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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

FRIDAYで、ドラマ「注目度」ランキングについて解説

2023年05月30日 | メディアでのコメント・論評

 

 

 

「本当に視聴者が注目した」

春ドラマランキング

1位になったのは

意外すぎる”あの作品”だった!

 

4月にスタートした春ドラマもそろそろ中盤。各作品がしのぎを削る中、関係者がその上下に一喜一憂している数字が視聴率だ。

しかしこの視聴率、若い世代のテレビ離れが進む中で、必ずしも「世の中に広く支持されている」ことを表す数字ではないというのが一般的な認識だ。近年ではコア視聴率やタイムシフト視聴率というものもあるが、一般には知ることができないため、記事などで書く場合はこれまでの視聴率に加えて見逃し配信の再生回数を人気のバロメーターとして使うケースが多い。

そんな中でREVISIO㈱では実際にテレビ画面が「視られている量」を測定、視聴データを作成している。人体認識技術を搭載した調査機器を設置し、調査参加者の視聴態勢を毎秒で自動的に取得。「誰がテレビの前にいて、ちゃんと見ているか」という独自の注視データを作成しているというのだ。

つまり、従来の視聴率がどれだけたくさんの人が見ていたかをカウントするのに対して、「その人がどれだけちゃんと画面を見ていたか」という数値を計測するというのだ。同社の計測データをもとに作成した4月ドラマの初回放送における「注目度」ランキングを見てみよう。

 

23年4月クールドラマ初回放送注目度ランキング(個人全体注目度、10位まで)

 1位『らんまん』 69.0%

2位『王様に捧ぐ薬指』 67.7%

3位『ペンディングトレイン』 67.4%

4位『ラストマン』 65.7%

5位『Dr.チョコレート』 64.4%

6位『unknown』 63.6%

7位『合理的にあり得ない』 62.1%

8位『風間公親-教場0-』 61.0%

9位『特捜9 season6』 60.4%

10位『だが、情熱はある』 60.4% ち

 

なみに初回視聴率のランキングは以下のようになっている(ビデオリサーチ調べ)。

4月スタートドラマ初回視聴率ランキング(10位まで)

 1位『らんまん』 16.2%

2位『ラストマン』 14.7%

3位『風間公親-教場0-』 12.1%

4位『特捜9 season6』 9.4%

5位『合理的にあり得ない』 9.3%

6位『Dr.チョコレート』 8.6%

7位『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』 8.4%

8位『unknown』 7.6%

8位『ペンディングトレイン』 7.6%

10位『王様に捧ぐ薬指』 7.5%

 

4月スタートのドラマということなので朝ドラ『らんまん』が1位に入っているが、朝ドラということで、ここでは別格扱いとしたい。

それにしても、この「注目度」でも視聴率でもダントツの1位ということで、あらためて朝ドラの偉大さを確認した形だ。 『らんまん』以外でベスト3となる3作品は1位『王様に捧ぐ薬指』、2位『ペンディングトレイン』、3位『ラストマン』となる。

視聴率でのベスト3は、1位『ラストマン』、2位『教場0』、3位『特捜9』なので、かなり顔ぶれが違う点が興味深い。ちなみにあくまでこれは初回に限ったもの。

この「注目度」ランキングと視聴率でのランキングの違いから何が見えてくるのかをメディア文化評論家の碓井広義氏に分析してもらった。

「視聴率は見た人の数を、この注目度は見てみた人がどう見たのかということですよね。ベースが違うので単純に比較することはできないんだけど、見方としては面白いと思います。それにしても『王様に捧ぐ薬指』が、いきなりトップというのには驚きました」

なぜ碓井氏が驚いたかというと、『王様に…』に続く4作品に関しては「注目度」が高い理由が推測できるからだという。

「『ペンディングトレイン』、『ラストマン』、『Dr.チョコレート』、『unknown』の4つは、電車が乗客ごと異世界に飛ばされてしまったり、捜査官が全盲だったりと、今までに見たことがない、もしくは今までの作品とは少し違うぞ、という新規性が非常に強い作品なんです。そしてポイントはこのランキングが初回放送回のものだということ。これらの新規性の強い作品がどんなドラマなのか視聴者は分かっておらず、次回も観るべきかどうか判断できない状態なのです。まずはどんなドラマなのか理解したいという気持ちが、この注目度に表れているのだと思います」

従ってそういった新規性が少ないと思われる『王様に…』がトップに来ているのが意外なのだと言う。

確かに同作品は橋本環奈演じる貧乏女子と山田涼介の御曹司が繰り広げるラブストーリーで、定番のラブコメといったテイストの作品。新規性は薄い。

「この作品は視聴率では10位でかつ注目度が高いということは、決して幅広くない層、つまり〝お好きな方たちがしっかり観ている〟ということなんですね。出演者の山田涼介さん、橋本環奈さんのビジュアルも素晴らしいですし、そのキラキラした世界に浸りたい人たちがじっくりと観ているのではないでしょうか」

また、『教場0』『特捜9』『ケイジとケンジ』などの刑事物ドラマは視聴率は良いものの、注目度でいうと軒並み低い結果となっている。

「『特捜9』と『ケイジとケンジ』はシリーズものです。これらの作品の視聴率の高さを支えているのは、以前から観ている人たち。ある程度パターンが分かっているから、途中でトイレに行くぐらいは大丈夫なんです。これらの作品の視聴者は自分の予測を大きく外れることのない、いつもの世界、いつものパターンを楽しみたいんです。いわば視聴者は身内でその世界を楽しむうえではじっと画面に集中していなくてもいいんですよ。『教場0』の場合は最初に犯人がわかる倒叙ミステリーということで、視聴者も少しひいて観ることができるということなのかもしれません」

碓井氏によると、視聴率と注目度を見ることで作品ごとの制作側の姿勢も見えてくるのだという。

「テレビ全体の視聴率が下がっていて、昔のように数字が取れなくなっている状況で、お客さんのニーズを大事にしているのが『特捜9』であって、お客がついてこれないような展開にはしないわけです。逆に『ペンディングトレイン』などの新規性の強い作品は新たなニーズを作り出そうというチャレンジをしているんです。そういう作り手の姿勢もちょっと見えますよね」

注目度ランキングが示すものは、必ずしも注目されているから面白い、という単純な話でもないようだ。だが、この「注目度」は視聴率とはまた違った視点での指標になりうるのかもしれない。

(FRIDAYデジタル 2023.05.29)