NHK内部からの声
最近のNHKに対して違和感があった。
たとえば、昨年末にBS1で放送された「河瀨直美が見つめた東京五輪」。一般男性の取材映像に「お金を受け取って、五輪反対デモに参加した」という事実無根の字幕を表示していたのだ。
なぜこんな番組作りがまかり通ってしまったのか。
発売中の「文藝春秋」6月号に、「前田会長よ、NHKを壊すな」が掲載された。
10ページに及ぶ文章を寄稿したのは「職員有志一同」。番組制作局や報道局などに所属する、30代から50代の十数名だ。現在NHKが陥っている危機的状況について書かれている。
問題は、銀行出身の前田晃伸会長が推し進める「改革」の実態だという。
「縦割り制度の打破」をうたい文句に、記者・ディレクター・アナウンサーなどの職種に分かれていた「放送」職を、まとめて「コンテンツクリエイター」とした。
加えて、「放送」「技術」「管理」といった職種別採用も廃止してしまったのだ。
これまでNHKは職種別の人材育成システムを活かし、高いレベルの専門性とスキルを武器にしてきた。
前田会長の主張は「ジェネラリストを養うことが大事」とのことだが、一概にそう言えないのが放送の世界だ。
大阪放送局では、文化番組部、芸能番組部、報道番組部を統一して「コンテンツセンター」が作られた。ディレクターの専門性も責任の所在も曖昧になり、その結果があの五輪番組だったのだ。
次に、極端な「コストカット」が断行されている。
前田会長は昨年1月に「経営計画」を発表し、事業規模の10%にあたる約700億円の経費削減を宣言。2波ある衛星放送も1波に統合される予定だ。
有志たちは、すでに「ドキュメンタリー文化の荒廃」が始まっていると警鐘を鳴らす。
さらに50代以上の職員の「リストラ」も進んでいる。しかし、NHKの番組の品質を維持してきたのは、この年代の作り手だったのではないか。
縦割り打破、コストカット、そしてリストラ…。
当然だが、NHKは民間企業ではない。経済的合理性よりも優先されるべきは、社会の公器として国民の知る権利に応えることだ。
有志たちが問いかけているのは「公共放送の意義」である。
(しんぶん赤旗 2022.05.23)