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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

往年の「TVチャンピオン」を思い出す、 「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

2022年08月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

往年の「TVチャンピオン」を思い出した

「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

NHK総合

 

目立たない番組だが、見逃すには惜しい1本がある。火曜よる11時「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」(NHK総合)だ。

世の中には、業界団体の内部だけで開催されているコンテストが存在する。一般の人が目にすることのない、超専門的技術や驚きの特殊技能が披露され、競われている。番組はそこにカメラを入れたのだ。

たとえば林業事業者による「木を伐る」技術を競う大会。チェーンソー1台で狙った場所に木を倒す「伐倒」や丸太の「輪切り」などで競い合う。求められるのは正確、安全、速さの三拍子だ。

また「包帯を巻くだけ」のコンテストもある。柔道整復師と呼ばれる人たちが、骨折や捻挫などの損傷部分を固定し、痛みを和らげるのだ。速さはもちろん、実用性や巻きの美しさも評価される。

わずか4分の間に肩の関節、人差し指、両足の関節など5カ所を固定していく決勝。ところが優勝候補の女性が包帯を落としてしまう。彼女はその時点で無念の失格だ。

見ていて、往年の「TVチャンピオン」(テレビ東京系)を思い出した。何人もの「〇〇王」を生んだ人気番組だったが、大きな違いがある。あちらは、テレビが設定した「競技種目」と「ルール」で競い合うエンタメだ。

しかし、こちらは業界全体の発展を目的とするマジな大会。一見地味な内容と超難度テクニックの落差が快感を呼ぶ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.08.03)


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(3)

2022年08月04日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(3)

 

本当に死にたくなった。鬱がひどかった時期

これまで何十年間も、倉本は膨大な数の作品を書いてきた。だが、時には筆が進まないこともあったのではないか。

「ありますよ。何度か鬱にもなったしね。特に富良野に来てからのある時期がひどかった。毎晩、自殺したくて仕方なかった。そんな時、中島みゆきが新しいアルバムのパイロット版を送ってくれたの。それが『生きていてもいいですか』。『異国』とか、『うらみ・ます』とか、名曲揃いのアルバムで、最高傑作だと思うんだけど、とにかく暗い(笑)。夜、ひとりで酒を飲みながら聴いてたら本当に死にたくなった。 ちょうど冬場でね、表はマイナス28℃とか30℃とかだったから、睡眠薬飲んで、ジープの中に入って寝ちゃえば死ねるなと思った。で、うちの玄関って二重扉になってて、風除室があるんだけど、そこで犬飼ってたわけ、北海道犬を。ヤマグチという名前の犬で、山口百恵ちゃんから取って。そのヤマグチが、外に出ようとする僕の上着の端を咥えて、引っ張るんですよ。なんか異様な顔して。それで僕、ハッと我に返った。つまり、山口百恵という生き神と、中島みゆきという死に神が綱引きした結果、何とか生き延びたってわけです(笑)。 それで精神科医の診断を受けたらね、『この季節になると毎年、鬱が出ますよ』と言われた。ところが、春になったらストンとなくなったの。翌年も出なかった。その理由だけどね、ここの自然が僕の入植を許してくれた、受け入れてくれたんだなと思った。無理に抵抗するんじゃなくて、自分を投げだすというか、自然に身を委ねたのがよかったのかもしれない」

そんな倉本も世の中に対して腹を立てたり、憤ったりすることは少なくないはずだ。以前、怒りが書くためのエネルギーになるとも語っていた。

 「怒りをエネルギーにするんだけど、書くというのは非常に冷静な作業ですからね。怒ったままじゃ書けない。だから、怒りを一度心の中に落としこむ。自分を抑えてクールダウンする。僕の場合、そんな『間(ま)』を入れる方法がタバコでしょうね。 本質的な気分転換をするには、それぞれのやり方があると思うんだ。でもね、タバコが流行ってた時代のほうが、今よりも平和だったんじゃないか。タバコがなくなってから、みんなイラつき始めたんじゃないかって気がしてしょうがない。 昔もね、煙が迷惑な人もいたでしょうけど、迷惑ってことを言い広げたのは医者なのね。そんなことを皆に気づかせなければ、今みたいな忌避反応は起きなかったはずで、社会を住みにくくしたのは医者だよね(笑)」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>


