三日間滞在した花巻の大沢温泉をあとにする朝、この温泉を宮沢賢治の家族が、父が信仰していた浄土真宗の仏教講習会に参加していて、そのご一行の記念集合写真が宿に飾られているのを目にした。
不思議な解説が記されていた。写真下に明治39年とあるのに、解説文では、「明治41年、42年賢治小学5年生のもの」と異なっていた。明治39年は、賢治10歳、明治42年は13歳ですでに盛岡中学に入学していたので、写真のあどけない容姿から言って、明治39年が正しいのだろう。宿の主人に確認すればよかった。
前列4人目の男子の後方で白い帽子をかぶるのが賢治である。
当時のものではないのかもしれないが、賢治が立った橋から、3日間温めてくれた露天のある宿と傍を流れる豊沢川を撮影した。
すこし、熱めのアルカリ性単純泉、雪見の露天には熱いのがよかった。
帳場の隣に、同じ明治39年の集合写真がもう一枚かざられていた。豊沢川の川岸で撮影したと思われる。
その写真には、賢治のほか、妹のトシさん、父親の政次郎さんも写っていた。
賢治は、前列左から3人目と4人目の間にすっくと立っている。大人を挟んだ賢治の後方に妹トシさんが白いおべべを着ている。その向かって右隣の隣に会の学僧暁烏敏さん、その隣がお父さん。賢治の姿ががなんとも力強い。まっすぐ正面を見ている。
この日、宿を出て花巻駅から50k東の遠野駅へ。ふるさと村で開催される「第20回どべっこ祭り」(どぶろく飲み放題の祭り)に参加するため。
開会時間に間があったので、ふるさと村を散策した。7,8年ぶり3度目となるが、いつ歩いても静かで、広大な郷愁誘うエリア。薄く張った氷の池の不思議な木立に囚われて写真を撮った。捻じれた大きな黒い鞘が枝に並んでいた。なにやら童話の世界に飛び込んだような感覚に囚われた。樹の幹には鋭い棘もあるし、「何なんだろう、あとで帰って調べよう」
楽譜の上を音符が並んだような
何かのまじないのような・・・・不思議な鞘
家に帰って、図鑑で調べると・・・・・何と賢治の童話「サイカチ渕」や「風の又三郎」に登場するマメ科サイカチ属のサイカチであることが分かった。
童話の「サイカチ渕」について調べると、その童話で川遊びの舞台となった川が、あの大沢温泉を流れる豊沢川であることも分かった。
大沢温泉・賢治・豊沢川・さいかちの木、意図したものではなかったのに、なにかしら不思議な縁の世界を旅している。