稽古なる人生

人生は稽古、そのひとり言的な空間

「なで斬り剣法」か「薪割り剣法」か

2020年08月10日 | 剣道・剣術


20年以上前、まだインターネットが無かった頃の話である。
ニフティサーブという電話回線とモデムを使ったテキスト表示だけのパソコン通信で、
確か「剣術フォーラム」だったと思うが、そこで剣風の話になり、そこそこの激論になった事がある。

相手が、あまりに「刃筋が大事、刃筋がいい加減な剣術は駄目だ」というので、
「戦いの場において絶えず動き回る相手に刃筋正しくを追及しても意味は無いのではないか?」
「多少、刃筋がブレていようとも、相手を叩きつけるほうが有効では無いのか?」と発言したら、
「斬れなければ意味はありません」「あなたの剣風はよくわかりました」
「わたしは刃筋を追及した稽古をしますのでこれ以上の議論は無用です」と一方的に話を打ち切られた。

実は、体術巧みに相手の動きの隙を狙って刃筋正しく相手の急所に斬りつける術も、
甲冑に守られた完全防備の相手を甲冑もろとも叩き割る、斬れなくとも撲殺するような術も両方大事なのである。

車に例えて言えば、スポーツカーとラリーカーのように状況が変われば優位性も異なるし、使い道も違うということだ。
もっと極端に言えば「レースカーとトラクターはどちらが強いんですか?」みたいな問答である。
噛み合うわけは無いのだ。

素面素篭手なら「なで斬り剣法」でも有効だが、相手が鎧兜で身を守っていた場合は「薪割り剣法」も必要になってくる。
「いや、鎧兜で守っていても、鎧兜には隙があり、わが流派はそこを狙うのです」みたいな究極論を言っているのではなく、
刃筋うんぬんよりも、相手より早く打撃(斬れないので叩きつける)するほうが実戦的で効果的ではないか?ということだ。
(突き刺した方が効果的・・・というのは別の理論になる)

斬るというのは本当に難しい。

若い頃、巻き藁や畳表を随分切ったことがある。
太さは10センチ~20センチで前の日から水に漬けておいたものである。
巻き藁を切るには手の内と刃筋が重要で、この2つが出来ていれば驚くほど簡単に巻き藁は切れる。
力もスピードも必要無いし、切っ先でもモノ打ちでも鍔元でも切れる。
「鍔元では切れない」なんてことはまったくない無い。
個人的には物打ちより手前、刀身で言えば切っ先から3分の1ぐらいが切り易かったと記憶している。
打ちおろすスピードと力の加減が自分的には一番バランスが良かったのだ。
だから「切っ先三寸が一番斬れる」という一般的な定説にも疑問を持ったままである。
というか、実戦的には「どの部分で斬るべきか?」なんてことを考えている余裕は無いから無意味なのだ。

青竹に藁を巻き付けて「青竹入り巻き藁」を作って切ったが、これもまあ楽に切れた。
しかし青竹を乾燥した竹に変えると難しくなる。
手の内と刃筋+ある程度の力が必要になるのだが、バランスが狂うと刃筋が狂うのか切れなくなる。
乾燥した竹に刃が当たる瞬間、刃筋が狂っていると竹の表面に弾かれ刃筋がブレるのだ。

さらに。この乾燥竹入り巻き藁に古い剣道着を巻き付けたら途端に斬れなくなる。
これだけは私の腕ではどうしても両断することが出来なかった。
だから「斬る技術も大事だが、相手より速く強く打つ技術も大事」と思ったのだ。
そして、打つにはモノ打ち(切っ先三寸)が一番有効だろうな・・・とも思っている。

当時は古流だけをやっている者と、剣道だけをやっている者との意見の相違が目立った。
今回のテーマと少し似ている相違だが古流と剣道は目的が異なるのだ。
「武道としての剣道の目的」は、また別の機会にここで述べたいと思っている。
コメント
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