1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「静かな爆弾」(吉田修一)

2008-04-28 20:34:21 | 
「静かな爆弾」(吉田修一)。昨日の夜、一気に読みました。「静かな爆弾」とは、何のことなのか、読み終わってからずっと考えています。映像ディレクターの男性と、耳の不自由な女性との愛の物語です。
 「音のある世界」と「音のない世界」、まったく異なる世界に住む二人は、筆談でコミュニケーションを図ります。自分の思いを、できるだけ「簡潔な言葉」で表現することで、愛を深めていこうとするのです。しかし、なかなかわかりあえないのです。「自分を含め、僕の周りの人間は、響子の耳が不自由なことを気にしない」という男性の言葉に、女性は次のように応えます。「『あなたは耳がきこえるけど、それは気にしない』って言われたことある?」
 男性は、タリバンによるバーミヤン遺跡の爆破のドキュメンタリー番組を作るのに必死になります。忙しさの中で、「簡潔な言葉」で自分の思いを伝える行為を放棄したとき、女性を姿を消してしまうのです。その時男性は、彼女の住所さえも知らなかったことに、初めて気づくのです。「大変なんだろうなとは思っていた。ただ、思うだけで、その大変さを想像しなかった。苦しいだろうなとは思っていた。ただ、思うだけで、その苦しみを想像しなかった。」
 私たちは、ほんとうにわかりあえるのだろうかと思うのです。ちがった環境で生きてきた他者に、私たちの気持ちを、ほんとうに伝えることができるのかと思うのです。そして、他者の思いを、ほんとうに知ることができるのかと思うのです。コミュニケーションの不確かさと、わかりあうことの難しさ。
 「静かな爆弾」とは、人と人との関係を、ある日、突然破壊してしまう「伝えること、知ることのむつかしさ」であると、思うのです。この本を読んだ後、バーミヤンの遺跡が崩れ落ちていったように、崩れて落ちていく二人の関係が、僕には、見えたように思いました。


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