碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2022】4月後期の書評から 

2022年08月20日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年4月後期の書評から

 

 

福岡伸一『ゆく川の流れは、動的平衡』

朝日新聞出版 1870円

「動的平衡」は著者の生命論のキーワードだ。動き続けるのが生命体であり、部分が入れ替わることで全体としての恒常性を保つ現象を指す。本書は新聞連載のエッセイ集だ。「欠陥や障害はマイナスではない。それは本質的に動的な生命にとって、常に新しい可能性の扉を開く原動力になる」。身近なエピソードを素材に、独自の視点と知見をもとに語る“感慨”が、日常の見え方を少し変えてくれる。(2022.03.30発行)

 

小国士朗『笑える革命~笑えない「社会課題」の見え方が、ぐるりと変わるプロジェクト全解説』

光文社 1870円

著者は『プロフェッショナル 仕事の流儀』などを制作してきた、元NHKディレクター。現在は認知症やがん、LGBTQといった「社会課題」と向き合うプロジェクトを推進している。たとえば、認知症の人たちによるレストラン「注文をまちがえる料理店」の運営などだ。本書ではユニークな取り組みの全貌を企画・表現・着地・流通などのキーワードで語っていく。リアルな「笑える革命」だ。(2022.03.30発行)

 

冬木透、青山通『ウルトラ音楽術』

インターナショナル新書 924円

『ウルトラセブン』の放送開始は1967年。子ども向け番組の枠を超えた深い世界観は、今も多くの人を魅了する。その音楽を手掛けたのが作曲家の冬木透だ。本書は今年87歳になる冬木の音楽的回想録である。『セブン』の音楽を支えていたのは幼少期からのクラシック体験だった。また使用楽曲の解説では、なぜ最終回でシューマン「ピアノ協奏曲」を流したのか、半世紀以上前の謎も明かされる。(2022.04.12発行)

 

横尾忠則『原郷の森』

文藝春秋 4180円

主人公の名はY。語り手でもある芸術家の「俺」が通うのは、時空を超えた「原郷の森」だ。そこで古今東西の芸術家と交わされる膨大な対話こそが、この“芸術小説”のすべてだ。頻出する三島由紀夫が、『豊饒の海』は「遺書であったかも知れない」などと語る。他の常連は澁澤龍彦、谷崎潤一郎、永井荷風ピカソ、デュシャンなど。ジョークを飛ばすプラトンも登場する、横尾版『饗宴』だ。(2022.03.25発行)

 

五木寛之『折れない言葉』

毎日新聞出版 1540円

心が折れそうになった時、支えてくれたのは「月並みな格言、名言、ことわざ」だったと著者。本書では実例を挙げながら感想を述べていく。聖書の言葉から羽生結弦の「努力はむくわれない」までが並ぶが、疑問や反発も提示するところが著者ならでは。「五十歩百歩」を平面ではなく、上下の階段と見れば違いは大きい。また、「明日できることは、明日やろう」が信条だと言われてホッとする。(2022.03.30発行)

 

森 晴路『図説 鉄腕アトム』

河出書房新社 2200円

漫画連載開始から約70年。鉄腕アトムは、現在もロボットの代名詞にして理想形であり続けている。本書は手塚治虫の“アトム像”を豊富な図版と「構想ノート」などの資料で集大成した一冊だ。漫画とアニメの関係も含め、手塚が追い求めていたものが見えてくる。著者は前手塚プロダクション資料室長。手塚治虫記念館で開催中(6月27日まで)の「ぜ~んぶ鉄腕アトム展」公式図録でもある。(2022.03.30発行)