1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「流線形シンドローム」(原克)

2008-04-11 00:00:33 | 
 「流線形シンドローム」(原克)を読みました。とても刺激的な本です。おもしろかったです。「流線形」とは、空気抵抗を考慮に入れ、空気力学的な障害因子を制御したり排除したりすることによって、スピードをあげたり燃費をよくするという意味の物理学用語でした。筆者は、1900年初頭から40年ぐらいまでのアメリカ・ドイツ・日本の膨大な量のポピュラー系科学雑誌を渉猟することによって、「流線形」の意味の変化を追跡していきます。
 「システムを流線形化する」「組織を流線形化する」「肉体を流線形化する」「心の流線化」などなど。これらは、アメリカで実際に使われた語法ですが、「空気力学的な障害因子」の排除が、「障害因子一般」の排除へ、そして「ムダなもの全般」の排除へと読みかえられていくのです。組織の流線化とは、いわゆるリストラのことだし、肉体の流線化とは、ダイエットによって贅肉を除去することなのです。
 「流線形」という言葉は、アメリカでは優生学を介して白人を理想とする「理想の体型」神話やダイエット神話を生み、黒人や移民労働者や障害者を排除する思想へとつながっていきます。筆者は、そのような排除を生み出す社会の病理を、「流線形シンドローム」と呼びます。同じ時期にドイツでは、「流線形」は、ナチスの排外的国家主義の思想的枠組みに回収され、「生きるに値しない生命」として、ユダヤ人や精神障害者や労働忌避者や共産党員が排除されていきました。そして日本では、「流線形」は、中国大陸への侵略の「スピード化」と「効率化」へと結びついていくのです。
 言葉の恐ろしさをあらためて実感させられる本でした。「流線形」は、第二次世界大戦前の流行語だけれど、私たちが、今、気づかず使っている言葉で、弱者を排除する言葉があるのではないだろうか?読み終わって、そのことがとても気にかかる一冊でした。