鳩サブレ―の手動式クリーナー「hatoson 810」
【新刊書評2022】
週刊新潮に寄稿した
2022年3月後期の書評から
塩澤幸登『人間研究 西城秀樹』
河出書房新社 2970円
西城秀樹が亡くなったのは2018年5月。63歳だった。本書はその全体像に迫る画期的な一冊だ。まず著者が雑誌『平凡』などに書いてきた、リアルタイムの肖像がある。さらに1972年のデビューから全盛期を経て死後まで、各時代の新聞や雑誌に載った多くの記事も資料的価値が高い。浮上してくるのはアイドルという概念を超えた「昭和期のあたらしい文化創出をになった人間」としての西城秀樹だ。(2022.02.25発行)
尾崎一雄:著、萩原魚雷:編『新編 閑な老人』
中公文庫 990円
「令和の時代に尾崎一雄?」と言う勿れ。新鮮な驚きに満ちた小説と随筆が並ぶ、文庫オリジナルだ。確かに尾崎は私小説作家だが、苦悩を拡大鏡で見せる人ではない。その不思議な明るさは「厭世の果ての楽天」だ。人生の切なさを承知の上で、「この世に生きていることが楽しい」と言い切る。描き出される生活の喜びや人生の肯定感がやけに胸にしみるのは、むしろ今の時代だからこそかもしれない。(2022.02.25発行)
芦原 伸『旅は終わらない~紀行作家という人生』
毎日新聞出版 2090円
現在76歳の著者は、雑誌『旅と鉄道』『SINRA』などの元編集長。自伝的エッセイ集である本書は、人生もまた旅であることを実感させてくれる。北大卒業後、鉄道ジャーナル社を経てフリーランスに。記者・編集者・経営者という三足の草鞋も珍しい。代表作『へるん先生の汽車旅行―小泉八雲と不思議の国・日本』は、著者ならではのノンフィクションであり、元祖“旅する評伝作家”の真骨頂だ。(2022.02.28発行)
江成常夫『花嫁のアメリカ 完全版』
論創社 3960円
戦後、進駐軍兵士と結婚して海を渡った「戦争花嫁」。1978年に彼女たちを取材した写真集が『花嫁のアメリカ』だ。そして20年後、再び会いに行った江成は『花嫁のアメリカ/歳月の風景 1978-1998』を上梓する。本書は2冊の合本だ。結婚する際に受けた非難。渡米後の慣れない生活と故国への思い。自分の手で築いてきた、それぞれの幸福。凝縮した歴史が人物の形となり、何かを問いかけ続けている。(2022.03.01発行)