普通な生活 普通な人々

日々の何気ない出来事や、何気ない出会いなどを書いていきます。時には昔の原稿を掲載するなど、自分の宣伝もさせてもらいます。

感電ねずみの話

2013-04-23 22:36:42 | 普通な人々<的>な
むかし昔ある村に、ねずみの親子が住んでいた。

なに不自由なく、それはそれは幸せだった。

その村は、なかなかに豊かな村で、たくさんの村人が皆で助け合いながら、暮らしていた。

村人は犬や猫といった家畜だけでなく、熊や鹿、猪や猿といった野生の動物も大事にしていたし、普通なら忌み嫌われるねずみやヘビ、イタチのような害獣でも、自由に暮らすことを許していた。

それがもう何十年も前のことになるが、突然、村人が消えてしまった。

なぜだかわからないが、村人がひとりもいなくなった。

さあ、残された動物たちは何が起こったか誰もわからず、家畜として優雅に暮らしていた犬も猫も、害獣たちでさえ、その日の暮らしにも困る有様になってしまった。

野生の動物たちも、村人がいなくなると同じ頃に、野山にたっぷりあった木の実や野いちごなどが急に減り始め、やっぱりその日の暮らしにも困ることになってしまった。

そして恐ろしいことに、まるでなにかの病気にでも罹ったように、次々と仲間が死んでいった。

村の一番大きな屋敷に住み着いていたのが、父親のチュウ蔵、母親のチュウ美、長男のチュウ太郎、次男のチュウ次郎、三男チュウ三郎の、一家五匹のねずみの親子だった。

そして、一家は渡り鳥の雁の鶴男から恐ろしい噂話を聞かされたんだ。


「禍々しいもの」が、村からさほど遠くない場所にあって、目に見えない毒を吐き散らしているのだと。それは「294魔」と呼ばれているのだと。そのせいで、村人は去り、動物たちが次々に死の病に倒れているのだと。

それさへ追い出すことができれば、また村人が戻ってきて、豊かな村に戻るに違いない。チュウ蔵一家はそう考えた。

村からさほど遠くないと言っても、空を飛べる鶴男の話だから、実際はなかなかに遠そうだったが、チュウ蔵一家は、その「禍々しい」ものを退治することにした。

そうでなければ、誰一人、幸せになれそうもない気がしたから。

母親のチュウ美を残して、チュウ蔵親子四匹は、鶴男に教えられた通りの方角へ、悪戦苦闘、艱難辛苦、遠路遥遥、必死の思いで「294魔」に辿りついた。

確かに「294魔」は、禍々しかった。荒れた海を背景に、これ以上ないほどに荒れ果てた、魔物の栖としか思えない場所だった。

だが、そこにはなぜか人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のような白いモノが蠢いていた。

チュウ蔵親子は、作戦を練った。だが、なにをすればいいのか皆目見当もつかなかった。だが、この親子は勇気だけはあった。

とにかく、潜り込めるところに潜り込むことにした。それが習い性のようなものだから。

だが、それは無謀なことだった。

それでもチュウ蔵親子は、手分けして潜り込めるところを探し、次々に潜り込んでいった。

そして。

ついに誰一匹も戻ってこなかった。

チュウ蔵は「冷却装置の配電盤」とやらのあたりで、感電死した。チュウ太郎も「燃料プールの変圧器端子部」とやらのあたりで、黒焦げになった。

チュウ次郎とチュウ三郎は「屋外にある変圧器の内部」とやらで、やはり感電死。

人の姿をしてはいるが、顔のないまるで幽鬼のようなモノが、チュウ蔵親子の死骸を次々に見つけ、右往左往していたが、「このねずみのせいで『294魔』様は、より禍々しくなり申した」と大声で嬉しそうに喚いていた。

チュウ美は夫と子どもたちの身を案じながら、いつまでも待ち続けていたが、ある日、村一番の大きな屋敷の土蔵の天井裏のポッカリと空いた窓から、教えられていた「294魔」の方角を見ながら、命が尽きた。

その背中には、大きなコブがあったとさ。

……あ~あ、辛い話になっちゃった。
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1 コメント

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うぉ~ん (くまのマリオのポルカ)
2013-04-26 10:03:54
うぉ~ん(泣)!悲しい話だす。
やめてけれ、やめてけれ、やめてけ~れ核核♪
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