種で
白腺物質を分泌する種。正確には、トドノネオオワタムシとか、舌を
噛みそうな立派な学名がある。
しかし北国では専ら雪虫とか、ユキンコと親しまれ、井上靖が育った
伊豆では、しろばんばと呼んでいたらしい。
少年期の叙情豊かな自伝小説『しろばんば』そして『あすなろ物語』。
あの清冽で簡潔な文章は、この時期にこそ相応しいのかも知れない。