【気まぐれ写真館】 それにしても、暑すぎでしょう。

2022年08月03日 | 気まぐれ写真館

2022.08.03


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(2)

2022年08月03日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(2)

 

知識ではなく知恵によって生みだすことが「創る」こと

倉本はこれまでも今も、毎日必ず原稿用紙に向かっている。まさに1日3㎝の積み重ねによって、長い連続ドラマもできあがっていくのだ。倉本にとって、書くことは日々を生きることと同義かもしれない。

「書くというより、創るということをしてるんだろうね。『創作』という言葉があるじゃないですか。創と作、両方とも『つくる』でしょ? でも、意味が違うんですよ。『作』の『つくる』ってのはね、知識と金を使って、前例に倣(なら)って行うことです。 それに対して、『創』のほうの『つくる』は、前例がないものを、知識じゃなくて知恵によって生みだすことを指す。この『創』の仕事をしてるとね、楽しいわけですよ。でも、多くの人は『作』をやってる。特に都会のビジネスマンは、ほとんど『作』の仕事をさせられてるじゃないですか。だから、ストレスが溜まるんだと思う。 全部『創』の仕事にしちゃうとね、苦しくもなんともない。肉体的にはハードだけど、寝て起きりゃ直る。でも、『作』ばっかりだと精神的によくない。仕事は、意識して『創』のほうに寄せてくといいんです」 「作る」ではなく、「創る」こと。その姿勢はどんな職業の人間にも有効だし、自分なりの応用ができそうだ。 「創るということは生きることだけど、遊んでいないと創れない。同時に、創るということは狂うことだと思う。だから、『創るということは遊ぶということ』『創るということは狂うということ』『創るということは生きるということ』というのが僕の3大哲学ですね」

「遊ぶ」にしろ、「狂う」にしろ、倉本だからこそ到達した境地だと言える。「もう少し説明してもらえますか」とお願いしてみた。

 「僕の言う『遊ぶ』ってのは、楽しむことだよね。自分が楽しむ。実はね、今、全11回の連続ドラマの新作を書いてるんですよ。放送の予定も、何もないシナリオです。それを、僕はすごく楽しんで書いている。シノプシス(粗筋)の段階で何度も書き直して、でもその都度、内容は螺旋状の進み方でよくなっていく。楽しんでいないと、そんなアウフヘーベン(高い次元への進化)は起きないですよ。 それから、『狂う』ってのは、熱中するってことでしょうね。今は書籍なんかで使うと、すぐ差別用語だって削られちゃうけど、意味合いとしては熱中するということ、もっと言えば熱狂することだと思う」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>


【気まぐれ写真館】 猛暑日の夕景

2022年08月02日 | 気まぐれ写真館

2022.08.02


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(1)

2022年08月02日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(1)

 

『前略おふくろ様』や『北の国から』など、人々の心に残る名作を生みだしてきた脚本家、倉本聰。80歳を過ぎて『やすらぎの郷』や『やすらぎの刻~道』を手がけただけでなく、87歳の現在も”新作”に挑んでいる。北海道・富良野に倉本を訪ねた目的は、たったひとつだ。なぜ60年以上も書き続けられるのか。それが知りたかった。

文明社会では時間が金銭として換算される

富良野市街から少し離れた森の中に、倉本聰の仕事場がある。天井が高い丸太造り。目の前に木々の緑が広がる大きな窓。富良野塾を開いていた頃からのアトリエである。執筆や点描画の制作、そして客人と向き合うのもこの場所だ。

「富良野に移住したのは42歳の頃なんです。そこからもう一度人生が始まっちゃった。自分の身体の中のエネルギーを使う生活がね。それまでは頭で生きてたというか、都会人の感覚でしたから。 ところが、こっちに来たら全然違うことがわかった。都会の生活って全部、何かの代替エネルギーで暮らしてるよね。でも、ここでは自分のエネルギーで暮らすしかない。しかも、知識なんて全然役に立たないことを思い知った。知恵で生きないとダメだって」

