一身二生 「65年の人生と、これからの20年の人生をべつの形で生きてみたい。」

「一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し」

知里幸恵

2014年08月26日 | 神話

「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」―詩才を惜しまれながらわずか19歳で世を去った知里幸恵。このアイヌの一少女が、アイヌ民族のあいだで口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、ローマ字で音を起し、それに平易で洗練された日本語訳を付して編んだのが本書である。

知里幸恵知里真志保物語は、私が北海道にいたこどもの頃、聞かされていた。

19歳というあまりにも若くして命を落とした知里幸恵の悲劇性と、知里幸恵の民族の誇りを胸にアイヌ差別への静かな告発は、昭和30年代、北海道で子供であった私の胸にも静かに沈殿していた。

不思議なものだ。

昨今、専門外のいわば趣味として、人類の未来を考えたいという思いは人類の過去を知りたいという思いへとつながり、それを身近な日本人起源論を通して見てみたいと広がった。

原日本人論と北海道アイヌ人とは深く関わっている。そこで今一度、かつての記憶を呼び戻したいと本書を手にした。

見事に、描き出されているアイヌ人の自然観。動物たちに神々のこころと人間のこころを映し出し、自然界の理解とモラルを同時に謡い上げる。

弟である知里真志保あとがきによると、ユーカリには動物植物を神々に見立てたもの、人間の始まりを謡い上げたもの、英雄を謡い上げたものなどがあるという。

そしてそれはあたかも、アイヌ社会の発展を示す時系列であるかのようである、という。

すなわち、そこに「私たちはなにもの?どこからきてどこへいくの?」という問いに対する回答が埋め込まれているのである。

これはおそらく、全ての人類に共通したものである。文字を持たない時代、リズムに載せて謡う事で記憶を最大化し、情報を最大化する。そして人の知恵を蓄積する。

人類が生まれたはるか昔から、このように知恵を受け継いだに違いないと思う。英雄伝説には、大陸からの渡来人と闘ったことの伝承も見られるという。

弁髪をした人であったから、それは和人ではなく中国から渡って来た人だったのではないか。

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短いものから何日もかけて語られる長いものまである。アイヌは文字を持たないため、口承で伝えられてきた。

日本における近代アイヌ研究の創始者とも言える金田一京助の分類によると、ユーカラは、「人間のユーカラ」(英雄叙事詩)と「カムイユーカラ」(神謡)の二種類に分けられる。 人間(=アイヌ)を中心として語られるユーカラは、主にポンヤウンペと呼ばれる少年が活躍する冒険譚である。

「カムイユーカラ」はカムイが一人称で語る形式をとっており、サケヘと呼ばれる繰り返し語が特徴で、アイヌの世界観を反映した、神々の世界の物語である。中には、神・自然と人間の関係についての教えが含まれている。

散文の物語はアイヌ語ではウエペケレという。

アイヌの人々が、文字を持たないアイヌ語によって、自然の神々の神話や英雄の伝説を、口伝えの言葉による豊かな表現で、語り伝えてきた。しかし、アイヌ語・アイヌ文化の衰退とともに、ユーカラをはじめとする口承文学の語り手も次第に少なくなっていった。しかし、アイヌ語・アイヌ文化の復興運動の中で、口承文芸を練習・習得した、新しい語り手も育ってきている。