普通な生活 普通な人々

日々の何気ない出来事や、何気ない出会いなどを書いていきます。時には昔の原稿を掲載するなど、自分の宣伝もさせてもらいます。

東京「昭和な」百物語<その48>映画館

2018-12-29 15:50:21 | 東京「昔むかしの」百物語
60年も前の話。時まさに昭和の昭和たる奇跡のような時期。
映画はボクらのこの上ない娯楽だった。
テレビもまだまだ普及しておらず、雑誌の類いは男の子には「少年」「冒険王」「少年画報」、女の子には「少女」「りぼん」といった程度しかなく、少年マガジン、サンデー、キング、ましてやジャンプなどといった週刊誌など、まだ影も形もなかった。
少し年行きになると、貸本屋に足を運んだ。もっと子供の頃は紙芝居だった。
そんな中、映画は別格の娯楽だった。待ち時間の間、おじさんやお姉さんが首から飲み物やお菓子を積めた平箱を下げて、「え~、おせんにキャラメルはいかが?」と通路を練り歩く。客席に陣取ったオヤジたちは煙草を咥えながら「おい、姉ちゃんこっちだこっち」と呼ばわる。終いにはこっちが先だ、いやこっちと争いまで起きる始末。

でかすぎる予鈴が鳴っていよいよ映画の始まりだが、煙草の煙が絶えることはなく、煙幕でもかかったような館内だ。

子供心に東宝のSF物は心踊った。

「ゴジラ」「ラドン」「モスラ」などの怪獣もの、「地球防衛軍」「妖星ゴラス」なんてのも、お気に入りだった。

東映のチャンバラ物はもちろん、松竹の文芸物も、日活の活劇、中途半端な大映作品も観に行った。さすがに新東宝は、子供には刺激が強かった。

ただ、当時の日本人は、映画を観て拍手をしたり騒いだりすることはなかった。皆静かに「鑑賞」していた。

映画を観る一時を、大事な時間だと、皆思っていたに違いない。
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東京「昭和な」百物語<その49>荻窪・大塚家具

2018-12-19 13:25:01 | 東京「昔むかしの」百物語
荻窪には10歳から、およそ30歳まで、少しの出入りはあったが住んでいた。

家族と住んでいた荻窪団地を出て、彼女と阿佐ヶ谷に住んだ。20歳の時だ。

阿佐ヶ谷駅から歩いて10分ほどのオンボロアパートだった。4畳半と6畳二間の、風呂なし共同トイレの、恐ろしく昭和な2階建てアパートの2階に住んだ。

ここでは嫌な霊体験をするが、詳しくは書かない。この時期が最も肌の粟立つ体験をした時期だ。21歳。

それから新宿の富久町に転居し、彼女の実家が荻窪に建てたマンションの2階に住んだ。

やがて彼女と別れ、荻窪の北側、天沼という地域に住んだ。この時で23歳。

ここでは、2階から洗濯の水が溢れ、ボクの部屋に降り注ぐという一大イベントがあり、大家の好意で、近くのアパートに移った。ここは裏が幼稚園で、朝は早くから叩き起こされた。

この頃が24~5歳。

そうこうするうち新しい彼女もでき、また別れといった経験を経て、川南という地域に住んだ。ここも荻窪だ。ここには27歳くらいまで住んだか。

そして荻窪駅から徒歩3分のマンションに居を移した。

どこも荻窪の近辺で、まるで家族の住む荻窪団地の周囲をめぐっているだけといった感もあった。実際どこのアパートにも風呂はなく(新宿の一軒家、彼女のマンション、徒歩3分のマンションには立派な風呂があったが)実家の風呂にお世話になった。それ以外は銭湯だった。まさに昭和フォークの名曲、かぐや姫の「神田川」の世界だった。

そんな頃、数年前にお家騒動でメディアを賑わした大塚家具が荻窪にできた。その大塚家具が入っていたビルの最上階には、今でもあまり見かけない室内プールがあった。マンションの上層階にプールがあったのだ。

いま考えれば、スポーツジム的なものの一環なのかなとも思うが、そうではなく、単体でプ―ルを営業していたような気がする。それでも、なかなかハイソな印象を、荻窪という町に与えていた。

ここには、良く泳ぎに行った。なんとなく、良い感じがしたのだ。そんなこともあって、2階のワンフロアを占有していた大塚家具もよくのぞいた。

なにかハイソなイメージで、行く度に場違いな印象を持ったものだが、家具自体は一見して質も良く、確かベッドを買った記憶がある。

思うに荻窪という町は、落ち着きと涼しげな印象を与えてくれた。涼しげというのは、空気感の話だ。

正直、今でも荻窪に住みたいと思う。ただ大塚家具ではないが、町にも栄枯盛衰はある。荻窪はずいぶん前から年よりの町になっている。

そういう意味ではボクには丁度いいのだ。

ただ懐かしいさまざまのものは、すでにない。もちろん大塚家具も、ない。

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