1981年から20年以上も続いた、代表作『北の国から』。主人公の黒板五郎(田中邦衛)一家が、廃屋で暮らし始めた第1話を思いだす。確か、五郎のモチーフはロビンソン・クルーソーだったはずだ。

「このアトリエに入ってくる時、通った林道があるでしょ? 移住当時はまったく整備されてなくて、でっかい岩が路面にはみだしてたんです。いつもクルマの片輪が乗り上がるんで、移動したい。でも、自分の力じゃどうにもならない。その時、近所の農家の青年に『あの岩を動かしたいんだけど、あなただったらどうする?』って聞いてみた。 そしたらね、『やらねばならんなら、やるよ』って言うんだ。 『どうやって? 道具も重機も何もないんだけど』って心配したら、『剣先のスコップを持ってきて、岩の回りを掘る』と。ぐるっと掘って、岩をむきだしにする。次に丸太をテコにして、じわじわと四方から浮かしていく。『丹念にそれをやったら、1日に3㎝ぐらい動くんでないかい? 30日(1ヵ月)もやったら1mは動く』って当たり前のように言われた。 これにはひれ伏しちゃったね。つまり、僕らの感覚では1日に3㎝ってのは動かないって範疇(はんちゅう)ですよ。でも、1日3㎝とはいえ、確かに動くんだ。文明社会のなかでは、時間が金銭として換算されちゃってるよね。そういう考え方はもうやめようと思った」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>

 

 


【新刊書評2022】3月後期の書評から 

2022年08月01日 | 書評した本たち

鳩サブレ―の手動式クリーナー「hatoson 810」

 

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年3月後期の書評から

 

 

塩澤幸登『人間研究 西城秀樹』

河出書房新社 2970円

西城秀樹が亡くなったのは2018年5月。63歳だった。本書はその全体像に迫る画期的な一冊だ。まず著者が雑誌『平凡』などに書いてきた、リアルタイムの肖像がある。さらに1972年のデビューから全盛期を経て死後まで、各時代の新聞や雑誌に載った多くの記事も資料的価値が高い。浮上してくるのはアイドルという概念を超えた「昭和期のあたらしい文化創出をになった人間」としての西城秀樹だ。(2022.02.25発行)

 

尾崎一雄:著、萩原魚雷:編『新編 閑な老人』

中公文庫 990円

「令和の時代に尾崎一雄?」と言う勿れ。新鮮な驚きに満ちた小説と随筆が並ぶ、文庫オリジナルだ。確かに尾崎は私小説作家だが、苦悩を拡大鏡で見せる人ではない。その不思議な明るさは「厭世の果ての楽天」だ。人生の切なさを承知の上で、「この世に生きていることが楽しい」と言い切る。描き出される生活の喜びや人生の肯定感がやけに胸にしみるのは、むしろ今の時代だからこそかもしれない。(2022.02.25発行)

 

芦原 伸『旅は終わらない~紀行作家という人生』

毎日新聞出版 2090円

現在76歳の著者は、雑誌『旅と鉄道』『SINRA』などの元編集長。自伝的エッセイ集である本書は、人生もまた旅であることを実感させてくれる。北大卒業後、鉄道ジャーナル社を経てフリーランスに。記者・編集者・経営者という三足の草鞋も珍しい。代表作『へるん先生の汽車旅行―小泉八雲と不思議の国・日本』は、著者ならではのノンフィクションであり、元祖“旅する評伝作家”の真骨頂だ。(2022.02.28発行)

 

江成常夫『花嫁のアメリカ 完全版』

論創社 3960円

戦後、進駐軍兵士と結婚して海を渡った「戦争花嫁」。1978年に彼女たちを取材した写真集が『花嫁のアメリカ』だ。そして20年後、再び会いに行った江成は『花嫁のアメリカ/歳月の風景 1978-1998』を上梓する。本書は2冊の合本だ。結婚する際に受けた非難。渡米後の慣れない生活と故国への思い。自分の手で築いてきた、それぞれの幸福。凝縮した歴史が人物の形となり、何かを問いかけ続けている。(2022.03.01発行)