碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【旧書回想】  2020年11月後期の書評から 

2022年08月23日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

週刊新潮に寄稿した

2020年11月後期の書評から

 

 

佐藤優『池田大作研究~世界宗教への道を追う』

朝日新聞出版 2420円

今年、創立90周年を迎えた創価学会。827万の会員世帯数を誇り、政権党の一つを支える巨大組織だ。本書の目的は「創価学会の内在的論理」を捉えること。そのために第三代会長、池田大作の軌跡を検証していく。生い立ち、戦争体験、入信、政治への姿勢、さらに過去の事件や「政教分離」の本質にも迫る。キリスト教と比較しながらの分析は著者の独壇場。「人間革命」の真の意味も見えてくる。(2020.10.30発行)

 

松田行正『デザイン偉人伝』

左右社 2200円

著者は「デザインの歴史探偵」を自称するグラフィック・デザイナーだ。専門である「本のデザイン」を軸に、出版者、画家、デザイナーなど先駆者16人の発想と手法を検証していく。斬新な「レイアウト」を生み出したマラルメ。「余白」の魔術師、長谷川等伯。「トリミング」の達人、俵屋宗達。そしてアート行為としての「選ぶこと」を発見したデュシャン。デザインの歴史は「人」にある。(2020.10.01発行)

 

勝目梓『落葉の記』

文藝春秋 2200円

作家の勝目梓が亡くなったのは今年3月。87歳だった。最後の作品集である本書には、7つの短編小説と長編「落葉日記」が収められている。絶筆となった「落葉日記」は、晩年を生きる男が書き続ける日記の形を借りた心境小説だ。リタイア後の日常で味わう小さな愉しみ。ペットの死をきっかけとした妻との諍い。そして妻自身の突然の事故死。作家は最期まで虚実皮膜の小説世界を創り続けた。(2020.10.25発行)

 

堀内誠一、谷川俊太郎『音楽の肖像』

小学館 2750円

アートディレクター、絵本作家として知られる堀内誠一。長くフランスで暮していたが、仕事中はいつも音楽を流していたという。本書には堀内が愛した音楽家たちの肖像とエッセイが並ぶ。ワルシャワでショパンが見た旧市を再建した風景と出会い、ライプツイヒの居酒屋でシューマンと同じ席に坐ってビールを飲む。谷川俊太郎の書下ろしを含む32篇の詩と、堀内作品が響き合う贅沢な一冊だ。(2020.11.04発行)

 

正津 勉『つげ義春 「ガロ」時代』

作品社 2420円

日本初の青年漫画誌「月刊漫画ガロ」の創刊は1964年夏だ。翌年、つげ義春作品の掲載が始まった。つげ漫画の転換点となった「沼」。フォーク・ロア(民間伝承)の色彩を強めた名作「紅い花」。風土と人間を見つめた「ほんやら洞のべんさん」。そして井伏鱒二との影響関係も興味深い「山椒魚」。詩人で文筆家の著者は時代背景を踏まえながら、つげの「ガロ」代表作16篇を大胆に分析していく。(2020.11.25発行)

 

フィルムアート社編『そして映画館はつづく』

フィルムアート社 2200円

コロナ禍の中で「不要不急」とされた映画。特にミニシアターは大きな打撃を受けた。本書は「映画館で映画を見る」ことの意味を考える一冊だ。語るのは函館のシネマアイリスやシネマ尾道など各地の映画館で仕事をしている人たち。さらに映画監督の黒沢清や女優の橋本愛も「映画館という場所」の意義を伝えていく。DVDや動画配信とは異質の映像体験。「上映」という営為は決して終わらない。(2020.11.25発行)

 

櫻井秀勲『三島由紀夫は何を遺したのか』

きずな出版 1650円

著者は元「女性自身」編集長。直に三島由紀夫と接してきた体験をもとに、その作品から壮絶な生きざまを振り返っている。著者が太宰治と数日間を過ごしたこと、そして保田輿重郎の鞄持ちだったことが三島の信頼を得るきっかけだった。確かに「日本浪曼派」と「蓮田善明」は三島解読のキーワードだ。また、三島が「覚悟を決めた一冊」だと著者が言う、『葉隠入門』も再読したくなってくる。(2020.11.25発行)