渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

美濃関鍛冶の祖 元重

2020年06月03日 | open




関鍛冶の祖である元重の太刀が発見された
という2016年のニュースにはぶったまげ
た。
映画満月 MR.MOONLIGHT』では、江戸
時代からタイムスリップした小弥太(時任
三郎)の刀が「名刀発見!」として大ニュ
ースとなり、博物館に展示されるシーンが
あった。
江戸初期の新刀はいくらでもあるので、
さして珍しくもなく、また、刀剣界では
古刀(慶長以前の日本刀)と新刀では雲泥
の差がある扱いのため、江戸期新刀が
発見されて大騒ぎというのは、ああ刀の
ことを知らない人が作った映画なのだな
あ、という気がした。
実際のところ、「今でも刀鍛冶なんている
のですか?」と質問する人は案外多い。
文化庁に承認を得た現代刀工は300名いる
のに。

映画の設定は荒唐無稽だったが、この
元重作の発見ニュースには私はぶっ飛ん
だ。本物?と。
それほど、「幻の刀工」であったし、
現代まで続く岐阜県関を刃物の町とした
元祖大元の大始祖だからだ。
九州からやって来たとの伝承譚がある。
これは、安芸国の隠れた室町期の名工大山
宗重にも似たような始祖伝説がある。
九州から東に上り、そして、備前鍛冶に
相手にされず落胆して国元に帰る途中、
安芸国大山の山中にて行き倒れになった。
その時、手厚く看護した地元の人たちの
温情に感激して大山宗重鍛冶の始祖は
安芸国大山に住み着いて代々それが続いた
とするものだ。九州の名工である大左の
脈流をその始祖としている。

この手の始祖伝説は証明する文献史料は
乏しいことが多い。
武家における貴種降誕伝承もその類で、
はなはだ眉唾物の創作が多い。
しかし、創作付会と一蹴する根拠もこれ
また無い。
こうなると悪魔の証明となり、言ったもん
勝ちになってしまう。天下の将軍家の徳川
家でさえ、始祖を藤原としていたところ、
途中から源に変えてしまっている。
こうした例は往々にしてある。
薩摩の島津家などは、始祖を秦の始皇帝と
している。

この元重の刀剣の発見は、文献の中と伝承
にのみ見られた元重の存在を証明するもの
として、この作が正真であるならば、その
歴史的価値は計り知れない。
日本史の一頁を書き換える程の発見なの
だ。

こうした刀剣を実見できるということは、
至極の幸せといえる。
素晴らしい。


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