


1983年、ボブ・ランデ作。
日本国内でも、ネットで探す世界
中の情報でも、これと同じ作を見
たことがない。
カスタムキューという呼称が無か
った時代の所謂カスタムキュー。
チューリップウッドをハギとスリ
ーブに惜しみなく使い、真っ黒な
黒檀の窓の中に本象牙のダイヤの
インレイをあしらう。
チューリップウッドはハカランダ
=ブラジリアン・ローズウッドよ
りも貴重で、フランス王朝のチュ
ーリップウッドの家具数点を現在
製作したら数億円かかると言われ
ている。
もしかすると、歴史上、木材の中
で一番高価だったかも知れない。
現在、ワシントン条約により、輸
出入禁止。
ランデはドイツ系アメリカ人の家
具職人だったがプールキュー作り
に転じた。
そして、ランデが立ち上げたメー
カーのブランド名をショーンとし
た。ドイツ語で「美しいもの」と
いう意味だ。
この私のランデキューはショーン
となって最初のRシリーズで、R
ナンバーは21。パンタグラフ導入
の初期作品であり、細部までまる
で高級家具のような緻密で精巧な
造りだ。
撞き味はカスタムキューそのもの
で、玉離れが速く、シャフトで
ギュンと手玉を持って行く感じの
キュー。バットは硬く、打感はと
てもソリッドなのだがスティッフ
ではなく、適度な柔らかさ、しな
やかさを持っている。
非常に撞き味が心地良いキューで、
こうした味のキューはあまり出会
わない。
80年代からずっと私の主たる差料
だった。文字通りの相棒。19.4
オンス。
古くから私を知る人は、私の印象
はTADではなくこのショーンなの
だそうだ。大きな大会で勝ち進ん
だのも、各地で涙の大敗を喫した
のもこのボブ・ランデだった。
また、玉屋で抱き抱えるようにし
て眠ったのもこのキューだった。
涙と笑いと深い季節をこのボブ
キューと共に刻んだ。
この一刀、切れ味は殊の外良い。
音は澄んだ高音。
まるで、ゴスペルのように澄んだ
清い響きを私に届けてくれる。
物を造る事は、物を造るだけの事
ではない、という大切な事を気づ
かせてくれる作品。
「良いもの」とはこうしたものの
事だろうと教えてくれる。人にと
って大切な事を。
このキューは、単なる物体を超え
ている。この作は生きている。
そして、静かに、私に語りかける。
その清冽なサウンドで福音へと誘
う。
このランデで撞く時、私の心は乱
暴にはならない。
人をして静寂なる事を学びせしむ
る。
このキューは、存在が清らかに澄
んでいる。