1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「土曜日」(イアン・マキューアン)

2008-04-04 23:35:24 | 
 「土曜日」(イアン・マキューアン)を読みました。50歳手前の脳神経外科医の、ある日の土曜日を描いた物語です。トランジションのまっただ中にある主人公の不安と不確かさが、とてもよくわかるのです。同年代の人間として。
 友人とスカッシュをしたときに感じた体力の衰え。認知症の母をホームに訪問したときに感じる、母へのうしろめたさと死の予感。主人公は、次のようにつぶやくのです。「ある年齢に達し、残された年月が限りあるように思えてきたり今後の見通しに寒気を覚えたりするようになると、人は死に瀕している人間をより身近に感じ、兄弟に対するよな興味を覚えるようになるのだ」
 夜明け方、ヒースロー空港に向けて火をふいて落ちていく飛行機を見たときに感じる、世界の不確かさ。そして主人公は、久しぶりに家に帰ってきた娘が妊娠していると知ったとき、子ども達は、もう家族の一員ではないと実感するのです。
 主人公は、最後に次のようにつぶやきます。「ロザリンド(妻)にぴったり寄り添う。シルクのパジャマ、彼女の匂い、温かさ、愛する姿態。さらに身を合わせる。闇の中、うなじにキスをする。いつでもこれがある、というのが、最後に残った思いのひとつだ。それから、これしかないのだ、と考える。」
 この実感も、僕には、とてもよくわかるのです。身を寄せあう温かさだけが、残された確かなものだと思うのです、僕も。