ごっとさんのブログ

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書評 「勁草」

2015-08-28 10:32:56 | 文化
オレオレ詐欺は今では名前が変わっているようですが、相変わらず多くの被害者が出て、数百億にも達しているようです。息子と称する電話だけで、数百万もの金額をなぜ出す気になってしまうのか、いとも簡単に騙されてしまうのか不思議でしたが、これだけ騒がれていてもあまり被害者は減っていないようです。

私には全く関係がないと思っていなしたが、奇妙なところで影響を受けていました。先日100万を少し超える額の振り込みの必要が出てきました。私はネットバンキングですので、振り込み手続きをしようとしたら、たぶんこの詐欺事件のためか一日の振込限度額が50万に引き下げられていたのです。1回ではなく1日ですので、この振込のために3日もかかってしまいました。

さて「勁草」はこのオレオレ詐欺の物語です。(黒川博行著 徳間書店)主人公の橋岡は、詐欺グループの中で「受け子」と呼ばれる、現金の受け取り役の差配をしています。通常はボスの経営する安い賃貸アパートの管理人をしており、ここにいろいろな年代層の生活保護受給者を住まわせ、場合に応じて彼らを受け子として使っています。彼のボスは「名簿屋」という役割を担っており、橋岡も相棒である矢代と共に、オレオレ詐欺の被害者になりそうな人たちの名簿作りをやっています。

ある時は証券会社の社員を装い、新しい投資の説明と称して上がり込み、色々な情報を入手します。またある時は介護施設入居コンサルタントという肩書で、「有料施設を紹介する」と誘いかけ、家族構成から息子の勤務先や携帯番号、資産状況まで洗いざらい聞き出してしまいます。こういったターゲットの情報をまとめ、詐欺グループに提供しているわけです。

これに対抗するのが大阪府警特殊詐欺捜査班の佐竹と湯川の二人の刑事です。物語は詐欺グループと警察の動きが交互に描かれており、興味を持って読み進めることができました。矢代の博打の借金から思わぬ方向へと展開していきますが、もっとオレオレ詐欺の手の内を明かしてほしい気もしました。それでも綿密な取材と丹念な描写で、非常に高いリアリティーを持った小説になっています。犯罪や捜査の内容だけではなく、登場人物の服装や生活背景がさりげなく書かれており、犯罪に至る心理描写なども優れています。

今話題のオレオレ詐欺グループは、非常に厳密な役割分担の下、あくまでビジネスとして冷酷に犯罪を実行していく様子が描かれていますが、たぶん現実の詐欺グループも同じようなのかもしれません。

久しぶりに書評を書いてみましたが、どうもこれをみて、本を本を読んでみようという気を起こさせるようには書けていません。