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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画『ワイルドギース』

2020年05月24日 | open
 

『ワイルド・ギース』(1978年/英)

ブルーレイ収録の日本語版バージョン
では、声優がとても良い演技をしている。
本作は、原作が最高だったのに映画化で
残念作品になった『戦争の犬たち』より
もずっと出来が良い。というか快作だ。
作中シチュエーションは結構リアルな描写
があるが、アドバイザーとして1960年代
〜80年代の伝説の傭兵マイク・ホアー氏
が製作に参加しているからだろう。
ホアー氏は、コンゴ動乱の時に、傭兵部隊
ワイルド・ギース=第5コマンドの隊長と
して従軍した。階級は中佐、のち大佐。
映画『ワイルド・ギース』では、隊長の
アレン・フォークナー(リチャード・バート
ン)の役はホアー氏をモデルとしている。
 
作品の中で、私が強く感じ入ることがあっ
たのは、傭兵による黒人民主主義者のリー
ダー救出作戦の依頼者と会った時のアレン
の表情だ。
別れ際、英国経済界を牛耳るマターソン卿
が「会うことはこの先ない」とアレンに言
う。
その時の振り向いたアレンが見せる表現が
これだ。

これはいかなる事態が起きようとも、全て
を呑み込む傭兵の顔であり、人殺しの顔
ある。
そして、実物のマイク・ホアー氏に似て
いる。
リチャード・バートンの演技力に感服す
る。
 
映画『ワイルド・ギース』は、オープニン
グの歌の歌詞とその時のバック映像にこそ
この映画のテーマがある。
アフリカ諸国の独裁者の圧政に苦しむ人た
ちに対して「もっと何か、何か私たちは
できないの
か」と曲の歌詞は見る者に問い
かける。
What more
What more
Can we do?
と。

The Wild Geese (1978) Opening Titles


東西冷戦の最中にあっては、西側諸国の
民主主義のみを「正義」とすることはでき
ないだろう。西側諸国の民主主義は、大戦
中は反ファシズム連合の政治体制だが、
それとて、帝国主義の成れの果て、世界
各地に植民地を作り、アフリカから人間を
奴隷として誘拐してきた白人の正義の延長
だ。
かといって、東側であった「社会主義(エ
セ)国家群」などはまかり間違っても「正
義」などではない。
社会主義や共産主義とは無縁のナチス以上
の独裁絶対主義の全体主義に爆進していた
のがソ連と中国とそれらの連盟衛生国家群
だった。そこでは一切の人権も主権在民も
なく、国民の大量虐殺が行なわれるのが
常態化していた。
 
西側世界の正義を正義とは呼べないまで
も、第三世界の圧政と暴虐に苦しむ人たち
を何とかしたいと思う人間たちも西側には
いた。
本作では傭兵部隊がそれにあたる。
だが、英国貴族の権力者の依頼者は、元々
が銅鉱脈の採掘権奪取のためにアフリカの
某国の政権転覆を画策していたのだった。
その某国はキューバの軍事顧問が駐留する
国だった。
だが、その国の利権をめぐる複雑な関係の
関与者とマターソン卿は裏取引をして、
傭兵部隊を置き去りにして見殺しにしよう
とするのである。
某国の民主主義リーダーを某国独裁者の手
から奪えば交渉を有利に進められて天文学
的な莫大な利益を得ることが出来るため、
マターソン卿が最初から仕組んだ狂言が
傭兵部隊による民主主義政権リーダーの
救出劇だったのだ。
(その黒人俳優は『戦争の犬たち』でも
同様のリーダー政治家役として出演して
いる)
 
部隊全員が無傷のまま、敵の兵舎から
黒人リーダーのリンバニを救出したワイ
ルド・ギースは、迎えに来た航空機が
滑走路に着陸した時点で搭乗拒否の命令
がマターソン卿から出され、その場に50
名は取り残されてしまう。
マターソンのバックには「ある国」の
「全権代理」の者がいた。たぶん英国か
米国あたり。その者の裏にはそれらの国家
があった。官民軍事癒着体制を支配してい
「民主主義」国家が。
果たして、ワイルド・ギースの傭兵たちは
砂糖に群がる蟻のような敵の大群が迫る
中、イギリスに帰国できるのか。
 
名作と呼んでよいほどの快作だ。
私は何度観たか分からない。
実在のマイク・ホアー氏は、2020年2月2日
に満100歳で死亡した。
ハイジャック罪により英国公認会計士の
資格は剥奪されたままだった。
作家であり、ジャーナリストであった彼の
娘は、航空機事故で数年前に死亡してい
る。
 
マイク・ホアー氏。
 
第5コマンド=ワイルド・ギースの部隊章。

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